第3話
彼は、滝の根城には戻らず、山の中を彷徨っている。人を避けるように山へ山へと向かっていた。
ジャングルのような密集した木々の中を抜けると、開けた場所に出た。目の前には切り立った崖があり、自然が人を近付けないように拒んでいるようだ。
彼は、崖に沿って歩き出す。そして、岩の切れ目に人が入れるくらいの穴を見つけた。奥に続いているようだ。彼は、躊躇する事なくその洞穴に入って行く。
洞窟の中は、暗かったが、邪魔な物は消して進んだ。すると、何処からか声が聞こえる。理解できない声だ。人では無いのかも知れない。
彼は、更に奥に進むと、豚が二足歩行している奇妙な生物に出会う。オークと呼ばれている化物だ。
オークは、侵入者が来た事を仲間に伝える。奥から、数えきれない程のオークが斧や剣を持ち襲いかかって来た。
彼は、そのオークに向けて手を翳した。その瞬間、あれだけの数のオークが消えてしまった。
彼は、消す事によって、身体が楽になる事を知っていた。レベルが上がったのだ。しかし、彼には、レベルという概念は存在していない。ただ、襲いかかるオークを消し去るだけだった。
次から次へと襲いかかるオーク。弓を扱う者もいたが、悉く彼は、その豚の化物を消し去っていた。
そして奥から先程とは比べ物にならない大きな豚が現れた。キングオークと呼ばれる化物だ。大きな斧を背負い不敵な笑みを浮かべている。
しかし、彼のやる事は決まっていた。ただ、手を翳し、そのデカい豚を消し去るだけだ。
一瞬で消え去ってしまったそのデカい豚は、この洞窟の主だったようだ。残ったオークが逃げ惑う。彼は、躊躇する事なく、逃げるオークを消し去る。
残ったのは、水滴が落ち、洞窟内に響きわたる静寂さだけだった。
このオークの住処には様々な財宝があった。金銀の硬貨や剣や槍などの武具。そして、皮でできたバッグや衣服。彼は、短剣と一掴みの硬貨をバッグの中に入れた。すると、そのバッグに物が入った途端、吸い込まれるように消えて無くなる。
亜空間バッグという物だ。しかし、彼は、それ以上は手を付けず、そこにあった衣服をバッグにしまい、そして、その洞窟から出て行った。
次に彼が向かった先は、山の頂上だ。身体が軽く、ジャンプ力も増している。彼は、身軽に動ける身体を手に入れたようだ。
時より、噴煙をあげるその山の上には、邪龍と呼ばれりる魔物が住んでいた。村里から人を攫って食料にしているこの世界の厄介者だ。
彼は、ただ、頂上に登り、そこからの景色を見たかったに過ぎない。
彼なりに、この世界がどのような世界なのか知りたかったのかも知れない。
彼は、山の頂上の突き出た岩場に立ち、周りを眺める。
しかし、彼は、自分で記憶を消してしまっている。周りを見ても見慣れた物は存在していなかった。
すると、背後から咆哮が聞こえる。
ここを住処にしている邪龍だ。
邪龍は、口を大きく開け火炎を繰り出す。
彼は手を翳して、その火炎を消してしまった。
そして、彼は、
邪龍に向け手を翳して、その邪龍を消し去ってしまう。
何事も無かったように、彼は、その岩場に寝転んだ。
星が輝き始めるまで……
◇◇◇
天界では……
「いないなぁ〜〜何処行ったんだ〜〜彼は? 」
女神ミサリーは、彼を送り出した世界の町を覗いていた。しかし、何処を探しても見つからない……
「もしかしたら、人里を離れてるの? 山? 海? 山から探してみようか……」
女神ミサリーは、その世界の山を探し始めた。すると、
「あっ! いた! 彼だわ〜〜何こんな山奥に来てるのよ〜〜しかも、そこって、確か、邪龍が住んでいる場所よね。死にたいのかしら……」
天界のシステムで、その者のレベルを見ることができる。女神ミサリーは、彼のレベルを見て、
「わぁーー! 」
驚いて、椅子から転げ落ちてしまった。
「嘘、嘘だよね〜〜経った一ヶ月でこんな事有り得ない……」
女神ミサリーは、見間違いかと思い、もう一度、水晶玉を覗き込む。彼のレベルを表示させると、
「間違いない……大変、報告しなくちゃっ……」
その世界での人のレベルは平均で20〜30。優秀な者でも50を越えれば良い方だ。
しかし、水晶玉に映し出されていた彼のレベルは570となっていた……