第37話
『ニョロニョロ……ガサガサ……』
セリーヌの山荘にいるヒュドラの分身の白い蛇は、散歩中のようだ。屋敷の中を好き勝手に動き回っている。
ある部屋に行くと、そこには、黒い執事服を着た爺さんが鏡を見ながら自慢のヒゲを整えていた。
「うーーむ、今日は、イマイチ、決まりませんなぁ、雨でも降るのかもしれませんね〜〜」
『ニョロニョロ……』
ここは、つまらないらしい。白い蛇は、次の部屋の向かった。
「ちょっと、お腹周りが太ったのかしら〜〜この服、きつくなったわ。ダイエットしないとダメかしら〜〜1、2、3、4……」
侍女のマリーナの部屋のようだ。いきなり運動を始めたマリーナに驚いた蛇は、慌てて次の部屋に潜り込む。
「この世界の文字は、古代エジプトで使われていたヒエログリフに似ているが、いや、ヒエラティックだったかな? 」
メガネを『クイッ、クイッ』っとしながら、机で勉強している研一の側に行ったが、つまらなそうなので、また、部屋を出て行った。
次の部屋に入ると、そこには、寝ている竜の赤ちゃんがいた。白蛇が覗き込むと、
『ピリュルルルル! 』『どうしたの? ピピ』
怒ったように泣き出したので、慌てて隠れ次の部屋に入り込む。
『ムシャ、ムシャ……ボリ、ボリ……』
その部屋の主は、ベッドに座り、焼き菓子を食べていた。それを見ていた白蛇は、その部屋の主に捕まってしまった。
「白ヘビちゃん。遊びにきたの? お菓子あるよ。一緒に食べよう」
部屋の主は、手毬だった。白蛇は、手毬から手渡された焼き菓子を飲み込む。その姿が可愛かったらしく、手毬は、白蛇を抱きしめた。
『ボイン〜〜ボイン〜〜』
手毬の胸に押し付けられた白蛇は、苦しくなり『スルスル』とそこを抜け出す。
「どこ行くの〜〜待って〜〜白ヘビちゃん」
手毬の呼び止める声も虚しく、白蛇は、その部屋を後にした。
セリーヌの部屋に戻った白蛇は、お気に入りの籠の中で休む。ここが一番落ち着くようだ。
「白ヘビさん、どこに行ってたのですか? 」
セリーヌの顔を見ながら、細く赤い舌をペロリと出す。返事のつもりらしい。その時、ササから連絡が入った。
…………………
「そうだったのですか……ルル様は、どうされてますか? 」
『落ち込んでいます』
「無理もないです……これから、どうされますか? こちらにお戻りになられますか? 」
『まだ、わかりませんが、今は、湖のほとりで過ごしています。落ち着いたら、また、連絡しますね』
「わかりました。皆さまにも、宜しくお伝えください」
『はい』
「私に何かできる事はないかしら……」
セリーヌは、ルルの顔を思い出しながら、心を痛めていた。
◇◇◇
ハク達は、あの後、一晩過ごした湖のほとりの洞窟に戻り、数日を過ごした。
ルルの気持ちの整理ができるまで、みんなは待つつもりのようだ。
ヒコになっているヒュドラは、湖を気持ちよさそうに泳いでいる。
ハクは、寝そべりながら、目を閉じていた。
ササは、ルルの事が気になるらしい。ルルのそばに寄り添いながらも時々、森に入り美味しそうな果物を採ってきて、食欲のないルルに何とか食べさせようとしていた。
「ルルちゃん。これ美味しいですよ。少し食べてみますか? 」
「いらない……」
「食べないと身体壊してしまいますよ」
ササは、家族を失った辛さはわからないが、ルルに寄り添う事で、ルルの役にたとうとしていた。
その時、ササの帽子から白蛇が顔を出した。セリーヌから連絡が入ったようだ。
「ササ様、いらっしゃいますか? 」
「はい。セリーヌ様」
「ルル様の件ですが、私の知り合いに調べさせたところ、イリヤス教会の騎士達が襲ったようです。ですが、難を逃れた者もいるそうですよ。その家族は、いなくなった娘を探していて、里にいなかったのが幸いしたとか……」
その会話を聞いていたルルが、
「本当、本当なの? 」
「ルル様ですか? 心中お察しします。はい。そのように聞きました。その家族は、いなくなった娘の居場所を探す為。エルフの魔法を頼りに、エルフの里に向かったと聞きました」
「それって、もしかして、おっとーー達かな? 」
「断定はできませんが、その家族がエルフの里に向かう途中、会って話を聞いた獣人がそう話していたと聞いております」
「わかった。あたい、エルフの里に行ってみる」
「こちらも、また、情報が入り次第、お伝え致しますわ」
「ありがとう、ありがとう……」
「少しでも、お役に立てたのなら、私も嬉しいです。では、また」
「ねぇ、聞いた? もしかしたら、生きてるかもしれないんだよ。おっとーーも、おっかーーも、ルリも〜〜」
「良かったですね。ルルちゃん」
「うん、うん。みんなに知らせてくるーー! 」
「ハクーー! ヒュドラ様ーー! 」
ルルは、洞窟を飛び出して走って行った。
「ルルちゃんの家族なら、良いけど……」
ササは、少し不安に思いながらも、ルルの元気になった姿を喜んでいた。
◇
「ありがとう。ミリーナ。ルル様。喜んでいたわ」
「その銀狼族の娘の家族だと良いのですが……」
「そうですわね……」
セリーヌの部屋では、黒い衣装に身を包んだ女性が、セリーヌと話をしていた。名前はミリーナと言うようだ。
「そう言えばお嬢様、歩けるようになったって、聞きましたけど、何故、車椅子を使っているのですか? 」
「煩い輩もおりますし、こうして装っていた方が、安心でしょう」
「そう言う事ですか〜〜お嬢様も中々やりますねーー」
その時、ドアがノックされた。
「お嬢さま、お茶をお持ちしました」
侍女のマリーナが部屋に入って来た。そこのいるミリーナを見て
「ミリーナ、貴女もいたのですか? 」
「それはないよ。姉さん」
「セリーヌ様のお役に立ってますか? 」
「まあね〜〜私にできるのは、諜報活動と暗殺だけだしね」
「声が大きいですよ。新しい使用人は、まだ、知らないのですから……」
「おっと、そうだった」
「ミリーナ、ありがとう。ゆっくりしてって下さい」
「はい。お嬢様。でも、すぐ、行かなきゃいけないんです。どうも、キナ臭い連中が動いてるようで……」
「そうですか……気をつけて下さいね」
「わかってますって、それと、姉さん、このお菓子もらっていくよ」
「あっ、それは、セリーヌ様の……」
「じゃあね〜〜」
「ふぅ〜〜困った妹です」
「そんな事ありませんわ。マリーナとミリーナは、大陸に他に類をみない程の魔術師ですもの。安心ですわ」
「お嬢様、昔の話はおやめください。恥ずかしくなりますので……」
「まぁ、そんな乙女なところも素敵ですわ」
「もう〜〜お嬢様は〜〜」
セリーヌは、マリーナの入れてくれたお茶を飲みながら、窓の外で剣術の練習をしている研一達を見つめた。
◇◇◇
イリサス教会の本部にある図書室では、読解のギフトを持つ内藤 香織が熱心に本を読んでいた。香織のギルトを使えば、どの世界の文字も読めるようだ。
香織は、本読みたさの故に、知らず知らずのうちに、ギフトを発動する事が出来た。
「香織、凄いですね。あなたのギフトは」
そう感心しているのは、キャサリンだ。こんな能力は、見たことも無い。
「ありがとうございます。でも、聖剣って何ですか? 」
「聖剣ですか? 神の力を宿した剣です。この世界では、レイフル国の王宮に1つあるだけですが、それが何か? 」
「いいえ、この本を読んでいたら書いてありましたので……」
キャサリンは、香織が読んでいる本を覗いてみた。
「こ、これを読めるのですか? 香織は……」
「はい。この世界の文字ですよね? 」
「そうですが、これは、失われた古代文字で書かれている本です。古い教会の跡地から偶然、発見された物なのですが、誰も読めるものがいなくて、ほっとかれてた本ですよ」
「そうなのですか……」
「その本には、なんて書かれているのですか? 」
「はい。2本の聖剣の場所と封印の解き方? らしいです」
「えっ……」
「どうかしましたか? 」
「香織、この事は、誰にも言っては、いけません。良いですね」
「わ、わかりました……」
キャサリンの顔が普通の状態でない事を香織は理解した。
「まさか……この世界にあと2本も聖剣が存在するなんて……」
キャサリンは、呆然としながら、これから、起こりうる難題にどうしたら良いか思考を巡らしていた。




