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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第36話





 翌日、ハク達は、ルルの里に向かった。ここからは、およそ、2、3時間で着くらしい。ルルは、たまに、ハクに蹴られたお尻を気にしながらも、昨日とは打って変わって、元気に歩いている。


「ここはね〜〜子供の頃、家族と一緒に、山葡萄を採りに来たんだ〜〜」

「山葡萄、美味しいですよね」

「ササちゃんとこも、山葡萄好きなんだ〜〜」

「えぇ〜〜美味しいですから」


 ルルとササは、同じ獣人同士だけあって、仲が良い。

 そんな2人を見て、フウコになっているヒュドラは、


「ハクは、何見てるのですか〜〜もしかして、羨ましいとか? そうですよね〜〜ハクには、友達いそうにありませんものね〜〜」


 何かにつけて絡んでくるフウコをハクは、無視していた。と言うより眼中にない感じだ。

 それが、気に入らないらしく、フウコは、さらにハクに絡んでくる。


「ハクの性格じゃあ、誰も友達になってくれませんよ〜〜いい気味です」


 ハクは、少し気になっている事があった。それは、目の前でウザいほど絡んでくるフウコの事ではなく、前を歩いている仲の良い2人の姿を見て、何気ない普通の日常に訪れる何かをだ。


 記憶は無くしても身体が覚えているらしい。ハクに、嫌な予感が襲いかかっている。


 緩やかな坂の山道から、少し険しい岩がゴツゴツした道に変わった。

 周りの風景も、森から、木が数本しか生えていない風景、まるで、西部劇の舞台を彷彿させるような風景だ。


「もうすぐだよーー。あの、大きな岩場を抜けると、里があるんだーー! 」


 ルルがはしゃぎ、走り出す。

 しかし、異変に気付いたのは、ハクだけでは無かった。ササもフウコも、何かおかしいと思っている。


 それは、里が近くにあるなら、生活音や匂いがあるはずだ。だが、その場には、誰かが、いるような物音も、匂いも無い。敏感であるササが、それを探知できないはずはない。


 ルルの姿は、もう、岩影を通り過ぎてしまってもう、見えない。


 ハク達は、お互い顔を見合わせて、走り出した。


 そこには、ただ、ルルが立ちすくんでいるだけで、何も無かった。





「ここに、里があったはずなのに……」


 ルルも少し変だと思っていたのだろう。だが、その考えを何度も打ち消し、ここまで来たに違いない。


「もしかして、場所が違うとかじゃないんですか? 」

「そんな訳無い! ササだって、自分の里の場所を間違えたりしないでしょう? 」


 ルルの言うことは正しい。何も無いのではなく、誰もいないのだ。

 壊れた家屋の残骸がある。

 ところどころ、黒いシミのようなものも付いている。

 明らかに、里が何者かによって襲われて、住んでいた住人が怪我、若しくは、亡くなったに違いない。


 ルルは、腰が抜けたように、その場に座り込んでしまった。


 ハクは、その残骸が点在している場所を、歩き出した。フウコもそれに続く。

 ルルに寄り添っているササは、かける言葉を見失っているようだ。


「ハク、ここに、骨があります。もう、かなり前のものだと思います」

「そうか……」


 この様子では、ルルが奴隷商人に捕まって間も無く里も襲われたようだ。

 だが、散乱している骨の数が少ないのが気になる。


「獣か……? 」


「ハク、これ見て」


 フウコが手に持っていたのは、何かの絵柄が描かれた布の切れ端だった。

 ハクには、その絵柄に覚えがある。


「これは、修道騎士団の物のようだ……」


 イリサス教とは、信仰を異にする獣人達は、その標的にされたのかもしれない。


 見開いた目から、大粒の涙をこぼしながら、ルルは、ハクの言葉を聞き取ったらしい。


「おっとーーも、おっかーーも、ルリもいなくなっちゃったーー! ! 」


 ルリとは、妹の名だろう。大きな声で泣き叫ぶルルの肩をササが、優しく抱きしめている。


 その鳴き声は、静寂だった山々に響き渡った。






 イリサス教本部のところに派遣された、日本から来た者たち4名は、指導役のキャサリンのもとで、この世界についての知識を勉強させられていた。


 担任の三角 慶太は、生徒達の手前、自分がしっかりしなくては、と思っているのか、王都にいた時とは違って、熱心にキャサリンの話を聞いていた。


「つまり、教会の騎士には、国境が無いのと同じなのですね? 」


「平たく言えばそう言うことになります。イリサス教は、ほぼ大陸全土で信仰されてますので」


「例外があるのですか? 」


 そう質問したのは、錬成のギフトを持つ狩野 陸杜だ。


「はい。獣人やエルフ達のように人外の者は、信仰を異にします。獣人達は、特に崇める神を持ちません。強いて言えば、自然が神と同じようなものです。エルフも同じです。ただ、北の国にある魔族領の魔人達とは、敵対関係にあります。魔人達は、独自の信仰がありますので」


「私達は、ここで何をすれば良いのですか? 」


「各国にある教会では、数ヶ月に1度祭典が開かれます。それに訪れる巡礼者の護衛が本来の目的ですが、修道騎士団には、異端者を罰すると言う特権も与えられています」


「王子が、魔王と異端者討伐の為に、我々を召喚したと言っておりましたが、そう言うことなのですね」


「はい。三角の言う通りです。今、わかっている異端者の概要は、その用紙に記載されています。皆さんは、まだ、この世界の字は読めないと聞きました。その点についても少しづつ覚えてもらおうという意味で、資料を配布してあります。それと、オーリア国からの要請で、私達も異端者討伐に出かける事になりました」


「討伐ですか? 私、できません。剣も魔法も思うように使えないし、それに、誰かを殺すなんて……」


 そう話したのは、治癒魔法のギフトを持つ井上 澄香だ。


「殺す必要はありません。できれば、捕縛が一番です。抵抗する相手は、そうもいきませんけど、我々は、無闇に命を奪ったりは致しません」


「良かった〜〜でも、何で、そのオーリア国と言うところに行かなくてはいけないの? 」


「それは、オーリア国でつい最近、王都付近にある町の教会が襲われたからです。林の中で、教会の神父とその家族。それに、礼拝に訪れていた信者が殺されてました。異端者によるものだろうと考えています」


「さっき、言ってた異端者ですか? 」


「断定はできませんが、その可能性もあると言う事です。教会が襲われるところを見た者がいます。その者の話ですと、白装束を着た数人の人物が教会を襲ったと言っています。仲間がいるものと考えています」


「では、その異端者を捕まえに行くのですね? 」


「オーリア国の教会支部にも修道騎士達がいます。念には念を入れてとの事で、支援部隊として異端者討伐の参加を要請されました」


「でも、剣も魔法も使いこなせてませんが? 」


「三角、それは、道中で練習しようと思っています。ここからですと、馬車で数日かかりますので」


「そうですか……」

「先生。俺、頑張ってみるよ」

「私も」

「私は……」


「内藤は、無理しなくてもいいぞ」

「でも、みんな頑張ってるし……」

「自分にできる事をすればいいんだ」

「はい……じゃあ、あの〜〜私、この世界の本が読みたいです」


 そう話した内藤 香織にキャサリンは、


「教会の図書室には、たくさん本があります。オーリア国出発するまで時間もありますし、後で案内します」


「本当ですかーー」


 読解のギフトを持つ内藤 香織は、読書が好きらしい。


「でも、この世界の文字は読めませんよね? 」

「私、頑張って読んでみます」


 高校生達は、不安ながらも前向きになっている。キャサリンは、続けて説明し始めた。


「概要はわかって頂けましたか? この他にも、色々説明しなくてはいけない事もありますので」


「はい」


 キャサリンの説明を聞きながら 担任の三角 慶太は、配られた資料に目を通していた。すると、ふと、あるページで視線が止まる。それは、異端者として最重要危険人物とされる、無名の白髪の青年の似顔絵だった。


「雅和に似てるな……」







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