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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第35話





「本当に良かったのですか? 何も言わずに来てしまって……」


 ササは、残してきた高校生達を気にしている。


「あたいも、サヨナラぐらいは言いたかったなぁ」


 ルルも仲良くしてくれた人間達に何も言わずに出てきた事を後悔していた。


「いいんじゃない? それに、分身置いてきたし〜〜」

「ヒコ様、分身って何ですか? 」

「そうね。ササにも渡しておくわネ。これよ」


 ヒコから手渡されたのは、セリーヌの山荘に置いてきた白い小さな蛇と同じものだった。


「可愛い〜〜これ、ヒュドラ様の分身なのですか? 」

「そうよ。ササを守ってくれるし、会話もできるわ。してみる? 」

「どうすれば良いのですか? 」

「蛇に向かって話すだけよ。あっちに置いてきた蛇と通話ができるわよ」

「便利ですねーー、では、もしもし〜〜そっちの蛇さん聞こえますかーー? 」


『こんにちは。聞こえますわよ。その声はササ様ですね』


「すごーーい。会話ができます。セリーヌ様です。セリーヌ様の声で蛇が喋ってます〜〜」


『皆様は、おかわりありませんか? 』

「はい。あの〜〜黙って出てきてしまってすみませんでした」

『お気にする事はありませんよ。ハク様から聞いておりましたし』


「そうだったんですか〜〜。ハクさん、もう、言葉が足りませんよ」

「そうか? 」


『でも、こうしていつでも話せますし、何かあればおっしゃって下さい』

「ありがとうございます」

『いいえ。ご道中の息災を願っております』

「はい」


「ヒコ様、凄いですこの蛇ちゃん」

「そう、気に入ってもらえて良かったわ」


 その白い蛇はササの被っていた帽子の中にするりと入ってしまった。


「お気に入りの場所が見つかったようネ」


 ルルは、里が近づいてきたのか、落ち着かない様子だ。目の前には、割と大きな湖が広がっている。


「あの……あたい、今日は、ここで泊まりたい……」

「どうして? もうすぐ里なんでしょう? 」

「ヒュドラ様、今日は、満月。帰れない」


 銀狼族のルルは、満月の夜には、凶暴化すると言われている。その事を気にしているようだ。


「わかったわ。どこか、寝られそうな場所探さなくてはネ」

「それなら、知ってる。ついてきて」


 ルルの後をついていくと、湖のすぐ側に少し広い洞窟がある。奥行きは、それ程無いようだが……


「素敵な場所ですね。湖が目の前で、和みます」

「そうネ。今日は、ここで寝ましょう。少し早いけど、夕飯の用意をしなくちゃネ」


 ハク達の旅は、食材は現地調達が基本だ。せっかく、亜空間バッグを持っているのだから、食材の確保をして仕舞っておけば、と思うのだが……


「私、ちょっと湖で泳いでくるわネ。魚がいたらついでに捕まえてくるわ」


 ヒコは、そう言うなり、湖に飛び込んでしまった。水を見ると浸かりたくなるのは、ヒュドラとしての本能なのだろう。


「では、私は、その林で薪と食べられそうな食材を探してきます」

「あたいも行く」


 ササとルルは、林に消えて消えてしまった。ハクは、その場に寝転んで、目を閉じた。


 すると、湖から、魚が飛んできた。ヒコが、捕まえた魚をハクに向けて投げつけている。


「何、あんた、サボってるのよ! 」

「…………」

「ちゃんと働きなさい! じゃないと、夕飯、あんたの分、無しだからネ! 」


 ハクは、重い腰を上げ、ゆっくり、ササ達の行った方に歩いて行った。


「全く、すぐ、サボるんだから〜〜」


 ヒコは、今度は、フウコに変わった。フウコがお腹が空いたらしい。そして、フウコは、また、湖の中に潜っていった。




◇◇◇




 セリーヌの山荘では……


「これは、良くお似合いです」


 研一は、セデスと同じ執事服に着替えた。研一の執事姿は、お世辞ではなく本当に似合っていた。まるで、執事になる為に、生まれきたようなものだ。


 凛と手毬は、マリーナさんに呼び出され、メイド服に着替えさせられていた。この2人の女性も、お世辞抜きで似合っている。


「あの〜〜本当にこの服着ないとダメですか? 」

「凛も手毬も、とてもよくお似合いです。脱ぐなんてもったいないですよ」


 研一、凛、手毬は、この屋敷に使える身となった為、みんなからは呼び捨てにされた。言葉使いから教育されているようだ。


 そして、研一達は、応接室に集まり、この世界の文字を勉強している。

 元々、勉強が得意な面々なので、こういう作業は嫌がらずこなしていた。


「午後からは、剣と魔法の鍛錬をしますからね」


 研一達を教えていたのは、侍女のマリーナだった。

 セデスは、窓から、空を見ていた。


「セデスさん、どうかしたのですか? 」


 侍女マリーナは、セデスが遠くを見ているような気がして、思わず声をかけた。


「いいえ、何でもありません。今夜は、満月ですなぁ……」

「そうですね。穏やかな月なら良いですが……」


 マリーナは、セデスが何を思っているか理解したようだ。



◇◇◇



 そして、その夜……


『ウゥーー!! 』


 鈍いうめき声が湖上に響きわたる。

 暗闇の中に、光る2つの目。

 まるで、獲物を狩る獣の目だ。


『ワォォォーーン!! 』


「ヒコ、ササを頼む。手出しはするなよ」

「いいの? 手伝わなくて? 」

「あぁ、尻を蹴ってやる約束だからな」

「わかった。ササは、任しといて」


 ハクは、襲いかかるルルの攻撃をかわす。

 ルルの身体は、月が昇ってから、爪が伸び、大きな牙が生えてきた。


 攻撃力も速度も数倍上がっている。


「こっちだ! ルル」


『ワォォォーーン! 』


 ハクの予想を上回る速度で、ルルは、近づく。

 もう、ルルは、目の前にはいた。

 鋭い牙がハクの首筋を狙う。


 ハクは、左手でルルの身体を抑え、自由のきく右手でルルのボディーに、拳を入れた。

 鈍い音とともに、ルルが後ずさる。

 ハクの左腕は、ルルの爪で傷つけられ、血が滴り落ちていた。


「さぁ、お仕置きを始めるか……」


 何も無かったように、ハクは、左手の傷をその能力で消した。

 暗闇の中で、ルルの目が光り、物凄い速さでハクに近づく。

 ルルも、さっきの攻撃が効かなかった事を学習していた。

 今度は、ハクの目の前にきて、そのまま、消える。

 ハクの背後を取るつもりらしい。


 ハクは、背中に気配を感じ、思いっきり、回し蹴りを背後に入れる。

 ルルも、何らかの攻撃か来るかもしれないと距離を取れる体制をとっていた。

 ハクの回し蹴りは、宙を切る。


 ルルは、そのチャンスを見逃さない。その場から跳躍し、ハクが体制を整える時間を与えないように、今度は頭上から迫ろうとしていた。


 ハクは、避ける動作を、取れないでいる。まだ、さっきの回し蹴りの足が地面に着地していない。


 ハクに覆い被さるルル。しかし、ハクは、そのまま走り、湖に飛び込んだ。


『バッシャーーン』


 水の中では、ルルの速度も落ちる。でも、それは、諸刃の剣だ。自分の速度も落ちる事を意味している。


 ルルの爪が刺さった傷を、消しながら、ハクは、ルルを抱え水底まで、潜った。


 水中では、思うように身体を動かせないらしい。それに、息も続かない様子だ。


 ハクは、水の中で、ルルの両肩を抑え手で押え込む。ルルは、抵抗するが、もがけばもがくほど、息が上がる。


 そして水を飲んでしまったようだ。ルルの口から大量の泡が出てきた。


 少しづつルルの身体が動かなくなってきている。


 ハクは、そのまま、ルルを掴み、湖上へと上がった……


 ルルは、溺れたようだ。ハクも少し水を飲んでいる。

 ハクは、手を翳し、ルルが、飲んだ水を消した。そして、動きが止まった心臓をマッサージをし、自身の口を当て、人口呼吸をする。


 僅かの時間だった為、大事には至らなかったようだ。


 ルルの呼吸は、再開した。


 もう、ルルの目は、光っていない……


 あの爺さん、執事のセデスの言う事が正しければ、今回は、これで、防げたはずだ。


…………[回想中]…………


「ハク様、銀狼族は、満月の晩には凶暴化しますが、一旦、気絶させてしまえば、その行動を止められると聞いた事があります」


「爺さんは、凶暴化した銀狼族を見た事があるのか?」


「昔の事ですが、その方法で止めた事があります」


「さっきは、聞いた、と言ってたよな? 全く、食えない爺さんだ」


「ウォホホホ、それは、お互い様でしょう」


「良い湯だな……」

「そうでしょう……」


…………………………



「ふぅ〜〜結構、疲れたな……」

「う〜〜ん、あれ、何であたい、びしょ濡れなの? 」


 ルルは、目覚めたようだ。凶暴化していた時の記憶はないらしい。


「おい、ルル、立って尻を出せ! 」

「えっ、何言ってるの? ハク……」

「いいから、尻を出せと言ってる」

「やだ! 絶対! やだーー! 」

「うるせーー! 約束だろう? 尻を蹴ってやるって……」


「えっと……もしかして、暴れたの? 」

「そうだ。だから、尻を出せ! 約束だからな」


「いいじゃん。もう元に戻ってるみたいだし、蹴る必要ないじゃんか! 」

「いいや、蹴らないと、俺の気がおさまらない」


「やだ、やだ、やだーー! ハクの変態! ドS! 」


 ルルは、起き上がって、走り出した。ハクも起き上がり、ルルを追いかける。


 それを見ていた、ヒコとササは、


「何やってるの? あの2人は? 」

「ルルちゃん、怖かったです……」

「でも、まぁ、今夜は、これで、おしまいネ。もう、寝よう、ササ」

「はい、ヒコ様……」


『ボコッ! 』『キャン!! 』


 その夜、ルルの悲鳴が湖に響き渡った。





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