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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第33話





「どうぞ、ご遠慮なくお召し上がり下さい」


 ハクとルル目の前には、見たこともないご馳走がテーブルに並んでいた。

 山荘と称する広い屋敷の主人、セリーヌは、満面の笑顔でそうハクとルルにそう言った。


「ここまでしてもらう義理はないが……」

「ハク、ハク、ねぇ、これ、食べてもいいの? ねぇ? 」


 ハクとルルは、温泉を出てから今晩泊まる客間に案内された。そして、食事の用意ができたとセデスが呼びに来たので、1階の食堂に来てみたら、ご馳走がテーブルに並んでいたのだった。


「ルル様、たくさん召し上がって下さい。それに、ハク様から頂いたワイバーンを使った料理もありますわよ」


「いただきま〜〜す」


 ルルは、食欲に負けたらしい。目の前の料理を食べ始めてしまった。


「ハク様もどうぞ、それに、もう直ぐお客様もいらっしゃいますし」

「お客? 」


 セリーヌがそう言うと、玄関先の庭先に馬の鳴き声がした。

 誰かが大急ぎで走ってくる靴音がする。

 遠慮無しにドアを開けて入って来たのは、ヒコだった。

 ヒコになっているヒュドラが馬車ごと転移して来たようだ。


「ハクーー! ハクーー! あっ! いた! 何で、転移魔法陣から抜け出したのよ〜〜! あの時、約束したでしょう? いつも一緒にいるって! それに、のんびり温泉に入って、豪華な食事までしてるなんて許せないわ!! 」


 凄い剣幕でヒコは屋敷に乱入して来た。

 どうやら、ヒコは、ハクの居場所を探知した時、ハクが温泉に入り、豪華な食事を目の前にしている事を察知したらしい。それで、慌てて転移して来たようだ。


 いきなり、ヒコが転移したので、ササや他のみんなは事態を飲み込めなかった。


「ここどこ? 凄い、お屋敷ね」

「お庭も素敵だったわ」

「これは、こった造りですね。耐震性もあるようだ」


「あっ、ハクさん。ルルちゃんもいる〜〜」


 ササが、ハクとルルを見つけたようだ。ヒコは、この主人に挨拶もなく、食事を食べ始めていた。


「皆様、お揃いになったご様子。どうぞ、テーブルにおかけ下さい」


「すみません。いきなり、大勢で押しかけてしまって……」


「いいえ、研一様。皆様の食事も用意してありますわ」

「え〜〜と、これは、どういう状況なのでしょうか? 」


「そうですね。申し遅れました。私は、この山荘の主人、セリーヌです。こちらのお爺さんが執事のセデス。そして、侍女のマリーナです。執事のセデスが山で遭難しているところをハク様とルル様に助けて頂きました。セデスの主人として、ハク様達をおもてなししております。皆様もハク様のお知り合い。ご遠慮は無用ですわ」


「そうでしたか」


 研一は、ハクの顔を見る。相変わらず、無表情な顔をしている。


「ハクさん、酷いです。また、いなくなっちゃうなんて! 」


 ササは、ハクの隣に座り、ハクに文句を言いだした。


「凛さん達も心配してたんですからね。そうですよね。凛さん」

「あの〜〜その〜〜ご無事で何よりです……」


「凛ったらーー! 」


 手毬が、凛を肘で突っつく。凛は、ハクの前では、乙女になってしまうようだ。


「まぁ、色々なお話もある事でしょう。でも、食事を済ませてから、されてはどうでしょうか? 」


「そうですね。では、遠慮なくいただきます」


 研一を始め、凛や手毬、そしてササも食べ始めた。ルルとヒコの前の皿は、もう平らげられていた。






「大勢で食べるお食事は、美味しいです」


 セリーヌは、初めての賑やかな食事に、とても喜んでいる。

 執事のセデスも侍女のマリーナも、何故か目頭が熱くなっている。


「ハク、そういえば、ここどこ? 」


『ボカッ! 』


「痛いなぁ、何で叩くのよ! 」

「勝手に転移して来てそれはないだろう? 」


 ヒコは、ハクに叩かれた頭をさすりながら、周りを見渡す。見かけない女性2人と老人が、微笑ましく笑っている。


「誰? 」


『ボカッ! 』


「聞いてなかったのか? 」

「痛いなぁ、もう〜〜」


「ヒコ様ですわね。この山荘の主人セリーヌです。こちらがセデスとマリーナです」


「そう言えば、さっき聞いたかも〜〜。でも、何で私の名前知ってるの? 」

「はい。全て知っております。キリコ様とフウコ様の事も……」

「ハク……凄いよ。この子。エスパーだよ」


「そう言えば僕の名前も知ってましたね。ハクさんに聞いたのですか? 」


「いいえ。私の能力です。私には『夢見』という能力があります。夢で、未来を見てしまう能力です」


「ほう……それは、かなり難儀な能力ですね……」

「そう? 研一君。私は、素敵な能力だと思うけど」

「手毬、未来を知ってしまったら、色々大変よ。例えば、手毬が、大学に落ちたり、結婚してもすぐ、離婚したり、そんな未来を見てしまったら、怖くなるわ」

「そうよね。良い事ばかりじゃないものね。すみません。勝手な事ばかり言って……」


「気にしないで下さい。もう、慣れていますので……」


 そう言いながらセリーヌは、少し悲しい表情をした。それを、ハクは目の端で見ていた。


「皆様、お食事が済んだら、お風呂にお入り下さい。ハクさんとルルさんは先程、入られましたわ。ここのお風呂は温泉を引いています。きっと、皆様も満足されると思いますわ」


「温泉! 入りたい! 」

「私もーー! 」


 ハクを残して、セデスとマリーナの案内でみんなは温泉に行ってしまった。ルルも気に入ったらしく、もう一度入るらしい。


 この食卓には、ハクとセリーヌの2人きりになった。ハクは、セデスが用意してくれた酒を飲みながら、目を伏せっていた。すると、セリーヌが、


「ハク様、良かったらデッキに出て見ませんか? 夜風が気持ち良いですよ」

「そうか……」

「あの〜〜できれば、この車を押してくださると助かります。私も、少し、夜風に当たりたいのです」

「わかった」


 ハクは立ち上がり、セリーヌの車椅子を押して、外のデッキに出た。

 夜風は、まだ、少し冷かったが、火照った身体を冷ますには、ちょうど良かった。


 風が、セリーヌの髪を掠め、細い絹糸のようになびいている。


「その足はどうした? 」

「ぷっ、あっ、ごめんなさい。あまりにもハク様らしい質問で可笑しくなってしまいました」

「笑われるような事を言った覚えは無いが」


「きっと、普通の方なら気を使ってそんな事言いませんよ。でも、ハク様なら、遠慮無しにそう言うと思ってました」


「そういうものなのか? 」

「そういうものです」


「…………」


「この足は、幼い頃、ある事件が起き、傷を負って動かなくなりました。でも、セデスやマリーナがいたので苦労はしておりませんし、今は、幸せに思っています」


「そんな事はないだろう? 動かないより動いた方が良いに決まっている」


「それは、足の不自由な本人を目の前にして言ってはいけないお言葉ですよ。ハク様」


「その傷は何処に負った? 」

「はい!? 」

「傷を見せろと言ったんだ」

「……わかりました」


 何かを決意したようにセリーヌは、上着のボタンを外す。きめ細やかな指の動きがひとつ、また、ひとつと、ボタンを外していった。そして、白い肌が露わになる。両手で胸をおさえながら、セリーヌは、ハクに背中を見せた。


 セリーヌの腰のあたりから両肩にかけて、X印の大きな傷がミミズ腫れのように、浮き出ていた。


「刀傷か? 」

「そうです。私の儀兄に斬られました……」

「そうか、少し触るぞ」


 ハクは、その傷がある背中に手を当てた。ハクの冷たい手がセリーヌを一瞬、身震いさせた。だが、だんだんとハクの手が暖かくなってくる。すると、傷は消えて無くなっていった。


 そして、もう一度、ハクは、背中に手を翳す。今度は、身体の異常を消したようだ。


「もう、服を着ろ」

「えっ、はい」


 セリーヌが服を取ろうとした時、動くはずのない足が弾みで動いた。


「えっ!? 」


「どうした? 傷は消した。もう、歩けるはずだ。だが、筋肉の衰えは、俺は治せない。あとは、自分で何とかしろ」


「う、嘘……」


「何を言う。知ってたのだろう? 」

「はい……でも、本当にこんな事が起きるなんて……」

「飯の礼だ。俺は、あの爺さんか侍女さんを呼んでくる」

「ま、待って下さい。ハク様。もう少しだけ、ここに、私のそばにいて下さい」


「……すまん。俺は、こういうのは苦手だ」


 ハクは、セリーヌを残して去って行ってしまった。でも、そのすぐ後にはセデスとマリーナがセリーヌの元に駆けつけていた。


 デッキからすすり泣く声が聞こえてくる。ハクは、それを背中で聞きながら、玄関脇の階段を昇り、自分の部屋に戻って行った。






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