第29話
「何で、私達、こんな事しなくちゃいけないのーー! 」
「私だって恥ずかしいよ。でも、人助けだもの。我慢するよ」
凛と手毬は、買ったばかりの水着を着て、海を見つめていた。
研一の話を聞いて、一旦は、協力する気になったのだが、水着を着て海に潜るなんて聞いていない。
「あのスケベメガネ。絶対、殺してやる〜〜! 」
「凛、でも、貝を採ってくればいいだけだし、そのあとは、私、1人で出来るから〜〜」
「手毬、1人でさせるわけないじゃん。私も手伝うよ」
「うん、でも、私のギフトで、真珠を育成するんだから、私しかできないし……」
凛と手毬は、文句を言いながら、海に入り、貝を採りに行った。ササも行く予定だったが、泳げないというので、キリコと別の任務が与えられた。
研一と、少年ナッツは、港に行き、わざと大きな声で、真珠がはいった貝がたくさん、漁業域に現れた、と話す。漁業料も明日には、払えそうだと、港のみんなにふれ回った。
そして、夜。
研一と、キリコそしてササは、ナッツと共に、海で張り込んでいる。上手くいけば、今夜にも、ナッツ家族を苦しめた犯人が海にやって来て、真珠を奪いにくるはず……
「来た! 」
暗闇に紛れて、3人の人影は、海に入って行った。そして、数分後、
「ありましたぜ」
「ナッツの野郎、今度は、嘘をついてなかったって事か」
「とにかく、全部、持って行くぞ」
「あいつらーー! 漁業組合の奴らだ……」
「もう少し、待とう。そうすれば、動かぬ証拠になる」
「でも〜〜」
研一達は、隠れて様子を伺う。しかし、キリコが、その場に出てしまった。
「あっ、キリコ様……」
ササが、キリコを止めようとしたが、間に合わなかった。キリコは、フウコに変わり、その者達を飲み込んでしまった。
研一は、ナッツの目を隠すのが精一杯で、その光景を見てしまった。
以前、ササが、夢にうなされる、と言ったのは、あながち間違いではない。
「美味しかったです〜〜」
「フウコ様、早くキリコ様に戻って下さい。ナッツ君がいますから〜〜」
「そうよね〜〜わかったよ〜〜」
フウコからキリコに戻ったヒュドラは、研一達の前に戻って来た。
「キリコさん、どうして? その〜〜処分しちゃったんですか? 」
「記憶を読み取った。前に、路地裏にいた奴らは、こいつらの仲間」
「じゃあ、知ってたんですか? 」
「概ね正解。でも、ここでこいつらを処分しとかないとキリが無い」
「どういう事ですか? 」
「こいつらの背後に面倒な奴がいる」
「それって? 」
「この国のトップの側近……」
「えっ、そんな大事な事だったの? 」
「そう、この辺で切り上げとかないと、面倒」
確かに、この国の王家が絡んでくると、面倒な事になる。でも、何だか、消化不良な結末だ。
「でも、真珠は、手毬さんが別に用意して下さいましたし、ナッツ君達の漁業料も払えるなら、これでお終いにした方が良くないですか? 」
「ササちゃんの言うことは理解できるけど、いまいち、呆気ないというか、何と言うか……」
「ねぇ、さっきの奴らはどうしたの? メガネの兄ちゃん。手を外してよ」
今まで、ナッツの目を塞いでいたことを研一は、思い出し、手を外した。
「キリコさんが解決してくれたよ。もう、大丈夫だ」
「良く、わかんねーーけど、まぁ、いいや。ありがとう。メガネの兄ちゃん。それと、姉ちゃん達」
研一は、物足りなかったが、この辺が良い引き際なのも理解していた。
研一が、自らこんな面倒ごとに首を突っ込んだのか、自分でもわかっていない。日本では、1点でも良い成績を上げる為、勉強に励んでいた。でも、この世界に来て、そのエネルギーは、行き場を無くしていた。何かをする事でそのエネルギーを消化したかったのかも知れない。それとも、ハクの影響なのだろうか……
◇◇◇
その頃、ハクとルルは、岩場の窪みで夜を過ごしていた。ルルを先に寝かせハクは、見張りとして起きていた。
焚き火に薪をくべると、火の粉が上がり、炎が一瞬、小さくなるが、また、勢いよく燃え出す。それを繰り返しながら、ハクは、暗闇に浮き出た炎を見つめていた。
「ハク……」
ルルが、目を覚ましている。
「何だ。眠れないのか? 」
「うん……あの〜〜ハクは、何で獣人を嫌がらないの? 」
「嫌がる理由が見つからない」
「あたいは、まだ、人間が怖い……さっきまで、一緒にいた人達にも、まだ、慣れない……」
「俺は大丈夫なのか? 」
「ハクは、平気。何でかなぁ? 」
「それは、俺にもわからん」
「今まで、あたいが会った人間は、あたいをゴミのように扱ってた。棒で叩かれたり、イヤラシイ事もされた。何で、人間は、そんな事するの? 」
「そういう奴もいるが、違う奴もいる。ルルが、会った人間は、容姿や外見で判断し、誰かを支配する事を何とも思わない奴らだ。でも、さっきまで一緒にいたメガネや女の子達は、そういう目で見ない人間だ。人もそれぞれという事だ」
「そうなんだ……」
「あのメガネや一緒にいた女の子は、ルルには危害を加える事はない。ルルが今まで会った人間とは違う。人や獣人を差別しない人間だ。きっと、仲良くなれると思う」
「そうかなぁ……まだ、怖いけど……」
「時間をかけて、判断すれば良い」
「わかった。ハクが言うならそうしてみる」
「もう、寝ろ。明日、早いぞ」
「うん。でも目が冴えちゃって眠れない」
「水を飲むか? 」
ハクは、沢から、水を汲んでルルに渡す。ルルは、それを、美味しそうに飲み込んだ。
「ハク……あたい、里に帰っても大丈夫かな? 」
「何でそんな事、俺に聞く? 」
「もう、何年も帰ってないし、みんな、あたいの事忘れているかも……」
「両親がいるのだろう? 」
「いるよ。それに、妹もいる」
「なら、きっと、お前の帰りを待ってるはずだ。余計な心配するな」
「でも、あたい、銀狼族だし……」
「それが里に帰りずらい理由になるなんて、俺にはわからん」
「実は、あたい、拾われっ子なんだ。両親も妹もいるけど、血が繋がってない」
「そうだったのか……」
「それに、銀狼族は、満月になると、凶暴になる。あたいは、その時の記憶がないけど……」
「里では、満月の時、どうしてたんだ? 」
「地下の岩穴に入れられていた」
「そうか、でも、すぐに出られたんだろう? 」
「うん……でも、迎えに来た時の両親が辛そうな顔をしてた」
「それは、お前を閉じ込めなくてはならない事が辛かったのだろう」
「そうだと思うけど……あの顔を見るのは悲しい」
「お前が、俺に奴隷契約をしてくれ、と言ったのは、その事が関係あるのか? 」
「うん。奴隷契約をしてれば、主人を傷つける事は出来ない。だから……」
「そういう事だったのか」
「俺は、大丈夫だ。お前が悪さをしたら、尻を蹴ってやる」
「えっーー痛そう〜〜」
「それぐらい俺は、お前が変わっても大丈夫だ、ということだ」
「わかった。でも、痛くしないでよ」
「それは、お前次第だ」
ハクとルルは、そんな話をしながら夜を過ごした。朝方には、2人とも寄り添って寝てしまったが……
◇
レイフル国王宮では、召喚された高校生達の各部署への配置が決まった。
◯ レオナルド第1王子の部隊
佐伯 優也(ギフト:光魔法 聖剣保持可能者)
小林 草太(ギフト:上級土魔法 サンドジェル)
濱沼 創士(ギフト:上級水魔法 ウォータースラッシュ)
武藤 厚志(ギフト:上級火魔法 ファイヤースピアー)
大野 美未(ギフト:上級風魔法 エアーフラッシュ)
高坂 絵里子(ギフト:体力・魔力20パーセントUP)
山本 沙織(ギフト:速度3倍)
◯ フェミリーナ第1王女の部隊
小早川 拓人(ギフト:念動力)
相澤 忠(ギフト:体力・魔力20パーセントUP)
内山 剛志(ギフト:身体強化)
白河 美沙(ギフト:光魔法 聖剣保持可能者)
佐内 美里(ギフト:上級召喚魔法 サマナー)
瀬戸 杏奈(ギフト:透視)
◯ イリサス教会修道騎士団
三角 慶太(ギフト:光魔法:聖剣保持可能者)
狩野 陸杜(ギフト:錬成)
井上 澄香(ギフト:治癒魔法:ヒーリング)
内藤 香織(ギフト:読解)




