第27話
「旅はノンビリ行くのが楽しい」と言っていた、ヒコになっているヒュドラは、お昼ご飯を食べてから、二足歩行は疲れると言い出した。
「疲れてるのは、僕達も同じですが、じゃあ、今日は、この辺にの野宿するのですか? 」
「メガネ君。ここで、野宿してもつまらないでしょう。美味しいものないし」
「では、どうするのですか? 」
「決まってるじゃない」
ヒコは、いきなり、転移魔法陣を展開して、転移した。
転移した場所は、オーリア国王都、エスタの街だった。
ヒコは、人気のない場所を選んで転移したようだ。そこは、両脇に、塀や家が建ち並ぶ野路裏のような場所だった。
「あっ! ハクがいない〜〜転移する時、転移陣から、逃げたなーー! 」
「ねぇ、ルルちゃんもいないよ」
ヒコがそう言うと、周りを見渡した手毬が、ルルもいない事に気づく。
「ちょっと、待って……」
ヒコの身体が光り出す。ハクは、知らないが、ヒュドラとハクは契約している。お互いの位置が、魔法でわかるようだ。
「ハクと一緒にいるみたい。ルルがいれば、ルルの里に行けば会えるでしょう。私達は、この街に泊まって、ノンビリ過ごしながら、ルルの里に向かいましょう」
「ハクさん……」
「ハクさん……」
そこには、落ち込んでいる、ササと凛の姿があった。
「これが、転移か……あまり、気分の良いものではないな」
「メガネ君。転移初めて? 」
「もちろんです。魔法など、存在しない世界にいたのですから」
「こちらに召喚された時と同じだったじゃない! あんた、もう、忘れたの? 馬鹿なの? 」
「東條さん。ハクさんがいないからと言って、僕に八つ当たりされるのは、迷惑だ」
「なっ! そんなんじゃないわよ。この、タコ助! 」
「誰が、タコだ! 僕は、研一だ」
「あっ、タコ……」
『えっ!? 』
手毬が、見てる方は、路地の先の方だった。通路を塞ぐように。いかにも、悪そうな奴が3人いる。その中の、リーダー格の人物が、スキンヘッドでタコにそっくりだった。
「兄貴、こいつらタコとか言ってましたぜ! 」
「声がするから、来てみれば、俺達のアジトにどっから入り込んだんだ。こいつら」
「うっひょーー! 兄貴、結構、良い女がいますぜ。遊んであげたらどうですか? 」
「そうだな。勝手に、俺達のアジトに入り込んだ礼をしてもらわなくちゃな」
「みんなーー、先に行ってて良いわよ〜〜フウコが、お腹空いてるみたいだから〜〜」
「えっ、それは、つまり……」
「皆さん。早く、行きましょう。でないと、夢でうなされますよ」
そう言ったのは、ササだった。ササは、ヒュドラに助けてもらった時の光景を、今でも、夢でうなされているようだ。
「わかったわ」
高校生達と、ササは、その場から離れた。残された荒くれ者とヒュドラは、
「お前が、先に俺達と遊んでくれるのか? でも、逃げた奴らは、後で、美味しくいただくけどよ〜〜」
「いただくのは私の方です〜〜、いただきま〜〜す」
『わぁーー!! 』
ヒコから、フウコに変わったヒュドラは、首から上が本来の大きさになり、そこにいた者達を一気飲みした。そして、腹に入れた者達の記憶を読み取ったらしい。
「どうしようもないクズですね〜〜ありきたりで、つまらないです〜〜でも、ちょっとだけ、面白いものもありました〜〜」
そう言いながら、フウコは、お腹をさすっていた。
◇◇◇
ヒコの転移魔法陣から、逃れたハクは、そこにルルもいる事が分かると、
「何でここにいる? 」
「地面が、ピッカーー!ってしたから、怖くて、ハクさんの背後に逃げた」
「そうか……」
これでは、ルルを里まで送る事になりそうだ。
「ルル、行くか? 」
「うん……あの〜〜みんなは? 」
「さっきの地面の光は、ヒコの転移魔法陣だ。ルルの里近くまで転移したんだろう」
「そうなの? 怖がらずに、入っておけば良かった」
「もう、遅い。行くぞ」
ハクとルルは、街道を行く。近くに街があるのか、街道も人通りが多くなってきた。
「ルル、山から行ってもいいか? 」
「あたいもその方がいい」
2人は、街道をそれ、森の中に入って行く。
森に入ると、ハクもルルも落ち着くようだ。
「ルル、里の方角はわかるか? 」
「多分、あっち……です。あの〜〜ハクさ、さん」
「呼びにくかったら、ハクでいい。それに、敬語もいらん」
「わかった。あっちだよ。ハク」
2人は、ルルが指差した方を歩いて行く。下草が、膝まで伸びていた。
「あっ、これ、傷に効く草だ」
「必要なら採っていけ」
ルルは、薬草を採取していると、突然、動きが止まった。
「ハク、向こうから血の匂いがする……それと、魔獣の気配……」
「そうか……」
ハクは、気配感知が通常の人間と同じだ。突然、襲われたら、ハクでも、危うい。
2人は、その血の匂いがする方に、静かに進む。
そこには、自身が狩ったであろう鹿のような動物を食べている体の大きな虎のような魔獣がいた。
「あれは、食えるのか? 」
「食べた事ない……けど、里の中には、あいつらにやられた者もいる」
「わかった」
ハクは、その魔獣に向けて手を翳した。すると、魔獣は、その場に倒れ込んだ。
「何をしたの? 」
「あいつの、心臓を消した」
「それ、どういう事? 」
「俺が、殺したという事だ」
「そうなんだ……」
その光景を見て、ルルは、ハクがとても強い人間だと理解した。そして、
「ハク……あの……」
「どうした? 」
「あたいと、その……」
「言いたいことがあれば、言えばいい」
「あたいと奴隷契約を結んでほしい」
「奴隷契約……」
「もう直ぐ、満月になる。そうなると、あたいは……」
ルルは、うつむいて黙ってしまった。
「言いたくなければ言わなくてもいい。だが、奴隷契約は無しだ。やり方がわからん」
「今、すぐじゃなくてもいい……」
「わかった」
ルルは、何か言いたそうな感じだったが、言いたくなったら言うだろうと、ハクは考えていた。
2人は、森を抜け、山に向かって走り出す。
ルルも走りたい気分だった。
森の中では、夜を明かす場所を確保する事は難しい。
できれば、陽が落ちるまでに、山の麓の岩場があるところまで、行きたかった。
「ルル、少し、速度を上げるぞ」
「うん。大丈夫だよ」
銀狼族だけあって、ルルの走るスピードは、ずば抜けて速い。
ハクも負けてはいられなかった。
「あの山の麓に一本の大きな木があるだろう。あそこまで、競争だ」
「ハクには、負けない。あたいの方が速い」
ルルの顔に笑顔が戻っていた。
◇◇◇
オーリア国にある、とある山荘には、幼い頃から、1人の女性が住んでいた。その女性は、今年で16歳になろうとしていた。
昼食後は、日課のお昼寝の時間だ。
彼女は、また、夢を見る……
彼女の夢には、必ず、1人の青年が登場する。
白髪の青年が……
「セリーヌ様、また、夢を見たのですか? 」
「そうよ……」
彼女の侍女 マリーナは、彼女が赤ん坊の時から、一緒にいる母親同然の女性だ。
「でも、今日は、顔色がよろしいから、もしかして、良い夢だったのかしら? 」
「それは、秘密よ」
セリーヌが見た夢は、何時もと少し違っていた。今回は、獣人の女の子も一緒に登場したのだった。
「セデスはどこに行ったの? 」
「山に、狩に行きました。セリーヌ様が少しでも元気になられるように、精のつくものを獲ってくると、張り切って出かけましたよ。もう、お爺さんなのですから、少しは、自重してもらいたいものです」
執事のセデスは、山に狩に行ったようだ。
この山荘には、この3人しか住んでいない。
それは、世間から、隔絶されているようだった。
山には、魔獣がいる。この山荘にも、魔獣が襲ってきたこともある。
普段は、魔獣除けの結界が張られているが、それでも、隙はできるようだ。
「どういたしますか? お庭にお散歩でも行かれますか? 」
「そうね……先に、お茶を頂けるかしら」
「かしこまりました。すぐにお持ち致しますね」
マリーナは、部屋を出て行った。
セリーヌは、先程の夢の事を考えていた。
「もうすぐ会える……。そして、あの方は、私を……ううん、この世界を救ってくれるはず……」
セリーヌは、窓から見える山々を誕生日を待つ少女のように、トキメキながら見つめていた。




