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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第25話





「ハク、怪我したんだって〜〜いい気味です」


 ササや、ここに連れて来た高校生3人の様子がおかしいので、イカを食べていたフウコが、その訳を聞き出した。すると、フウコは、一目散にハクの小屋に、駆けつけた。


「フウコ様、ひどいです。ハクさんは、大変な状態だったんですよ」


 ササもフウコの後を追い、ハクの小屋に入る。高校生達や、銀狼族のルルも後を付いてきた。


 寝ていたハクは、周りの騒がしさに目が覚めたようだ。


「何かようか? 」

「元気そうです。ツマラないです〜〜」


 ハクが、思いのほか、普通だったので、フウコは、残念そうだ。

 そんな、会話を耳にした研一は、


「あなた方は、仲間じゃないのですか? 相手が、大変な状態だったのをツマラないと言うなんて」


「私とハクが仲間? 違いますよ〜〜敵同士です」

「敵!? 」


「おい、メガネ。勘違いするな。そいつは、人間の姿をしてるが、化物だ。俺をはじめ、人間や獣人など餌にしか思ってない」


『えっーー! 』


 高校生達は、意味がわからないようだ。

 すると、フウコから、ヒコに変わったヒュドラは、


「何、ハクは言ってるの? 確かに、ハクの言う通りだけど、全部が餌なんて思ってないわ」


 首がすり替わった姿を目の当たりにして、高校生達と、ルルは目を丸くして驚いている。


「フウコは、食欲魔人。底知れぬ大食い。節操が無い」


 ヒコからキリコに変わったヒュドラは、淡々とそう話す。

 その変わり身を見ていた高校生とルルは、もう、言葉も出ないようだ。だが、ルルは、


「本当にヒュドラ様なのですか? 」

「そう」

「あの伝説の……その姿を見たものは無く、その森に足を踏み入れたものは、帰って来ないという……」


「そう。森に来たものは、殆どフウコが食べた。間違いない」


 キリコが、そう話すと、ルルをはじめ、高校生達は、後ずさりし始めた。

 でも、研一は、


「ヒュドラ、神話では、9つの首を持つという大蛇という話だ。100の首を持つとも言われている。あなたがそのヒュドラだと言うのですか? 」


「メガネ君は、よく知ってるね。メガネ君の世界にも私の事、神話になってるんだぁ。こっちの私は、首は3つだけどネ。ほらっ」


 ヒコ、キリコ、フウコが、一緒に現れた。


『わっ! 』


 それを、見た高校生達とルルは、驚いている。


「ねっ、3つでしょう? 」


『は、はい……』


 驚きのあまり、腰を抜かしている高校生達に向かって、ヒュドラは面白がっていた。


「おい! その首、とっとと仕舞え! 」

「ハクは、相変わらず煩いわネ〜〜。わかったわよ」


 ヒコだけになったヒュドラは、ハクに悪態をつく。その姿に戻って、少し、安心したのか、研一が、


「あ、貴女は、さっき、僕達の世界と言いましたが、僕達が召喚されて別の世界から来た事知っていたのですか? 」


「知ってるも何も、この世界の住人なら、あの山には行かないもの。あそこには、邪龍が住んでたからネ。ハクが消してしまったみたいだけど」


『えっーー! 』


「そんな怖いとこにいたんだ。私達……」


 手毬は、恐怖のあまり、震えていた。


「人間の皆さんは、別の世界から来たって、どう言う事ですか? 」


「ササちゃん。さっき、召喚の話が途中だったね。僕達は、この世界の住人に、魔法で、召喚されたんだ。元は、別の世界で過ごしていたんだよ」


「そんな事あるのですか? 」


「詳しい状況はわからないけど、魔王討伐の為に呼び出されたらしい。それと、異端者の討伐を任された。けど、どうも、利用されているようで、僕と、東條さん、野々宮さんは、そこから逃げて来たんだよ。それに、このチョーカーがあるだろう。これには、どうも、魔法がかけられているらしい。無理やり外そうとしたら……」


 そこで、研一は、津田君の事を思い出した。その光景は、研一達にとってトラウマものの出来事だ。研一も身体も震えだした。


「どれどれ、あぁ〜〜これは、奴隷用の拘束具を改良したものだネ。普段は、なんともないけど、無理やり外したり、一定の魔力を受けると首が吹き飛ぶ仕掛けになっているみたいだよ」


「やはりそうか……」


「私には、無理そうだけど、ハクなら、消せるんじゃないの? 」


「えっ、本当ですか? 」


 高校生達は、揃ってハクを見る。ハクは、面倒臭そうに、


「おい、ヒコ。お前だってできるはずだろう? 俺に振りやがって……。まぁ、さっきの借りだ。こっちに来い」


 ハクは、まず、研一の首に手を翳しチョーカー消した。続いて、手毬、凛と消していく。


「本当だ。無くなってる」


 喜んでいる高校生達に、ハクは、


「あの化物に、隷属契約がかかっているか調べてもらえ」

「化物って、ハクは、ひどいわネーー! 」

「ヒコ、調べてやれ」

「本当、ハクは、生意気なんだから」


 ヒコは、3人を調べだす。そして、


「隷属契約は無いわね。さっきの首輪だけだったみたいよ」


「本当ですか〜〜良かった〜〜」


「あの……ハクさん、私……」


 凛が、ハクの前に来て、沈痛な面持ちで話しかける。ハクは、その様子を見て、


「何を聞いたか知らんが、さっきも言ったように礼はもういらない。もう、俺に関わるな」


「えっ、でも……」


「お前達が、さっき言った召喚された理由の1つに異端者討伐があるようだが、その異端者が俺だ。だから、もう、関わるな。いいな! 」


『えっーー! ハクさんが異端者!? 』


「それを確かめに街に行った。確かだ」


「何だ、ハク、そんな事で、私達に黙ってこの里を出て行ったんだ。小さい男ネ」


「なんでハクさんが異端者なのですか? 」

「知らん」


「多分、危険だと思われたんじゃない? 」

「ヒコ、どういうことだ? 」

「ハクは、邪龍を消して、私まで何度も消したわよね」

「あぁ……」

「この世界では、邪龍や私は、無敵だったのよ。それを、ハクは、いとも簡単に消してしまった。邪龍は、ああ見えて神格を備えている。と言うことは、ハクは、神も消せるって事でしょう? 」


「そうか……だから、神は、ハクさんを異端者扱いして葬り去ろうとした。僕達を召喚させてまで……」


「流石、メガネ君。良いセンスしてるわネ」


「俺は、神など知らん」


「ハク、それは、貴方が自分の記憶を消したからだわ」


「それは……」


「ハクもこの世界の人間ではない事は最初の時点で知ってたわ。だから、興味が湧いて付いて行く事にしたんだもの。面白そうだからネ」


「全く、勝手な奴だ」


「じゃあ、ハクさんも僕達と同じ世界の住人なのですか? 」


「ハクの記憶が甦れば、わかる事よ。それに、関わるなって言われても、この子達は、もう、元の居場所にいられないのだから、突き放すのはどうかと思うわよ。それに、この子達も面白そうだしネ」


「…………。勝手にしろ」


 高校生達は、安心したようだ。


「ヒコ、こいつらを元の世界に戻せないのか? 」


「送還魔法は、神の助けを必要とする魔法。神以外できないわネ。それに、神が一度送った者を帰すなんて事、威厳に関わるからする訳ないわ。また、方法がわかったとしても魔力も技術も普通の人間では足りないわ。でも、エルフか妖精族、もしかしたら、魔王が別の方法を知ってるかもネ」


「そうなのですか? 」


「えぇ、でも、太古の話よ。今は、わからないわ」


「可能性がゼロではないと言うことが分かれば、希望が持てます」


「じゃあ、ルルちゃんを里に送り届けてから、まず、エルフの里に向かいましょうか? ハクも行くのよ。いいわネ」


「…………」


「良いわネ!! 」


「あぁ、ササ、メシは出来てるか? 」

「はい。用意できてます」

「じゃあ、食いに行くか……」

「はい」


 ハクは、大勢に囲まれているのは、性に合わないようだ。この場を逃げ出そうとしている。


 凛は、部屋を出て行こうとするハクの前に立ち、


「ハクさん、ハクさんが迷惑だとしても、私、謝りたいです。私の為に、酷い目に合わせてしまってごめんなさい」


 頭を下げる凛にハクは


「わかった。気にするな」


 と言って、小屋を出て行った。




◇◇◇




 イリサス教会最高位にあるミネルト=グラームスは、レイフル国 聖騎士団が率いる高校生達が、オーク討伐を成し遂げたと聞いて、少し、イラついていた。


「我らが手を貸して召喚させた者を使って、功績をたて、それを王家の手柄にするなど、神を冒涜する所業ではないか? そう思うだろう。皆の者」


「ミネルト様のおっしゃる通りですな。神や教会の者を冒涜しているとしか考えられません」


「召喚された者を、あの王家だけに渡して良いものかどうか、一考すべきですな」


「修道騎士団のスベルトが異端者にやられた今、騎士団の人員補充を兼ねて、召喚された者をこちらに引き渡してもらいましょう」


「だが、王家が、全てを渡すとは思えません」


「元は、神託があって、我らが呼び出した者達、何を気兼ねする必要があるでしょうか? 」


 ミネルトを筆頭に教会幹部達が話し合いをしていた。主に、召喚された高校生達の処遇に対してのようだ。


「お主達の意見はわかった。だが、王家の対面もあるじゃろう。現実的には数名といったところかと思う」


「では、早速、王家に打診を致しましょう」


「任せたぞ」


 ミネルトは、魔族が騒ぎ出し、異端者が現れ、慌ただしくなってきた世界を危ぶんでいた。


「異端者如きに面目を潰されたままでは、教会の権威に関わる。今こそ、神のお導きたる教会の威厳を見せる時だ……」


 ミネルトは、心の中でそう呟いた。







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