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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
22/41

第21話





 コーリア男爵の屋敷に忍び込んだ、ハク、キリコ、ササは、


「なんで、ここに来たんだ? 」

「何ででしょう? 」


 キリコは、屋敷に入るなり、匂いに釣られて食堂に入り、そして、貯蔵庫にある食料を食べていた。


「ふぅ〜〜、少し足りないけど、朝ご飯」


「こいつは、ほっとこう」

「いいんですか? 」

「まだ、かかりそうだからな」

「はい。わかりました。キリコ様、先に行ってます」

「了解。モグモグ……」


 再び玄関前の広間に出たハクとササは、どこに行くか思案してると


「下の階と上の階に、獣の匂いがします。もしかして、獣人がいるかもしれません」

「わかった。では、下から行くか? 」

「はい」


 ハクとササは、正面の階段を下に降りようとすると、奥の部屋から人が2人出てきた。


「ササ、待て。動くんじゃないぞ」

「はい……」


「トミー様、随分、お酒をお召しになられたようですね」

「すまない。酒量は少ないと思うのだが、疲れが出たようです」

「お部屋でゆっくりお休み下さい。用があれば、何でもお申し付け下さって結構です」

「何から何まですまない。感謝する」


 執事のデマスと、補佐官のトミーは階段を上がり、二階の部屋に入って行った。


「来客か? そういえば、昼、豪華な馬車が、入って行ったな」

「そうなのですか? 」

「あぁ、下に行くぞ。ササ」

「はい」


 ハクとササは、2人をやり過ごして、階段を降り、下の階に行った。





 地下は、倉庫になっており、広い場所に物が整頓されて積まれていた。


「ハクさん、この奥から匂いがします」


 奥に部屋があり、入ってみると、何もないように見えたのだが、ササが、


「ハクさん。この壁が変です」

「ただの壁に見えるが……」


 ハクが壁に手をかけると、『クルッ』っと壁が回転し、更に地下に続く階段が現れた。


「こんな仕掛けがあったとはな。ササがいなければ気づかなかった」

「エヘヘヘヘ」


 2人は更に下に降りると、そこは、牢屋が小分けにいくつもある場所だった。


「地下牢か……」


 その地下牢は、壁に頑丈な鎖が伸びていて、誰かを拘束しておけるような造りだ。


「この牢から、上の階と同じ匂いが残ってます」

「そうか……上に行ってみるか。うむ、どうしたササ? 」


 ササが、そこで、涙を浮かべ遠い目をして牢の鎖を見ているのでハクは、その様子が気になったようだ。


「いいえ、あの時、ハクさんとヒュドラ様に助けて頂けなければ、私がここに繋がれていたのかも、って考えていたら、悲しくなってきてしまいまして……」


「そうか……」


 ハクは、自分でも気づかないうちにササの頭を撫でていた。これが、どういう感情なのか、わかっているかのように……






 その頃、キリコは、一通り食事を終えて、一階のフロアーをウロウロしていた。ハクのように特に目的もないので、人間の住処を興味深く見ていた。すると、部屋から話し声か聞こえる。キリコは、その部屋に躊躇(ためら)わずに入って行った。


「うむ……」

「コーリア男爵、どうかしましたかな? 」

「いや、何、今、誰かいたように感じましてな。気のせいのようです」

「そうでしたか。コーリア男爵にお付き合い頂いて、酒も話も弾んでしまったようです」

「ガリス殿もお疲れでしょう。部屋に案内致しましょうか? 」

「名残惜しいですが、そうさせて頂きましょうか」


 執事のデマスが、ガリス徴税官を部屋に案内する為、連れ出した。残ったコーリア男爵は、1人、酒を飲んでいる。


「魔族か……あの時は、ライゼンと一緒に戦ったんだ……結局、魔族は、用が済んで引き返し、ライゼンは、己の剣が魔族に通用しなかった事に不甲斐さを感じて、旅に出たんだ……だが、今度こそは……」


 コーリア男爵の今夜の酒は、少し苦かったようだ。


 そんな話を聞いていたキリコは、つまらなそうに、部屋を出て行った。


「おっさんの話は、詰まらない。でも、魔族か……懐かしい。ロミは元気かしら……」


 廊下を歩いていると、ハクとササの姿が見えた。キリコは、2人に合流する。


「あっ、キリコ様」

「腹は(ふく)れたか? 」


「ハク、ササ、ここは詰まらない」


「わかった。だが、もう少し付き合え」

「了解した」


 3人は、ササを頼りに、二階の部屋の前にたどり着く。


「ここです」

「そうか……」


 防音構造になっているのか、部屋の中の声は、良く聞き取れないが、悲鳴らしき声が漏れだしている。


 3人は、こっそり中に入ると、


「えいっ! 」


『ビシッ! ビシッ! 』


「うぅ〜〜……」


「どうだ? 気持ち良いだろう? わはははは。あれ、先が切れてきまったようだ。う〜〜む。このムチでは、ダメですか……確か、リザードマンの皮をなめしたムチがあったはずですが……」


 男は、そう言いながら、自分の持ってきた荷物の中を探しだした。

 ベッドの上には、裸姿の獣人の女の子が、血を流していた。


「ウッ! 何て、酷い事を……」


 ベッドに血まみれになって、横たわっていた銀狼族の女の子は、ササの声に反応した。まだ、意識があるようだ。


「この男、さっき、酒を飲んでた。部屋に帰って、もう、こんな事するなんて、腐った奴」


「確かに酷いな。消してもいいが、後が面倒だ。キリコ、あの男、眠らせろ」

「食べた方が早いのに……ハクも面倒」


 キリコは、その男、徴税官のガリスに向かって霧を吐いた。霧に包まれたガリスは、あっという間に眠り込んで倒れてしまった。


 ハクと、ササは、ベッドに横たわっている獣人のこのところに向かう。


「うちの里の者ではないです」

「そうか……どこからか、さらってきたのか」


 ハクは、手を翳し、銀狼族の子の傷を消した。だが、意識が混濁しているようで、動きもせず、横たわったままだ。


「薬物投与されている」

「キリコ、そうなのか? 」

「そう。身体を麻痺させるもの」

「わかった」


 ハクは、また、その子の手を翳した。すると、今度は、目を開け、身体を起こしベッドの角に逃げ出した。


「イヤ、もう、痛いのはイヤ……」


「大丈夫だ。ここから、出るぞ」

「何? 誰? 匂いはするけど、姿が見えない」

「そうだったな。キリコ、この子にも透明化の魔法かけてくれ」


「ハクは、ヒュドラ扱いが荒い……」


 キリコは、その銀狼族の娘に透明化の魔法をかける。すると、ハク達の姿が見えたようだ。


「何で、何処から現れたの? 」

「話は後だ。歩けるか? 」

「何処にいくの? また、あんなとこに連れてくの? 」


「面倒だ。ササ、頼む」


「わかりました。怖がらなくて大丈夫です。私は、白狐族の娘、ササです。貴女をここから連れ出し、できれば、里に帰してあげたいと思ってます」

「本当? 本当に里に帰れるの? 」

「はい。そのつもりです」

「わかった。一緒に行く」


 しかし、立ち上がった銀狼族の娘は、ふらついていて歩けない。地下牢に閉じ込められ、まともな食事をとっていなかったためだろう。フラフラしている。


「仕方ない……」


 ハクは、その娘にシーツを巻き、抱えた。


「ひゃっ! 」


「変な声出すな。行くぞ」


 銀狼族の娘を抱えて、ハク達は、その屋敷を後にした。




◇◇◇



 宿屋に戻ろうとしたが、抜け出したのがバレて手が回っては面倒だ。しかも、ハク自身、異端者として追われている。仕方なく、その銀狼族の娘を連れて、ササの里まで行く事にした。


「キリコ、ササの里まで転移できるか? 」

「転移は、ヒコのが得意。今、変わる」


「ふぅ〜〜ひさびさです〜〜」


 ヒコに変わったつもりが、フウコになっている。


「何でお前が出てきたんだ? 」

「それは、登場回数が少ないからです〜〜」


「…………。ヒコに転移をお願いしたのだが……」

「転移じゃなくても行けますよ〜〜。ササの里に行けばいいんでしょう? 」

「あぁ、頼む」

「では、フウコにお任せ下さい。エイッ! 」


 フウコが、掛け声をかけると、ハク達の足元から雲が湧いてきた。その雲は弾力があり、みんなを上に乗せ、浮き出した。


「では、行きま〜〜す」


 浮いた雲は、どんどん上昇し、空高く浮かぶ。そして、白狐族の里に向かって動き出した。


「これは、凄いな」

「怖いですけど、楽しいです」

「何、これ、浮かんで空飛んでる〜〜」


「どんなもんです。エッヘン! 」


 フウコのドヤ顏が鬱陶(うっとう)しい……


 でも、そのおかげで、あっという間に、白狐族の里に着いてしまった。


 雲に乗っているフウコ、ハク、ササ、そして、銀狼族の娘は、里の上に不自然な雲が降りてくるという、その異変に気付いた里の者達に迎えられた。空の雲から、顔を覗かすササの顔を見て、ササの父親の里長は、不安な顔つきから満面の笑みに変わり、大きく手を振り出した。


 それを見ていたフウコは、


「ササは、お父さんに愛されてますね〜〜」

「恥ずかしいです。勘弁して下さい……フニョ」


 うつむいてしまったササの顔は真っ赤だ。


「でも、たった1日の冒険でしたね〜〜」

「この場合は仕方ないです。でも、また、ハクさんと出かけますから」


 ササのうるうるした瞳で熱く見つめられたハクは、


「まぁ、約束だしな……」


 明後日(あさって)の方を向きながら、仕方なく? そう返事をした。




◇◇◇



 銀狼族の娘、名前はルルというらしい。年齢は15歳。南方のオーリア国に銀狼族の里があるらしい。


 森で狩りをしていたところ、罠に捕まり、それが奴隷商人の手がけた物であったため、奴隷に落とされ、何人もの主人に仕えたようだ。


 銀狼族は、満月になると、凶暴になる為、今までの主人は、ルルを手放したらしい。そして、カラナ国のコーリア男爵に売られ、地下牢に閉じ込められていたという。


 話を聞き終わり、ハクは、ルルをササ一家に任せて、さっさと、里にある借り小屋に向かった。


 誰も使っていないという事なので、ハクは、滞在中には、ここで寝泊りをしていた。


 ハクは、寝転んで、目を閉じていると、フウコとルルがやって来た。


「あの〜〜助けて頂いてありがとう。お礼、まだだったから」

「あぁ、ついでだから気にしないでくれ」


 フウコは、そんなハクの態度を見て


『バコン! 』


 と、頭に拳の一撃を入れた。


「痛ッ! 何する? フウコ」

「ハク、態度が悪すぎです〜〜」


「あの、私は大丈夫です。気にしないで下さい……」


「もう、用は済んだんだろう? 早く、休ませてもらえ」

「ハクは、本当に口が悪いんですから〜〜」

「あの〜〜」

「まだ、用があるのか? 」


「私が説明します。ルルは、あの人間と奴隷契約を結んでいます。逃げ出した事が分かれば、首の首輪が締まって命を落とす危険があるのです」


「そうなのか? 」

「はい……」

「フウコ、お前が何とかしろ」


「あぁ〜〜もう、ハクと話しているとストレスが溜まります。ハクの力で、首輪を消してもらいたいのです。それと、奴隷契約の解除をお願いします。それが、一番有効なのです〜〜」


「俺がか……」

「ハクがです〜〜」


「わかった。おい、お前、こっちに来い」

「はい……」


 ハクは、まず、ルルの首に手を翳して、首輪を消した。そして、ルルの身体に手を翳し、契約によって縛られている状態を消し去った。


「これで、大丈夫だ」

「本当ですか? 凄い、凄い……」


 ルルの目に涙が溢れ出す。ハクは、そういう感情が苦手なようだ。ルルの目を背け、横になってしまった。


「あの〜〜ハクさん、ありがとう……」

「用が済んだら、早く行け」

「はい……」


「ハクの唐変木、べーーです」


 ハクの態度にフウコはイライラしている。ルルを連れて、ササの家に戻って行った。


 ハクは、誰もいなくなった部屋で、街での出来事やルルに笑みを浮かべて鞭を叩いていた奴を思い出していた。


「この世界の人間は、クソな奴らが多過ぎる……」


 そう呟き、眠りの世界に落ちて行った。





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