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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第18話





 ヒコの姿になっているヒュドラとササが、転移した場所は、ハクが桶を壊した古井戸のある空き地だった。


 ササは、転移魔法初体験の為、転移先に着くなり、バランスを崩し、転びそうになったみたいで、慌ててヒコの袖に捕まった。その結果、2人ともバランスを崩して尻もちを付いてしまった。


「わっ〜〜ヒコ様、すみません」

「平気よ。転移すると『モワッ』ってなるからネ〜〜、慣れると大丈夫なんだけど」


 そんな2人を見ていた子供がいた。


「おね〜〜ちゃん達、どこからきたの? 」


「あれ〜〜見られちゃった? 内緒にしてくれる? 」


「わかった」


 聞き分けの良い返事をしたのは子供は、ハクの時と同じユズだった。


「ヒコ様、この子供からハクさんの匂いがします」

「そうなの? ねぇ、ここに、白い髪の目付きの悪い、超絶美人の女性と可愛い女の子を置いてけぼりにする性格最悪の男性来なかった? 」


「それって、ハクさんの事ですか? 」


「そうそう、ハクの事よ。知ってるの? 」

「はい。ハクさんは、お母さんの病気を治してくれて、おまけに、お金まで置いていってくれて、どっかに行ってしまいました。ハクさんは、とても良い人です。おね〜さん達は、ハクさんの知り合いなんですか? 」


「そうだけど、あのハクがね〜〜」

「やはり、ハクさんです。とても、優しいです」


「良かったら、家に寄って下さい。ハクさんの知り合いなら、お母さんも喜びます」


「どうする? ササ? 」

「ご迷惑じゃ……」


「いいえ、構いません」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 ヒコとササは、お尻についた土ほこりを払いながら、ユズの案内する家に向かって歩き出した。


 ササは、周りに乱立するボロい小屋やその子供の姿を見て、


「人間は、私達獣人より、裕福な暮らしをしていると思ってました。だけど……」


「ササが、言いたい事はわかるわ。人もそれぞれなのよ。きっと……」

「そうなのですか……」


「ところで、あなたは、なんて名前なの? 」

「ユズです」

「ユズちゃんか〜〜美味しそうな……じゃなくって、可愛い名前ネ」


「ヒコ様! 」

「ごめん、ササ、間違えた〜〜」


「あの〜〜ここです。ちょっと待って下さい。お母さ〜〜ん。ハクさんの知り合いの人、連れて来たよ〜〜」


「まぁ、ハクさんの? 入ってもらって、ユズ」

「うん」


 ヒコとササは、ユズの案内で、家に招かれた。2人にとっては、初めての人間の暮らしを目の当たりにする。ササは、人間達は、裕福に苦労なく生活していると思っていたので、色々考えさせられたようだ。


 ユズの家の生活は、ササの暮らしよりも酷かった。水も不味いし、食事も碌な物を取っていない事を知ると、森の生活の方が、余程、裕福に思える。


「すみません。ハクさんのお知り合いなのに、碌な物が出せなくて……」

「構わないわ。でも、病気が治っても、こんな水を飲んでたら、また、病気しちゃうわよ」


「前は、直ぐそばの井戸で水が出たので、良かったのですが、今は、その井戸も枯れてしまって、ここから1時間かけて、お屋敷の裏町まで取りに行かなければならないのです」


 ユズの母親は、申し訳なさそうに話す。


「近くの井戸ってどこにあったの? 」

「それは、おね〜〜ちゃんが尻もちついてたとこだよ」

「あぁ、そういえば、なんかあったわ。わかった。私に任せておいて」

「えっ? 」


 ヒコ達は、さっきの空き地に向かった。ヒコが古井戸を覗くと


「これ、水、出るわよ。少し、水脈が、井戸の穴より、深くなったみたいネ」


「そうなのですか? 」

「おね〜〜ちゃん。何でわかるの? 」


「それは、秘密よ。でも、こういう事は、フウコの方が得意なんだよネ〜〜、よしっ!」


 ヒコは、みんなの見てる前で井戸に飛び込んだ。


「ヒコ様ーー! 」

「おねーーちゃん! 」

「わっ! 大変、ロープ持ってくるわ」


 すると、その時、


「お待たせ〜〜」


 ヒコが、ヒョコンっと井戸から飛び出してきた。すると、枯れていた井戸に水が、満ち始めてくる。


「ヒコ様、何したんですか? 」

「ちょっと、井戸を深く掘っただけだよ」


「わぁ〜〜水だーー! お母さん、見て見て〜〜」


 ユズは、大喜びだ。


「本当ね。凄いわ」


 ユズの母親も枯れた井戸に水が溢れ出てきたので驚いている。貧民街の人々も、少しづつ集まって来た。井戸に水が溢れ出しているその光景を見て、みんな喜んでいる。


「まだ、少し、水を流しておかないと、ダメよ。汚れが無くなって透き通ってきたらOKよ」


 ヒコの説明に、貧民街の大人達は頷く。子供達は、我先と、水で遊び始めた。


「ありがとうございます。ハクさんといい、お嬢様といい、感謝しかありません」


 ユズの母親は、ヒコに頭を下げてお礼を言う。それを、見ていた貧民街の大人達も頭を下げた。


「あとは、食料ね。本当は、持続的に調達できる方が良いけど、明日のご飯より、今の空腹をどうにかしないとネ。ちょっと、待ってて」


 ヒコは、そう言うと、いきなりその場から消えた。どうやら転移したようだ。


「おね〜〜ちゃんが消えちゃった〜〜」

「何だ、何だ。あのお嬢さんが消えたぞ! 」


「あの〜〜あのお方は、どういうお方なのですか? 」


「え〜〜と、その〜〜」


 ユズの母親が、ササに問いかける。ササは、まさか、この世界を(おびや)かすヒュドラとも言えず、返答に困っていると、


「お待たせ〜〜」


 ヒコが、巨大な猪の魔獣を抱えて現れた。その場にいた者は、その見たこともない魔獣の大きさに驚き、腰を抜かす者までいた。


「大魔法師様だ……」

「そうだ。きっと、あの方は、高名な魔法師様に違いない」

「凄いぞ! 凄いぞーー! 」


『おぉーー!! 』


 その空き地に大きな歓声が鳴り響いた。


 それからは、みんなが、協力して、その猪の魔獣を(さば)き、水の溢れた井戸の周りで、盛大な宴会になったのである。




◇◇◇




 その頃、ハクは、高台の屋敷の側にいた。どうやら、ハクの目的は、この屋敷に来ることだったらしい。


 ここに来る前、街にある掲示板にハクの事が掲載されていた。イリサス教会の御触書(おふれがき)で、ハクは、異端者として、懸賞金がかけられている。ハクは、この世界の字が読めなかったので、掲示板の前に立ち止まってそのお触れを見ている人達が会話している内容を聞き取ったようだ。


「何で俺が ……」


 そうハクは思いながら、その屋敷にやって来たのである。


 この屋敷には、この辺りの領主コーリア男爵の屋敷だ。表門には、衛兵が立番している。


 先程、豪華な馬車が街からやってきて、中に入ったばかりである。


 ハクは、気配は消していても、姿が見えなくなった訳ではない。森の中に、ハクという木を隠したように、気づかれ難いだけた。人があふれる街なかでは、余程のことが無い限り気づかれる事はないが、人気の無い場所で、視認されたら気づかれてしまう。


 ハクは、街に来て、その事を理解した。


「夜にするか……」


 ハクは、引き返し、街中に消えて行った。




◇◇◇




「早く! 早く! 」


 東條 凛は、ノソノソ歩いている研一を急かしていた。


 研一は、津田君の件で、ショックのあまり、何も考えられないような状態だ。


 手毬も、目が虚になっている。


 3人は、あれから、熊の魔獣の遺体の一部を切り取り、絶命した場所に置いておいた。そして、それ以外のものは、川に捨てた。


 津田君の頭部と身体も同じように川に投げ込んだ。熊の魔獣に襲われたように細工をしたのである。


 自分達も、服の一部を切り取り、その場に置いておく。


 こうすれば、ここにいた物は、魔獣に襲われ、川に身を投げたように思えるだろう。


 何故、ここまでしたかというと、津田君の首を吹き飛ばしたチョーカーの存在があったからだ。


 凛、手毬、研一の首にもそれは、つけられている。


 3人は、細工を施し、川上、山脈の方に向かって逃げているのである。


「あんた、ショックなのは、わかるけど、少しでもあの場所から離れないと大変な事になるんだよ。手毬も、頑張ってよ」


「凛、わかってるんだけど、身体が言うこときいてくれないのよ」

「すまない。東條さん……僕、少し、休みたい……」


「しょうがないわね〜〜少しだけよ」


 3人は、あの滝壺の場所から、かなり離れた場所に来ていた。向かった先は、そびえ立つ山の方だ。あの、山脈を越えようと考えているらしい。


 3人は適当な場所に腰掛け、休息をとった。


「みんな、もう、戻ってきたかなぁ? 」

「わからないけど、あれだけ、細工しとけば、しばらく誤魔化せるんじゃない? 」

「しかし、驚いたよ。東條さんは、良く平気で、その〜〜遺体を……」


「平気なわけないじゃん。でも、手毬もあんたも呆然としてて何も出来そうもなかったから、仕方なかったのよ。私だって、あんなの目の当たりにしたら……」


「すまなかった……言葉が過ぎたよ」

「凛、いつもごめんね。私、役にたてなくて……」


「いいよ。でも、謝られるより、ありがとうって言われた方が嬉しい」


「そうだよね。ありがとう、凛」

「僕も礼を言っておくよ」


「それより、これからどうする? 」

「そうだよね……チョーカー付いてるし……」

「とりあえず、あの山を越えよう。そうすれば、追っても直ぐには追いつけないだろう。それに、時間が出来れば、これを外す良い考えが見つけられるかもしれない」


「あの山ね〜〜岩だよ。それに、垂直に切り立ってるよ」

「登るしか方法はないけど、うまくいけば、女性達2人の力で切り抜けられるかもしれない」


「外内君、それって、どういうことなの? 」


「野々宮さんのギフトなら、さっきみたいに、どんぐりを育成して、山の上まで、みんなを運べるかもしれない。それに、東條さんの運搬のギフトが使えれば、転移も可能だ」


「そうか〜〜さすがだね」


「私、ギフト、まだ、上手く使えないよ」

「時間はまだある。少しづつ練習すれば良い」

「そうだけど……本当に転移できるのかしら? 」

「それは、わからない。でも、可能性がないわけじゃない、と思う」


「まぁ、どうにかなるか? 」


 3人は、最初から逃げるつもりでいたが、津田君の件でその思いは強くなった。


 この世界に来て、優しく接してくれた魔法指導役のレイラだけは、信用出来そうだと思い始めていたのだが、魔法士がチョーカーの存在を知らない訳がない。そう考えると、初めから騙されていたのでは? という結論に達したようだ。


 3人は、重い腰を上げ、目の前にそびえ立つ山に向かって歩き出した。





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