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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第17話





『わっ! 』


「シッーー! 声が大きいよ。あの熊魔獣、僕達の事、気づいてないみたいだ……」


 熊の魔獣からは生い茂る木の葉に隠れて、こちらは見えてないようだ。


「もしかして、私達がいる場所が風下だから……? 」

「流石、野々宮さん、僕もそうだと思う……」


 兵士の腕を咥えたその熊魔獣は、ゆっくりと移動し始めた。


「ねぇ、移動しはじめたわよ……」


「あの熊が(くわ)えてたのって、まさか、兵隊さんの……」

「あぁ、腕みたいだったね……」

「という事は、あの兵隊さんは……」


「ストップ! ストップ! 手毬……怖いからあえて触れないようにしてたのに〜〜」

「ごめん、凛……」


 木の陰に隠れて様子を見守る3人は、熊の魔獣の動向から目が離せなかった。嫌な汗をかいているのがわかる。


 熊魔獣が移動して、3人の視界から消えて行っても暫く、みんなは、この場所から動く事が出来なかった。


「熊、行ったみたいだね……」

「あぁ……命拾いをしたよ」


「あのさぁーー熊、熊って驚き過ぎじゃないの? 」

「何行ってるんだ。東條さん……熊は凶暴な動物だ。しかも、あれは、魔獣みたいだ。ツノも生えてたしね。今の俺達じゃあ、一捻(ひとひね)りでお陀仏だよ」

「そうよ。兵隊さんもやられてしまったんだから〜〜」

「そうね……悪かったわ。それにしても、熊は何処に行ったのかしら? 」

「さぁーー? 熊に聞いてくれ! 」

「あっちの方向って、私達が休んでいた場所だよね」

「水でも飲みに行ったんじゃないの? 」


「そう言えば、私達、何で森にいるんだっけ? 」

「東條さんは忘れっぽいね。津田君の添木を探しにきたんじゃないか」

「津田君って、川で足を冷やしてたわよね」

「腫れが酷かったからね。冷やした方が治りも早いはずだよ」

「そうじゃなくて、川に行ったのよね。あの熊……」

「あぁ〜〜あの方向ならね」


 3人は恐怖のあまり、大事な事を忘れていたようだ。みんなは、お互いの顔を見渡した。


『あっ! 津田君が危ない! 』


 3人その場を離れ、滝壺のある河原に向かった。


「あんた、何、ボーッとしてたのよ」

「東條さんこそ、ビビってた癖に……」

「何、ヤル気なの? 」

「あぁーー今度ばかりは、その生意気な口を塞いでやる! 」


「2人ともやめなよ。それより、みんな剣はどうしたの? 」

「しまった……河原に置きっぱなしだ」


「ほらっ、役立たずじゃん」

「東條さんこそ、何も持ってないように見えるけど? 」

「私は……そう、剣を大事にしまっておいたのよ。悪い? 」

「私も持ってきてないよーー」


 3人は武器も持たずに森に入り込んだようだ。慎重なようでどこか抜けてるのは、平和な日本で育ったせいかもしれない。


「何か武器になる様な物はないか……」


 みんな、それぞれのポケットを探っていたが、目ぼしいものは見つからない。


「私、これ、持ってるよ」

「それ、どんぐりだよね〜〜東條さんは、収集癖のある幼稚園児なの? 」

「な、何言ってるの? 非常食になるかもって、拾っておいただけよ」

「そう〜〜どんぐり食べるんですか? リスなんですか? 」


 でも、その時、研一はある事を思いついた。


「ねぇ、そのどんぐり、野々宮さんの能力なら効果を発揮できるんじゃないかな? 」

「えーーっ! どうやって? 」

「さっき、津田君を診た時ギフトを使ってみたんだ。心で念じると使えるようになったんだよ」

「じゃあ、私もどんぐりが成長するイメージを心に抱けば使えるって事? 」

「確証はないけど、多分、イケると思う」

「うん。わかった……怖いけど、やってみる」


『わっーー!! 』『ゴゴゴゴーー! 』


 3人が河原に出ようとした時、またしても大きな悲鳴と地響きが鳴り響いた。


「遅かったか……」


 河原に出た3人は、スプラッタ状態の津田君を思い描いていたが、実際は、不自然に盛り上がった土の壁に向かって両手を交互に繰り出している熊の魔獣の姿だけだった。


「津田君は? 」

「あの土壁の中じゃないの? 」

「そうか! ギフトを使ったんだ。津田君のギフトは建造だからね」

「じゃあ、あのデブは、まだ無事なの? 」

「東條さん、人の体形をなじるのは良くないと思うよ」

「そうだよ。凛。言い過ぎだよ」

「だって、デブはデブよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」


「今の発言は、問題有りだね」

「凛、炎上しちゃうよ。その発言は」


「あーー! 煩い! それより、どうするのよ。このままでは持久戦よ」


「野々宮さん、ギフトを使ってみてくれる? どんぐりが発芽して(つる)が熊を(から)めるイメージで」


「わかった。やってみる……ギフト、育成! 」


 手毬がそう唱えると、手の平にあったどんぐりから芽が出始めた。そして、その芽はどんどん生育し始める。


 熊の魔獣は、こちらに気が付いたようだ。3人めがけてこちらに向かってくる。


「何、アレ、超怖いんですけど〜〜」


 凛は、向かって来る熊魔獣をみて、後ずさる。しかし、手毬の蔓が熊に向かってどんどん伸び始めた。


「野々宮さん、もう少しだ。頑張ってくれーー! 」

「うん、わかってる」


 手毬の蔓を熊魔獣は、その鋭い爪で掻きむしって抵抗していた。だが、手毬の蔓の伸び率のが方が勢いが良いようだ。


 蔓は、熊魔獣を螺旋状に拘束し始めた。抵抗する熊魔獣に、研一は、取りに行った剣を持ち出して、目を閉じながら剣先を熊に打ち込んだ。


『グルゥーーッ! 』


 熊魔獣は、鈍い唸りを上げる。まだ、絶命していないようだ。しかし、手毬の蔓が、熊魔獣を締め上げる。すると、魔獣が苦しそうにもがき、動かなくなった。


「手毬、やったの? 」

「ど、どうしよう〜〜熊さん殺しちゃったよ〜〜! 」


「野々宮さん、アレは、熊じゃない。恐ろしい魔獣なんだよ」

「わかってるけど、だけど……」


「手毬、スゴイよ。手毬のおかげで私達助かったんだからぁ」

「この世界は、きっとこういう世界なんだ。生きたければ戦うしかないんだ」


「そうだよね。そうだよね……」


 手毬は、魔獣といえども、自分がその命を終わらせた事に罪悪感を感じているようだ。手毬の身体が震えているのがわかる。


「津田君は、無事か? 津田君! 津田君! 」


「外内君なの? 僕は無事だよーー」


 声が聞こえると同時に、その場に不似合いな土壁が崩れ始めた。その中から、津田君が出て来る。


「外内君、怖かったよ」

「あーー無事で何よりだ」

「あの熊は? 」

「熊の魔獣なら野々宮さんがやっつけてくれたよ。お礼を言っておく方が良いと思う」

「うん。野々宮さん。あの〜〜助けてくれてありがとう」


「うん、うん、良かった……」


 津田君を救ったという証が野々宮さんの罪悪感を薄めさせたようだ。野々宮さんの身体の震えが止まっている。


「いきなり熊が襲ってきたから焦ったよ。もう、終わりだと思ったら、いきなり、土が盛り上がって壁が出来たんだ。あーー苦しい」


 興奮しながら津田君は、首にめり込んでいるチョーカーを引っ張った。


「僕、太ってるから、この魔力暴走予防装置が首を絞めつけて苦しいんだ。取っても大丈夫かな? 」


「そうなのか? サイズの大きい物に取り替えて貰えば良かったのに」

「言ったんだけど、他にないんだってさ」


「そうか……」


 確かに津田君のチョーカーは、首の皮膚にめり込んでいる。これは、これで危険な感じだ。


「興奮したから、これが、苦しいんだ。もう、取っちゃえ! 」


 津田君は、力任せに首に巻きついているチョーカーを引っ張った。しかし、そう簡単に取れそうもない。でも、諦めずに、引っ張っている。その時、


『ボンッ! 』


 何かが破裂するような音がした。


「何、今の音? 」


 東條さんが振り返る。


「キャッーー! 」


 野々宮さんの悲鳴が聞こえた。


 研一は、その場に立ち尽くし、津田君の首の無い胴体から噴水のように溢れる血を浴びていた。






「これはどういう事だ? 」

「冒険者ギルドの報告では、確かに、ここにオークの巣があったと聞いているのですが……」


 オーク討伐に向かった聖騎士団率いる高校生達の討伐隊は、その住処を発見し、洞窟内に入って行った。


 しかし、洞窟内は、蝙蝠が飛び立つぐらいでオーク一匹もいない。ハクが消してしまったのだから当然だろう。


「隊長、奥にもオークの姿を発見できませんでした。死体一つありませんが、オークが生活していた痕跡は残っています」


「巣移動でもしたのか? 」

「わかりませんが、誰かが討伐したり、上位の魔獣が襲ったのなら、その痕跡があるはずなのですが、そういうものは、一切見当たりません」


「わかった。警戒しつつ、周囲を探索しろ! 異世界人も協力してもらえ」


「はい。畏まりました」


 部下に命令を下した聖騎士団のアレン=キャプチャーは、この事態に不安を感じていた。


「冒険者ギルドが嘘の報告をするはずはない……そんな事をしたら重罪だ。なら、どうして、オークはいないんだ……」


 皆が洞窟内を忙しなく動き回る中、アレンは、目を閉じてあらゆる可能性を考えていた。下手な行動をとれば、部隊の全滅に繋がる。それだけは、どうしても避けねばならない。


 洞窟内を呑気そうに、話しながら歩き回る、召喚された異世界人を見て、アレンは、どうしようもない苛立ちを感じていた。







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