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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第16話




 今日の天気は少しどんよりしている。雲が多く雨でも降り出しそうな感じだ。


 聖騎士団率いる高校生達は、朝、起きて準備を済ませて、オークの住処へ討伐に向かった。


 滝壺があるこの開けた所には、研一をはじめ、病気の女子2人と年若い兵士が1人残った。

 兵士は、手持ち無沙汰のようで、あちこち探索しながら、研一達に注意を向けていた。

 研一は、女子とは少し距離をとった場所にいたが、その目の動きは、女子2人と兵士に注がれている。


 東條 凛と野々宮 手毬を注意深く見てると、時より、2人で話し込み、笑顔を見せるようになっていた。やはり、研一が思っていた事は正しかったようだ。


 研一は、それを確かめるべく、2人の女子に近づいた。研一の考えが正しければ、この2人は、この世界に疑念を抱いているはずだ。


「お腹の痛みはどうだい? 」

「何しに来たのよ! この、変態」

「凛、そんな事言っちゃダメだよ」

「だって、こいつ、医者オタクだよ。この歳でお医者さんごっこが趣味だなんて、変態以外ありえないでしょう? 」

「だから、凛、それは、きっと、外内君に気づかれてたんだよ」

「そんなはずないでしょう? この変態にそんな頭ある訳ないじゃん」


 研一がちょっと話しかけただけで、数倍の皮肉を込めた返答が返ってきた。研一は、警備兵を注視しながら、


「声が大きいよ。2人が、仮病なのは分かってたよ。で、どうしてそんな事したんだい? 」

「変態に答える義務はありません。あんな恥ずかしい質問しといて、よく平気で私達の前に来れるわね」

「ごめんね。外内君」


「謝る必要はないよ。それと、けなされる理由も僕はないと思うのだけど? 」

「そうよね……ごめん」

「手毬、何謝ってるの? こいつ、変態だよ」

「違うよ。外内君は、全部わかってるんだよ。私達が、仮病まで使ってここに残った理由を……」


「まぁ、大体の想像はつくけど、全部わかっているなんて、思ってないよ。それに、わかってたら、ここに聞きに来ないしね」


「そうだよね……」


「何、手毬は、ベラベラ秘密喋ってるの? こいつ、信用できるかどうかさへ、疑わしいのに……」


「俺も、東條さんの意見に同感だ。下手に口走っては、いけないと思う。俺は、ただ、医者の息子で俺自身も医者を目指してるから、さっきは、その責務を果たしただけだ」


「へ〜〜あんた、お医者さんになりたいの? お似合いだわ」


「野々宮さんのように直ぐに他人を信用するのもどうかと思うけど、東條さんのように相手に敵意しか向けないのもどうかと思うよ」


「何よ!あんた、喧嘩売ってるの? 」

「凛、落ち着きなよ。兵隊さんに気づかれるよ」

「そ、そうよね……」


 そう言って東條 凛は、研一を睨みつけた。研一は、そんな東條 凛を見て、呆れるように、大袈裟なジェスチャーをとった。


「まぁ、わかっていたけど病気が本当でなくて良かったよ。それと、君達は、この世界に疑念を抱いてるよね? 」

「ほらっ、やはり、凛と同じ事を考えてるよ。外内君は」


「野々宮さん……まぁ、いいけど……これから話す事は俺の独り言だ。聞き流してくれ……

 俺達がこの世界に召喚された時、この国の王子という奴が話していた内容は、嘘だと思う。きっと、俺達は、元の世界に戻れない。いや、戻す方法がわからないのだと思う。つまり、日本からこの世界は一方通行なんだ。それで、俺は、今の状況を危ぶんでいる。嘘をついてまで、俺達を訓練させて、強くさせたのには、理由があると思う。確か、魔王討伐と異端者討伐をしてもらいたいとあの王子は言っていたけど、それは、本当だと思う。つまり、俺達は、あの王子の都合の良い駒なんだ。本当に倒したかったら自国の兵隊の強化をすべきなんだ。召喚してまで、俺達を使う必要はどこにもない。あるとしたら、討伐すべき相手が余程の強者なんだ。だから自国の兵を欠けさせるより、召喚させてまで俺達に戦わせようと思っているんだ。それなら、自分達は安全だからね。まぁ、これは、俺の独り言だけど……」


「あんた、見かけの割には色々なことを考えていたのね。少しは、見直したわ。医者オタクさん」


「凛ったら〜〜そうなの。私達も同じ様な事を考えていたの。特に、凛がだけどね」


「当たり前じゃない。こんなテンプレな展開、きっと、罠があるに決まってるわ。こういう場合は、群れから離れた方が正解なのよ。ゲームやラノベではね」


「ゲームの話は知らないけど、その群れを離れてみないか? 1人では心もとなかったけど、君達と一緒ならどうにか生き残れるかもしれない」


「私達は、元からそのつもりだけどね。まぁ、あんたもそう、悪い奴じゃなさそうだし、どうしても、というならいいわよ」

「私も外内君がいてくれたら心強いよ」

「あんた、どんなギフトを授かったの? 」

「僕は『診察』というものだよ。いまいち、理解してないけど」

「ギフトまで。お医者さんごっことはね。あんた、真性ね」

「東條さんは? 」

「私は……その……『運搬』よ」

「運搬……運搬って物を運ぶアレだよね。これは、レアな能力だね」

「何、あんた。バカにしてるの? こいつ、殺す。絶対、殺す……」

「興奮してるとこ悪いんだけど、マジでレアだと思ったんだよ。東條さんがどう理解してるか知らないけど、運搬ってある地点から目的地まで物を運ぶ能力だよね。って事は、どうやって運ぶの? 東條さんが担いで? それとも、転移して? 」

「はっ! 」

「この世界は、魔法が使えるんだよね。そしたら、担ぐより、転移の方がこの世界にマッチすると思うけど……」

「そ、そうなのかなぁ……」

「野々宮さんは? 」

「私は『育成」だよ」

「育成……これもレアな能力だね」

「そうなの? 」

「例えば、植物を育成する、とかが一般的だけど、じゃあ、人間は? 育成できるよね。それに、魔獣は? 軍は? 国は? この世界は? 」

「凄い、凄いわ」

「この世界は、僕等がいた世界の常識は通用しないけど、その知識とギフトを重ね合わせたらどうなるんだろう? この世界の住人には想像もつかない使い方ができるんじゃないかな? 」

「そうなら良いけど……」

「僕自身、自分のギフトの使い方がいまいちわからないんだ。でも、これは、きっと役に立つレアなものだと思っている。今は、ただのゴミスキルだけどね」


「まぁ、あんたも少しは役に立ちそうだから、殺すのは勘弁してあげるわ」

「それは有り難い。まだ、何もわからないうちに死にたくないからね。で、いつ行動を起こすつもりなの? 」

「今の状況を無駄にしたくないわ。でも、監視兵がつけられてしまったのは予想外なんだ。最悪、あんただけなら、色々誤魔化せたのに……」


「凛は口は悪けど、優しいんだよ」

「何、急にそんな恥ずかしい事言ってんの? 手毬は」

「だって、凛の良さを外内君にも知って欲しいから」


「その必要はないよ。今、話して、東條さんがとても賢く、そして優しい人物なのはわかったから」

「何あんたまで、そんな事言ってんの? ちょっと話しただけで、私の事わかるはずないじゃん」

「そうだよね。だけど、野々宮さんにそんな事言ってもらえる東條さんは、きっと本当に優しいんだなと思っただけだよ」

「カァーーよく臆面もなくそんなハズい事言えるわね。わかった。あんた、手毬推しなのね」


「その東條さんの予想を超えるもの言い何とかならない? 」

「あんたの、その偉そうな悟りを開いた仙人のようなもの言い、本当にムカつくわ」


「まぁまぁ2人とも落ち着いてよ。兵隊さんに怪しまれちゃうよ」

『す、すみません……』


「兵隊さんがトイレに行った時行動に移しましょうよ。ねっ、凛」

「そうね。そうしようか? 」

「わかった。僕に良い考えがある。2人は、僕が合図したらいつでも逃げられるようにしておいてくれる。荷物もわからないようにまとめておいてね」


「考えって何よ? 」

「それは、あとのお楽しみ……」


 研一には、ある考えが浮かんでいた。それと、ここを脱出してから何処に行けば良いのか考え始めていた。滝の先には、山脈が連なっている。


「あの山を超える事が出来れば……」


研一は、密かにそう思っていた。







「お仕事お疲れ様です。もうじきお昼なので、これを作ってみたのですけど、こちらの世界の人の口に合うか心配なのです。よかったら試食して感想を言ってくれませんか? 」


「う〜〜ん。これは、良い匂いだ。これは、男爵芋だね」

「はい。同じような食材がここにあったものですから、私達の世界流にアレンジしてみたのですが……どうですか? 」


「モグモグ……うん、これはいけるよ」

「ありがとうございます」


 研一がいきなり食料が入った袋を開け、土鍋にジャガイモを煮出したので、凛と手毬は、その行動の意味が理解できなかった。


「あいつ、何やってるの? 医者から料理人にジョブチェンジしたの? 」

「外内君、料理もできるんだね〜〜」

「何、手毬、あいつの事好きなの? 」

「凛、怒るよ。こんな時に〜〜」

「そうだよね……失礼しました」


 そして、30分後には、


「痛たたたた」


 兵士がお腹を抱えて、森の中に走って行った。

 研一が凛と手毬に手を上げて合図している。


「どうやら、これがあいつの作戦みたいね」

「早く行こうよ。兵隊さんが戻って来る前に」

「うん」


 女性達2人が研一と合流しようとした時、突然、背後から声がかかった。


「外内く〜〜ん。待ってよ〜〜。どこ行くの? 」


 みんなが振り返ると、そこには、クラスメイトの津田 亮司が片足を引きずりながら手を振っている。


 研一達は、お互い顔を見合わせて、仕方なく、亮司のところに向かった。


「津田君だよね。どうしたの? 」

「山に向かう途中、転んで足をくじいたんだ。それで、レイラさんが戻って外内君に診てもらえって言われたから……みんなは、何してたの? 」


「俺達は、滝の向こう側が綺麗だから、見に行こうとしただけだよ」

「東條さんと野々宮さんはお腹痛いの治ったの? 」


「うん、少し休んだら良くなったよ」

「私も……」


 研一達にとっては、招かざるクラスメイトの登場だ。この場は、一旦、行動を中止して様子をみた方が安全だと判断した研一は、


「じゃあ、津田君、あっちでその足を診てあげるよ」

「ありがとう。外内君。レイラさんから聞いたけど、医療関係のギフトを持ってるんだって? 凄いね」

「津田君のギフトは何だい? 」

「僕のは『建造』っていうらしいけど、使い方がわからないんだ」

「建造って、建物を作るアレかい? 」

「そうだと思うよ……」


 研一は、このギフトもレアなものだと感じていた。もしかしたら、何も無いところから、建物を建てれるんじゃないかと思っている。でも、本人には、その事を話さなかった。津田君は、小柄で太っている。それに、足をくじいていては、一緒に逃げるには至難の技だ。いつも、小早川君のグループにいて、楽しそうに話している姿を思い出すと、後々、面倒くさい展開になりかねない。


「津田君、そこに座って、(くじ)いた足を見せてくれる? 」

「うん。助かるよ」


 津田君は、手頃な石の上に腰掛け痛めた足を研一に見せた。足首のところが腫れている。


「随分、酷く挫いたんだなぁ〜〜これじゃあ、歩くにも痛いだろう? 」


 研一は、その腫れた部分に手を当てて、ギフト、診察と心の中で唱えてみた。すると、研一の頭の中で、レントゲンのように足の構造が見えてきた。


「そうか……このギフトは、こうして使うのか……」


 心の中で、自分のギフトの性能を確かめ、ついでに、津田君の診察も兼ねた。


「骨は折れて無いよ。でも、筋を痛めたみたいだね。炎症が起きている。足を冷やし、固定して、動かさないようにしておけば、一週間ぐらいで良くなって来ると思う。ちょっと、待ってて、今、添木(そえぎ)を見つけてくるから……」


「いいよ。そこまでしなくても……冷やせばいいんだね。じゃあ、足を川に入れておくよ」

「そうだね。それも1つの方法だ。でも、添木はしておいた方が良い。東條さんや野々宮さんにも手伝ってもらって探してくるよ」

「悪いなぁ〜〜僕なんかの為に〜〜」

「こういう時はお互い様さ」


 男子2人の会話を聞いていた凛と手毬は、研一と一緒に添木探しに森の中に入って行った。そして、小声で、


「どうするのよ〜〜これじゃあ、抜け出せないわ」

「一緒に連れて行く? 」


 凛と手毬は、予定が狂った事に少し焦りを感じているようだ。


「怪我人はほっとけないよ」

「でも、兵隊さんが戻ってきたら、不審がられるんじゃないの? あんたの料理のせいだって」

「それは、そうだけど……」


『うぁーーや、やめろーー! ギャーー! 』


 その時、森の中で叫ぶ悲鳴が聞こえた。声質からして、あの兵士のものだ。


「何々、何なの? 」

「普通じゃないよ。今の声は」


「わかってる。あれは、断末魔の叫びみたいだ。もしかして、何かに襲われたのか? 」

「何かって? 」

「魔獣とか? 」

「そう、例えば、あんな風に体長3メートルぐらいある熊のような魔獣に……」


『…………』


 研一、凛、手毬の少し先には、引きちぎった兵士の手を加えた熊の魔獣が立ち塞がっていた。







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