第13話
「おーーい、みんな! 今日は、ここまでにしよう」
レイフル国で召喚された日本の高校生達の剣術の指導に当たっていたシュベルトは、さっきまで、高校生達相手に、一対一の打ち込みの相手をしていた。
剣を触った事も無い高校生達が、一週間でどうにかなるとは、思えなかったが、どうにか格好だけは見られるようになってきた。
中でも、佐伯 優也 白河 美沙の両名は、飛び抜けて上達が早い。両名とも光魔法所持者である事にシュベルトは、納得していた。
「やったーー」
「私、結構、上達したと思う」
「さっきの魔法、ヤバかったよな〜〜」
生徒達は、時より、不安そうな顔をするが、自分達の置かれた状況に慣れてきた様子だ。特に魔法が使える事を喜んでいた。
「シュベルトさん、どうでしたか? 私の剣は? 」
「正直驚いている。こんな素直な剣は初めてだ。だが、実戦では、まだまだだと思う。沙織は、もう少し、駆け引きを覚えた方が良い」
「それ、褒めてるんですか〜〜? 」
「勿論だよ」
「やった〜〜! シュベルトさんに褒められた〜〜。今日、夕食、私と一緒に食べませんか? 」
「沙織だけずるいよ〜〜抜け駆けは無しって決めたじゃん」
「絵里子だって、お昼休み、シュベルトさんと話し込んでいたよね〜〜私、知ってるんだから〜〜」
「それは、誤解だよ。剣が重いから、もう少し軽い剣があるかどうか聞いてただけだよ」
「ほんと、それだけ〜〜? 」
指導官のシュベルトは、ブロンドの髪を持つイケメンだ。おまけに、歳もそんなに変わらない。山本 沙織や高坂 絵里子をはじめ、女生徒達からは、異国の王子様の様に見えているのだろう。数日の間に、女生徒の心を掴んでいた。
一方、魔法指導官レイラの方は、男子学生から、熱い視線を向けられていた。レイラとは、歳も変わらない為、話しかけやすい様だ。それに、ブロンド髪の美少女でもある。
「レイラさん、俺の魔法はどうですか? 」
「数日で、ここまで上達するなんて驚きですよ」
高校生達は、召喚された時の神からのギフトを持っている。魔法適性は、こちらの住民より高いようだ。
しかし、レイラの顔は優れなかった。明日は、山脈に棲むオーク退治に行かなければならない。魔法を使えるようになっても、実戦では役に立たないのではないかと案じていた。それに、神からのギフトを授かった者達を、盾にするような事も気になっていた。神への冒涜ではないかと考えているようだ。しかし、レオナルド第1王子の言葉には、逆らえない。その矛盾に心を痛めていた。
訓練は、滞り無く第1段階終えている。あとは、実戦の中で、腕を磨きながら成長するしかない。2〜3年もすれば、騎士団や魔法軍で優秀な人物になるだろう。
「この子達は、この国の良き人材となるだろうに……」
レイラは、彼等の無邪気な笑顔を見て、更に顔が険しくなっていった……。
◇
高校生達の担任である三角 慶太は、生徒達の様に馴染めなかった。ここが、異世界だという事を無理やり納得している。そして、日本に帰れるという言質は取ったものの剣や魔法を操り、魔物退治など危険な行為をしなければならない事に、担任として生徒の安全を案じていた。
一応、訓練を素直に受けているが、不安なのは、変わらない。
「シュベルトさん、明日の魔物討伐だが、危険じゃないだろうな? 」
「慶太先生。騎士団や兵隊も同行します。何かあれば、直ぐに対処しますからご安心を……」
「それなら、良いのだが……」
「先生は、心配症なんだよ。魔物は俺達が、やっつけるから、先生は後ろで見てくれるだけでいいよ」
一週間の訓練で、魔法や剣が上達したのが嬉しいのか、自信たっぷりに、小早川 拓人が笑みを浮かべて話す。
「小早川、これは、ゲームじゃないんだぞ。わかっているのか? 」
「先生こそ、わかってないんじゃないの? 」
高揚感溢れる生徒達に、今は、何を言っても聞き入れてくれそうにもない。しかし、そんな中でも、初めから疑念を抱いていた外内 研一は、
「今の状況で、魔物退治など、無謀だ。こんな無茶をさせるにはきっと裏があるに違いない……」
と、考えていた。
ーーー
2年A組 担任 三角 慶太 (ギフト:光魔法:聖剣保持可能者)
男子
相澤 忠(ギフト:体力・魔力20パーセントup)
内山 剛志(ギフト:身体強化)
狩野 陸杜(ギフト:錬成)
小林 草太(ギフト:上級土魔法 サンドジェル)
小早川 拓人(ギフト:念動力)
佐伯 優也(ギフト:光魔法:聖剣保持可能者)
外内 研一(ギフト:診察)
津田 亮司(ギフト:建造)
濱沼 創士(ギフト:上級水魔法 ウォータースラッシュ)
武藤 厚志 (ギフト:上級火魔法 ファイヤースピアー)
女子
井上 澄香(ギフト:治癒魔法 ヒーリング)
大野 美未(ギフト:上級風魔法 エアーフラッシュ)
高坂 絵里子(ギフト:体力・魔力20パーセントup)
佐内 美里(ギフト:上級召喚魔法 サマナー)
白河 美沙(ギフト:光魔法:聖剣保持可能者)
瀬戸 杏奈(ギフト:透視)
内藤 香織(ギフト:読解)
東條 凛(ギフト:運搬)
野々宮 手毬(ギフト:育成)
山本 沙織(ギフト:速度3倍)
以上、先生1名 生徒20名
ーーー
◇◇◇
翌日、先兵10名を先頭に、聖騎士団3名、馬車5台に日本から召喚された高校生達が乗り、後方に一般兵士10名の討伐部隊が、西にある山脈に向かっていた。
裾野に広がる森の手前で、テントを張り、中継地とするようだ。ここから先は、馬車は入り込めない。騎馬なら、ある程度まで進めるが、傾斜がキツくなり、道も整備されていないオークの住処までは、徒歩となる。
今から向えば、着く頃には、陽が沈む頃になってしまう。ここに兵士3名を残し、今日は、森の中程まで進み、夜を明かすつもりらしい。
異世界に来て、初めて王宮の外に出た高校生達は、周りの景観に興味津々だ。我先と、馬車の小窓から外を覗いていた。
「ここで、少し休憩を挟みます。自由にしていて構いませんが、王宮内と違い魔獣が出ましので危険を承知でしておいて下さい。それから、森には、勝手に入り込まない様に。迷いますから」
シュベルトが、馬車から降りて来た高校生達に告げる。高校生達は、
「あ〜〜お尻が痛い」
「馬車の揺れは、風情があるとか、そんな状況ではないね。これは、改良の余地があると思うよ」
「まず、車輪にゴムを付けて、サスペンションを組み込んで上下の振動を緩和させないとだね」
「いや、一掃の事、車を開発したらどうだろうか? きっと、交通革命になると思うよ」
「ガソリンがあるか疑わしいから、最初は蒸気機関かな? 」
「リチャード・トレビシックだね。1802年、台車に蒸気機関を乗せた事で有名だものね」
シュベルトは、男子高校生達が何を言っているのか理解できなかったが、馬車の乗り心地が合わなかったのだとは、理解したようだ。これから、オークの住処まで徒歩で向かわなければならない。先が思いやられる。
「ここから、先は徒歩の予定です。今は、十分休養して下さい」
『は〜〜い』
高校生達は、返事だけは良いようだ。それぞれ、思うがままに休憩時間を過ごし始めた。
召喚された高校生達は、特進クラスなので、日本にいた時は、休み時間も勉強をしている生徒が多かった。クラスのみんなで力を合わせて何かを成し遂げた事はまだない。しかし、この世界に来て、少し、状況が変わったようだ。
日本において、外内 研一は、話しかけられれば話をするが、積極的に他人と関わろうとしなかった。
それは、この世界に来ても同じらしい。次々とグループが出来始めてくる中、一人でいる事が多かった。
今の休憩時間も研一は、一人で周囲を見渡していた。深い森、そびえ立つ山脈。研一は、一抹の不安を感じている。大自然の中で生き抜く力、それに加えて、魔獣との戦い……
神から与えられたというギフト、研一の場合は『診察』というものだった。
医者の息子で、自分も医者を目指しているとはいえ、安易なギフトに面食らっていた。
この『診察』という力は、研一自身、何ができるのか未だ理解しがたいものだった。通常では、医師が病状を判断する為に、質問したり身体を調べたりする事である。
戦闘において役に立つとは思えない。主に、支援系の力だ。それも、病気や怪我など傷ついた状態によって発揮されるものである。
研一自身、この力だけでは、生き残れないのではないかと感じている。
攻撃系のギフトを得たクラスの何人かは、この世界の召喚を内心、喜んでいる様子だ。運良く授かった力で、強者にでもなったように、研一達、生産系、支援系のギフト所持者を見下したような目で見るようになった。
特に、顕著になったのが、武藤 厚志 である。上級魔法の火魔法、ファイヤースピアーを事あるごとに自慢していた。
確かに、武藤が言うように、この魔法は、火炎の槍を亜空間から取り出して敵に放つ事ができる。その威力は、魔法指導役のレイラも驚くほどだ。
そして、他にも代議士の息子で光魔法保持者の佐伯 優也 を中心とした男女混成グループ、クラス委員で面倒見の良い小早川 拓人を中心とした男子グループ、女子では、読モをしているという話の白河 美沙を中心としたグループ、シュベルトのファンらしい大野 美未を中心としたグループに分かれていた。
東條 凛と野々宮 手毬は昔からの知り合いのようでいつも2人で一緒にいた。
外内 研一は、周囲の景色を見渡しながら クラスの人間関係も観察していた。研一自身、今はどこのグループにも所属するつもりはないが、このままでは、ダメだとは気づいていた。いずれ、何処かのグループに所属しなければ、生き残る事は出来ないだろう。
「そろそろ、出発します。準備して下さい」
シュベルトがやってきて、みんなに言い渡した。
目の前には、深い森が山脈まで続いている。
「この森を行かなければならないのか……」
研一の不安は、より一層、深まった……




