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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第12話





 ハク達は、白狐族の里で、数日、過ごしていた。


 この里での暮らしは、雨露がしのげるだけでなく、食事の調達も容易なので、ハクにとっては、異世界に来て、初めてまともな暮らしを体験できた。


 しかし、ハクは、その居心地良さが、逆に落ち着かないようだ。事ある毎に、里を出て行こうとするハクをササ達、里の獣人達が止めていた。


「よぉ! 無愛想な兄ちゃん。これから、家で宴会だ。今日は、野ウサギが撮れたんだぜ。美味いぞ〜〜さぁーー、俺んちに来いよ」


 ハクが傷を治した熊族の獣人が、ハクの事を気に入ったらしく、理由をつけては、ハクを誘っていた。


 ハクは、最初のうちは断っていたのだが、熊族のボビーが、しつこく誘うので面倒になったらしい。今は、黙って着いて行くほど、成長? していた。


「ハクは、剛毛が好きらしいですね〜〜しかも、男」

「えっ! フウコ様そうなのですか? 」

「何々、ササは、ハクの事が気になるの〜〜? 」

「ヒコ様、そんなんじゃないです〜〜」

「ササ、ファイト! 」

「キリコ様、違いますから〜〜」


 ハクと熊族のやり取りを見ていたヒュドラは、ハクが熊族のボビーに連れて行かれるのを残念そうに見ていたササをからかっていた。


「ササ、ハクさんは? 」

「あっ、お母さん。また、ボビーと一緒に行ってしまいました……」

「そうなの〜〜残念。今夜は、家で、食事してもらおうと思ったのに〜〜」


「お腹すいた〜〜」

「食事、食事」

「お肉、食べたいです〜〜」


「ヒコ様、キリコ様、フウコ様、お食事にしましょうか? どうぞ、用意はできてます。ササ、食事を運ぶの手伝ってくれる? 」

「はい……」


 ヒコ、キリコ、フウコ達ヒュドラも上げ膳据え膳のこの状況に満足していた。今迄は、食事の調達でさえ苦労していたから、納得である。


 テーブルに並べてあるご馳走をを堪能して、しばらくすると、慌てた様子で、グリーが駆け込んできた。


「無愛想な兄ちゃんは、こっちに来てるか? 」


「ボビーどうしたんだ? そんなに慌てて……」

「そうですよ。ヒュドラ様がお食事されているのですから、不作法は許しませんよ」


「違うんですよ。里長、ネネさん。俺が、食事を用意している間に、無愛想な兄ちゃんが消えちまったんですよ」


「えっ! ハクさんが? 」

「厠にでも行ったのではないか? 」

「そう思って、あちこち探したんですが、見つからなくて……」


「まぁ〜〜何処に行かれたのかしら? 」


 会話を聞いていた、キリコになっているヒュドラは、眉間に皺を寄せながら


「ハクの奴、逃げたな〜〜」


「えっ!? それは、どういう事ですか? キリコ様」


「きっと、ハクは、この里を出て行った」

「そんな〜〜私達に挨拶もせずにですか〜〜? 」


「ちょっと、待って……」


 ヒコに変わった、ヒュドラは、目を閉じる。すると、身体が淡く光りだした。


「わかった……もう、里を出て、森を抜けようとしている……」


「そんな……突然に……」

「ボビー、お前、失礼な事したんじゃないだろうな? 」

「まさか〜〜ただ、食事を振る舞おうとしてただけですぜ〜〜」


「大丈夫。ハクの居場所はすぐわかる。私と契約しているからね」

「契約? どういう事ですか? 」

「ハクに黙って、勝手にしておいた。あいつは、すぐ、いなくなろうとするから、当然の措置」

「じゃあ、ハクさんは、帰って来るんですか? 」

「それは、わからない。こちらからは、転移できるけど」

「そうですか……」

「ササ、そう悲しむ事はない。私が、直ぐに連れて来る」

「本当ですか? ありがとう御座います。キリコ様」


「ハクの奴。みんなに黙って去るなんて極刑だわ! 」


 ヒコの姿に変わったヒュドラは、頭から湯気が立ち上る気配で怒っていた。


「もしかすると、何かお考えがあっての事かもしれません」

「ネネ、それは無いわ。ハクは、誰かと関わるのが面倒なだけ。そういう人種だもの」


「ハクさん……」


 ササの目には薄っすら涙が浮かんでいた。黙って出ていくほど、自分に興味が無いのだと、思っているようだ。


「お父さん、お母さん。私、ハクさんの後を追います! 」


「ササ、何を言うんだ。外は、危険なのだぞ」

「ササ、貴女は……」


「じゃあ、私と来る? お父さんも、お母さんも、それなら安心でしょう? 」

「ヒコ様、本当ですか? 連れてってください! 」


「ササ……わかりました。ヒュドラ様、ササをお願いできますか? 」

「何を言うんだ。ネネ。外は、人間が溢れているんだぞ」

「だからです。ササは、もう、12歳です。獣人の私達は、10歳で成人します。もう、跡取りも作れる年齢ですよ。それに、世界を見ておく事は悪い事ではありません。ヒュドラ様が一緒なら、安心ですし」

「そうは言っても、ネネ、ササは、まだ……」

「あなた。私達も10歳で里を出て、エルフの里に届け物をした事があったでしょう? 危険な目にあいながらも諸国を見て回りました。お忘れですか? 」

「もちろん、覚えている。それで、君との仲が深まったのだからね」

「ササも、その時が来ただけです」

「だが……」

「今回は、ヒュドラ様が一緒についていてくれます。これ以上の、安心を、この世界で見つける事はできないでしょう。ヒュドラ様、お願いできますか? 」


「良いけど、ハクなんか追ってもつまらないわよ。それでも、良いの? ササ」

「私は、行きたいです」

「わかった。決まりね。では、旅立ちの準備をして、明日、ハクのところに転移しましょう。それで良い? 」

「はい。ヒコ様」


 ササの父親、里長は、心配そうな顔をしていたが、ネネの意見に押し切られ、また、ササの決意が固かった為、渋々、承諾した。そして、ハクの顔を思い浮かべて、憎悪に似た複雑な感情が胸に広がるのを抑えていた。




◇◇◇




 その頃、ハクは、気配を消して、里を抜け出し、森を抜けて街道沿いに向かって歩いていた。


 ここに来るまで、数匹の魔獣が襲ってきたが、手を翳して消し去っていた。


「……大丈夫だ……魔獣なら問題なく消せる……」


 修道騎士団を消した時の様な胸の痛みは感じられなかった。


 ハクが街道に出る頃には、薄っすら陽の明かりが空を覆って来ていた。もう、夜明けも近い。


 一晩中、歩いていたが、疲れは、左程、感じなかった。レベルが上がったお陰なのだが、ハク自身は、レベルの存在を知らない。


 街道の遥か先には、城門らしき、石の壁が広がっている。そこには、規模の大きな街があるようだ。


 ハクは、この世界に来て、初めて、人の住む所に向かっていた。一晩中、歩いてある考えが浮かんだようだった。







 ハクが向かっていた街は、ササ達、獣人達の里がある、コーリア男爵領の街だった。


 この、コーリア男爵領が存在する、カラナ国は、レイフル国とは、邪龍の住んでいた山脈を隔てた隣国である。レイフル国と友好国と言うわけではないが、敵対関係にあるわけでもない。教会を経由した一定の交易もあり、付かず離れずと言った関係が保たれていた。


 それは、邪龍や魔獣、そして、ヒュドラの森がある山脈が、あるからかもしれない。


 カラナ国からレイフル国の間には、切り立った山脈がその行く手を阻み、直接行く事はできず、南方のオーリア国を経由しなければならない。


 ハクは、そのコーリア男爵領の街、リストアに向かって歩いている。


 この辺の街道は、整備されておらず、草が生い茂り、道も大きな石がゴロゴロ転がっていた。馬車では、到底、行き来できない道だ。


 それもそのはずである。ハクの背後には、森が広がり、その先には山脈がそびえ立っているからだ。こんな、ところに来る人間は、獣人狩りの荒くれ者か奴隷商人ぐらいだろう。


 陽も登り始め、朝日が周辺を照らし始めた。道に生い茂る草には朝露が付いており、ハクのズボンの(すそ)を濡らしていた。


 しばらく歩くと、街を囲む石の壁が見えて来た。街に入るには、衛兵のいる門を通らなければならない。


 自分が追われている事に気づいているハクは、その選択をしないようだ。


 ハクは、周りを見渡し、人気が無い事を確かめると、跳躍して、壁を乗り越えて、街の中に入って行った。




◇◇◇



「ガゼルは、まだ、戻らんのか? 」

「予定では、2、3日前に、戻って来る予定なのですが……」

「どうするんだ。もうじき、国から、徴税官が来てしまうぞ」

「他の奴隷商人に当たりましょうか? 」

「いや、ダメだ。この件は、内密にしておきたい」


 ハクが、入り込んだリストアの街の領主、コーリア男爵は、執事のデマスとハク達が始末した奴隷商人ガゼルの帰りを待っていた。


「コーリア様、こうなったら、地下牢に入れてある銀狼族の娘を差し出しましょうか? 」

「しかし、あやつは、凶暴だぞ。徴税官の身に何かあれば、儂の地位も危ない」

「満月迄、まだ、時があります。それに、薬で、弱らせておけば問題ないかと……」

「うむ……仕方がないか……」

「それにしても、あの徴税官の獣人好きには、困ったものです……毎年、遺体を片付けるこっちの身にも……」

「デマス。声が大きい」

「し、失礼しました……」

「だが、獣人さへあてがっておけば、税金も優遇してくれる。考えようによっては、使える奴だ」

「そうでありますね……酒も女もやらない人物よりはマシです」

「我が、領地は、これといった特産物はない。少しでも、税金を優遇してもらわんと、あっという間に取り潰されてしまう……この辺境地から、早く抜け出したいものだ」

「コーリア様なら、戦なら圧倒的なお力を発揮できるでしょうけど……」

「まだ、儂の力が鈍ってなければなっ」

「何をおっしゃっているのですか? コーリア様のお力は、未だ健在です」

「うぉほほほほ。まだ、儂の力は健在か〜〜」

「そうであります。それから、イリサス教会から、手配書が回って来ました。何でも、修道騎士団をやっつけた異端者だそうです」

「そんな奴がおるのか? 一度、剣を交えてみたいものだ」

「コーリア様の剣に敵う相手とは思えませんが……」

「して、どんな奴なんだ? 」

「20歳前後の白髪の青年だそうです。目付きが鋭いと書いてあります」

「ほほぅ。面白いそうだな」

「コーリア様。戦いたくてウズウズしてらっしゃるのはわかりますが、これは、隣国のレイフル国の話です。このカラナ国では、ありませんよ」

「レイフル国か……あの山脈は、超えられんから、儂らにとっては、関係ない話か……」

「そうでございます。では、私は、地下牢に行ってまいります」

「デマス、頼んだぞ」

「はい。かしこまりました」


 執事のデマスは、地下牢に向かった。

 コーリア男爵は、デマスが言った異端者の事を考えていた。


「異端者か……」










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