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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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第10話





 ハクは、修道騎士団の襲撃を返り討ちにしたが、何で自分が襲われたのか理解できなかった。


 それに『異端者』という言葉が気になっていた。


 自分に敵意を持って向かってく来る魔物や人間は、消しても心は痛まなかったが、修道団達を消した時は、今までとは違い、心に感じるものがあったらしい。


「感情は消えているはずだが……」


 ハクは、ヒュドラが言った言葉を思い出す。


「本当に感情や記憶は消えてないのか……? 」


 どうしてそう話したのか理由はわからない。でも、この痛みは何なのだろうと気になっていた。


「消えてしまえ! こんな痛みなど……」


 手を自分で当てそう呟く。胸の痛みが消えたかのように、ハクの足取りは軽くなった。


 山脈を駆け上がり、邪龍が消した山頂の岩のところでハクは、寝転んだ。このまま、ここで一晩明かすつもりだ。


「俺のこの力は何なんだ? 俺は、どうして、こんなところにいるんだ……」


 この世界の来た記憶を消してしまったハクは、これまで、その日を生きるだけの生活をしてきた。生き抜く為に、獣や魔物を消しても何も感じなかったが、ヒュドラや白狐の娘ササ、そしてハクを異端者として襲いかかってきた修道騎士団のあの透き通った水色の髪をした少女と出会った事で、ハクの心に何かが芽生えはじめていた。


 痛みとは違う、何か懐かしく温かいものが心を支配する。


「俺は、1人でいい……誰かと関わりたくは無い……」


 そう思いながらも、ハクはオークから得た財宝を白狐族の娘に届けようとしている。その矛盾にハクは、戸惑っていた。


「同情なのか? それとも……」


 ハク自身、その心の在りどころが何かわかっていなかった。


 少し冷たい風がハクの意識を外に向けた。見慣れない誰かがこちらに向かって歩いて来る。その誰かは、少年のようだった。髪は黒髪だが、二本の角が生えていた。眼は鋭く赤い瞳をしており、まだ、幼さが感じられた。


「あれ〜〜ここら辺に邪龍がいるはずなんだけど〜〜」


 ハクがいることに気づいているらしく、わざと大きな声で独り言を言っていた。


「そこのお兄さん、邪龍見なかった? 」

「…………」

「ッチ! 無視かよッ! 人間のクセに……」


 その赤い瞳の少年は、半ズボンに黒いマントを羽織り、この場所に似つかわしくない格好をしていた。こんなとこに一人で来るなどただの人物ではなさそうだ。


「お兄さん、人間だよね〜〜なんで、こんなところにいるの? 」

「…………」

「ッチ! また、無視かよ〜〜僕もナメられたもんだ……」


 ハクは、いつでも相手を消せるように腕枕をしていた手を解放して胸に置いた。


 その仕草を見て、その赤い瞳の少年は、


「何だ〜〜聞こえてるよね〜〜僕の声。耳が聞こえない人かと思ったよ」

「俺に何か用か? 」

「へ〜〜無視やめたんだ〜〜その方が、こっちも助かるけど……」


 その少年は、ハクを警戒して距離を置いている。相手も、こんな山の上で一人で寝ている人物を危険視しているようだ。


「僕は邪龍を探しているんだよね〜〜魔王様から連れて来いと頼まれたから……ここら辺にいるはずなんだけど……」


 キョロキョロしながらもその目は、ハクを視界から逃さない。


「そんなもの知らん……」

「そうなの? そうだよね〜〜邪龍がいたら、こんなとこに寝転んでいられないもんね〜〜」

「俺は、ただ、ここで休んでいるだけだ。用が済んだならあっちへ行け! 」

「ふ〜〜ん……ただの人間じゃなさそうだね〜〜。口の利き方がなってないけど……でも、魔力は、僕の方が上かな? 」

「…………」

「また、無視かよッ! まぁ、いいや。お兄さんを始末してもいいんだけど、邪龍を捕まえないといけないから、魔力、温存しときたいんだよね〜〜。それに、お兄さんとは、また、会えそうな気もするし〜〜」

「…………」

「僕は、魔王様の10使徒の一人、グリスって言うんだ。お兄さん、名前は? 」

「……ハクだ」

「ハク!? 変わった名前だね〜〜今日は見逃すけど、次は、ないからね〜〜」

「…………」

「無口なお兄さんだね〜〜まぁ、いいや。じゃあ、またね〜〜」


 その赤い瞳の少年は、空間に穴を開け、その中に入って行った。

ハクは、その少年が消えた空間を見つめながら、また、腕を頭の下に置き、そっと、目を閉じた。




◇◇◇




 翌日、ハクは、白狐族の里に戻る。レベルが上がっているお陰で、普通なら、数日はかかる行程も、数時間でこなしてしまう。


 ハクが、里の前まで来ると、里を囲むように、木で柵が作られていた。人の背丈程あり、容易に侵入する事は出来なくなっている。


「あっ! ハク、お帰り〜〜」


 ヒコになっているヒュドラがハクの姿を見つけたようだ。


「柵を作ったんだな? 」

「そうよ〜〜凄いでしょう〜〜」


 ヒコのドヤ顔が、鬱陶しい……


「あっ、ハクさん。黙って出て行ってしまったので心配したのですよ」


 ヒュドラの側にいたササがハクを待ちわびたように見つめていた。


「これを取りに行っていただけだ……」


 ハクは、バッグからオークの住処にあったお宝をその場に出す。

 金銀の硬貨の他にも、剣や槍、それに盾などの武具も揃っている。


「ど、どうしたんですか? これ……」

「前に見つけたものだ。興味が無かったからそのままにしておいた。これを使って、里を復興してくれ」

「こんな高価なもの、受け取れませんよーー」

「いらないなら捨てるだけだ。俺には必要ない」

「捨てるなんて、ダメです。勿体無いですーー」

「じゃあ、使ってくれ……」


「何だぁ。ハクはそれを取りに行ってたんだ〜〜そうなんだ〜〜」

「煩い! ヒコ! 消すぞ」


「ハクは、ヒコと同じ。照れ屋さん? 」

「そうですか〜〜? どう見ても照れてるように見えませんけど〜〜」


 キリコとフウコは、ハクの顔をジロジロ見ながら、遠慮無しに話しかける。


 ハクとササそしてヒュドラと話していると、小屋から大人の白狐族の女性が現れた。そして、


「まぁ、こちらがヒュドラ様と一緒にササを助けてくれたハクさんですか? 初めまして。ササの母親のナナです」


「……あぁ」


「ハク、挨拶はちゃんとしないといけないのだぞ」

「キリコの言う通りなのです〜〜」

「まぁ。いいんじゃない? 挨拶ぐらい……」

『ヒコ、ダメです。挨拶はちゃんとできないと良い化物になれません! 』


「お前達は、面倒くさい奴だ」


「名付け親に対して面倒とは、何て事を言うの? 」

「こいつは即刻、死刑」

「ハクは食べても不味そうです〜〜」


「いいんですよ。ササや里の恩人なのですから。どうぞ、中にお入り下さい。たいしたおもてなしは出来ませんけど……」


 ササの母親は、そんな愛想の無いハクにも親切に応対する。


「行こう! 」


 ササに袖を引っ張られて、ハクは仕方なさそうに着いて行った。




◇◇◇




 小屋の中は、意外と広く、怪我をした獣人達が、休んでいた。


「ここは、里長のお屋敷なのですが、里長は、人間達に深傷を負わされて奥の部屋で休んでいるんです」


 ササの母親、ナナは、辛そうにハクに説明する。ハクは、あまり興味がないようだ。


「ねぇ、お母さん。ハクさんがたくさん財宝を持ってきてくれたの。里の復興に使ってくれって言ってる」

「まぁ、ありがとう御座います。里を救って頂いた上に、復興の手助けまで……どうしたら、そのご恩に答える事が出来るでしょうか……」


「別に見返りを求めていない。気にするな」


 ハクは、ぶっきらぼうにそう呟きながら、怪我をした獣人達のところに向かった。お礼を言われることに慣れていない様子だ。


 ハクは、寝ている獣人の怪我の部分に向かって手を翳した。傷が、嘘のように跡形も無くなっている。


「わぁ〜〜なんだ。痛くないーー! 治った。治ったぞーー! 」


 熊の獣人なのだろうか。図体もデカイが声もデカい。


 ハクは、次々と、怪我をしている獣人達に向かって手を翳し、傷を治していった。


 そして、


「ササ、里長は何処だ? 」

「ハクさん、お父さんを治してくれるの? 」

「里長は、ササの父親か? 気が向いただけだ。案内しろ。それに、さん付けはいらない。ハクでいい……」

「ハクさん……じゃなくて、ハク……こっち。お父さんが寝てるところは」


 ササは、ハクの袖を引っ張り、奥の部屋に案内する。さっきまで、無関心だったハクの行動は、自分でも理解できてないようだ。


 奥の部屋には、包帯をグルグル巻きのされた白狐の男性が横たわっていた。見るからに重傷だ。


 ハクは、その白狐族の男性に向かって手を翳した。すると、嘘のようにその白狐族の男性は、元気になって起き上がった。


「何? どうしたんだ……さっきまでの痛みが全く無くなってる」

「お父さ〜〜ん」

「ササ、無事で良かった……」


 ササは、父親の胸に飛び込んで、泣き喚いている。父親は、何が起きたのかわからない様子だ。


「傷は消したが、体力までは回復出来ない。あとは、ゆっくり休んで養生しろ」


「貴方様は、誰なのですか? 」

「お父さん、ハクさん……ハクは、里を救ってくれたんだよ。ヒュドラ様と一緒に」

「ヒュドラ様と一緒にか! 」

「そうだよ」


「呼んだ〜〜? 」


 部屋にヒコが入って来た。ヒュドラは、耳が良いらしい……


「ヒコさん。お父さんが、治ったの 。ハクが、治してくれたんだよ」

「そうなんだ〜〜ハクがね〜〜」


「気が向いただけだ。他意は無い。それに、治ったなら、もう、ここには用が無い。俺は、もう、行くぞ」


「ハクさ……ハク、待ってよ。何もできないけど、食べ物ならご馳走できるよ。今、お母さんが用意してるし……」


「ササの言う通り。美味しいもの食べてから出ていっても遅くない」


 キリコに変わったヒュドラは、ハクを引き止める。ハクも、お腹が空いていたようで、表情には出さないが、部屋にある椅子に腰かけた。


「お母さんのとこ、行ってくる〜〜」


 ササは、ハクの行動に反応して、急いで部屋を出て行った。父親の件も、合わせて知らせるつもりなのだろう。


 すると、部屋に慌てた様子でササの母親、ナナが入って来た。


「あなたーー! 」

「ナナ……」

「良かった……良かった……」


 二人は抱き合い、お互い、目に涙を浮かべていた……。


 ハクは、そんな二人を見て、心に温かいものを感じていた。








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