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絶無の異端者  作者: 聖 ミツル
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プロローグ



「この(あた)りにいるはずだ! (くま)なく探せ! 」


 先程まで、鳥の(さえず)りが聞こえていた森の中を甲冑(かっちゅう)と馬の(ひづめ)の音が響き渡る。


 イリサス教会から派遣された修道騎士団達だ。普段は、教会又は巡礼者達の護衛を務めているが、異教徒や魔人と呼ばれる者達の討伐もその仕事に含まれている。従って、国家が抱える軍の騎士団とは、違う身分を与えられており、特に異教徒に対しては、斬り捨てても構わないという特権を持っている。


 その騎士団総勢20名程が剣や槍そして杖を(かま)え、捜索活動を行なっている。


「相手は、白髪の男だ。手練(てだ)れらしいから、気を抜くな! 」

『はい』


 騎士団長だろうか、後方部隊に注意を喚起(かんき)する。

 後方部隊の5名は、魔法部隊だ。2名の騎士が援護している。


 修道騎士団が探している人物がこの森で見かけたという情報を得てから、半時が()っている。もう、その人物はここにはいないかもしれない。


 だが、捜索を断念する事は出来ない。何せ神からの神託を受け、その人物の捜索を行なっているからだ。


 背の高い大柄の騎士団長は、その人物の事を詳しくは知らなかった。ただ、危険な能力を持っているらしく、教会の異端者として討伐命令が出ている。


「団長! いました。あの男ではないでしょうか? 」


 その男は、大きな木の下で寝ているようだった。

 団長の剣を握っている手が汗ばむ……


「……周りを取り囲め、油断せず、迅速(じんそく)に行動しろ」

『はい』


 先程までの威勢の良い話し方ではなく、小声で指示を出す。

 修道騎士団達は、その木の下で寝ている人物を素早く取り囲んだ。

 実戦を何度も経験しているので、各々の行動が早い。


 そして、団長は、その男と一定の距離を保ち、前に立つ。


「貴様は、異端者(いたんしゃ)だな? 」


 騎士団長の問いに、その男は目を開けた。(かぶ)っているフードから覗くその目は、白い前髪に(はば)まれ、よく見えないが、険しく透き通っているように思われた。


「…………」


「返事がないという事は、認めたという事で良いな? 」


「…………」


 その男は、返事もせず、ただ、前を向いていた。顔が見づらい為、何を考えているのかわからない感じだ。


「私は、イリサス教会修道騎士団長のスベルトだ。君には手配書が出ている。大人しく同行するなら良し、(こば)めば、この場で()り捨てる」


「…………」


 彼は、返事をしなかった。話せないのではない。おそらく、(わずら)わしかったのだ。


「よしっ! 取り押さえろーー! 抵抗するなら斬って良し! 」


 団長の合図で、周りを囲んでいた騎士団達は、その男に襲いかかる。


 しかし、その男は右手を(かざ)した瞬間……


 襲いかかっていた騎士団が一瞬にして消えてしまった。


「何だ……何が起きたんだーー」


 誰もが、その光景を夢でも見ているように感じた。



「貴様ーー! 何をしたーー! 」



 団長の叫び声が、森に響き渡った。


「後方部隊! 魔法だ。魔法であいつを攻撃しろ! 」


 団長が支持を出すと、呆然(ぼうぜん)としていた騎士達が行動に移す。後方部隊の、攻撃魔法が彼を襲う。


 しかし、彼は、また、手を翳した。彼を襲った攻撃魔法は次から次へと消え去ってしまう。そして、彼は、面倒臭そうに立ち上がり、そして、周りの騎士達に向かって手を翳した。


 その瞬間、騎士達は、団長を含め(ことごと)く消え去ってしまった。


 残ったのは、後方の魔法部隊だけだ。

 彼は、その魔法部隊に手を翳すと……


「わぁーー化け物だーー! 」

「逃げろーー! 」


 数人の魔法部隊は逃げ去って行く……

 彼は、追いかけるような事はしなかった。


 だが、そこに、腰を抜かした1人の騎士がいた。

 魔法部隊の援護騎士のようだ。


 彼は、その騎士に向かって、手を翳し……


「キャッーー! 」


 騎士の悲鳴が聞こえた。手を翳した彼は、その騎士が被っている甲冑を消した。


 すると、束ねてあった水色の綺麗な髪が(ほど)け、重さに耐えきれなくなった髪は風になびきながら下に落ちる。


 その騎士は、青い目をした若い女性だった……


 彼は、手を下ろして、その女性騎士に背を向け歩き出した。


 その女性騎士は、何が起きたのか分からず、ただ、呆然と彼の背後姿(うしろすがた)を見ていた。


 一瞬、垣間見(かいまみ)えた彼の哀しそうな目が心に残った……


 鳥の囀りが聞こえ始める。森本来の様相を取り戻したようだ。




 彼の名前は、わかっていない……

 彼の顔をまともに見た者もいない……

 ただ、彼は、危険人物として教会から追われていた。



 絶無の異端者として……





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