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「四季の中つ国」  作者: 雪花
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「封じ手」


一番最初に異変に気づいたのは、上空で眺めていた琥珀だった。

すでに姮娥と佳宵は、事の次第を桜の宮へ報せに行っている。


珂雪は、この「送り火」をわずかなりとも弱められないか沈思していたため、その変化に気づくのが遅かった。


炎の勢いにも、変化が出始めている。

ひとりヒュウマと共に炎の燃えさかる只中へ降りていった、葵の宮の果断な行動が、一概に無謀とは言い切れないと、珂雪も知っていた。


有史以来、郷の四獣をおさめるのは、登極を控えた巫女姫と決まっている。

その差配は天にゆだねられるため、巫女姫には、生来天祐とも言える護身の力がもともと備わっている。


でもだからといって、本当にやりおおせるかどうかは、その当人の気概にかかっていた。


頭で分かっているのと、実際目にするのとでは違うように、少しでも(ひる)めばその隙を突かれ、あっという間に勝敗の帰趨(きすう)は明らかになるだろう。




琥珀が気づいたのは、

眼科で燃えさかる空間の一点に、突如としてできた風穴だった。


初め、それは小さな点のようだったが、琥珀はその不自然な一点を見つめているうちに、そこだけ次元が違うことに気づいた。



ーーいけない、呑み込まれる。



珂雪もその時ハッと気づいたのか、わずかに息を呑んだようだった。


それは、徐々に面積を広げると、回りにある炎を内に取り込み始めた。


明らかに、

空間に歪みが生じている。



ーー葵の宮は、と意識の隅の方で琥珀は思ったが、それ以上のことは考えることができない。




***




葵の宮は、

振り降ろした右手の指先に、焔を捕らえてそのまま離さなかった。

いつのまにか、額に汗が、いく筋もの流れとなっている。

護身を保っていても、この森中を焼きつくさんとする炎のなかにいて、涼しい顔でいることはできなかった。


消耗している。

早く終わらせなければ、本当に火傷を負ってしまうだろう。

いや、一度くじければ、火傷だけで済むはずもない。





一体どれくらいの時が流れただろう。


気づけば、

焔を捕らえた指先が震えていた。


いったん意識すると、それを無視することはできなかった。

このまま離せば、それで終わりだった。



汗が、まるで滝のようにうなじを抜けてゆく。



ーーせつな、



一瞬の隙を突いて、焔が反撃に出た。


新たに「送り火」を放とうと一度咆哮を上げたが、その炎が抜けていった先に、次元の歪みが生じた。



それはまるで、

巨大な風穴のように、次々とまわりの炎を取り込み始め、葵の宮も例外ではなかった。



わずかなりとも桎梏(しっこく)が外れた焔は、両翼を大きくふるい、首をもたげると、三たび咆哮した。


一瞬であるべき均衡を失った葵の宮は、やけにゆっくり倒れていく自分の体の重さを感じながら、

虚空のなか、

それでも四獣を捕らえようとした。


一本の筋が指先からまだのびていて、

それは金の光のようだった。



その光は、

大きな網縄のように、いまだ焔をしっかりとつかんでいる。


光が、焔と重なって次第に同化していく。


焔の双眸に、理知の色が宿った。


焔は羽ばたくと、声にならない声で目の前の(あるじ)を呼んだ。



ーー葵の宮さま。




それは、大地を震わせる悲痛な叫びだった。



その瞬間、


その叫び声に応えるかのように光は強くなり、

大きなひとつの輪になって、焔を取り囲んだ。







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