焔
凪が、
次に目を開けると、
赤い炎がまばゆいばかりの光を伴い、全身を覆っていた。
そしてその瞬間、
凪は、
自分が何者であるかを初めて理解した。
彼の体には一対の大きな翼があり、光り輝く尾が長くのびている。
ーーそうか。僕は、《四獣》だったのか。
それは、
ともすれば信じがたいことだったが、
不思議と腑に落ちて、
感慨が胸の底を満たした。
しかし一方で、
凪は、
自分のなかで渦巻き、
溢れてくる力におののきながら、
それをこらえておくことはできなかった。
どこかへ発散させなければ、自身の炎で燃えつきそうだった。
凪は、わずかに残る理性の片端で、彼が必死に追い求めていた主の姿を懸命に探したが、その姿はどこにも見えなかった。
そして《焔》は、しきりに凪を引きずり降ろそうと執拗に暴れ狂い、凪は逆らうすべを持たなかった。
ふたつの欲望は最初せめぎあったが、焔の意思は、あまりにも強かった。
凪は目をつむり、しきりに悪心をこらえようとした。
それは、すべてを焼きつくしたいという、渇望にも似た焔の叫びだった。
凪は、なぜ巫女姫がこの場に必要なのかを肌で感じたが、同時にこの場には来てほしくないと思った。
ーーもし、葵の宮さまがここに現れたら、その御身を傷つけてしまうだろう。
凪はその考えに、言葉にならない恐怖を感じて立ちすくんだ。
そして初めて、宮代の篠竹が、自分を遠ざけようとした意図に気づいた。
ーーそうか、この力が向けられるのを、宮代は恐れていたのか。
確かにそれが道理だと思う一方で、
凪は突然差し迫ったこの状況に、焦眉の急を感じてもがいていた。
ーーこのままでは、自我を失ってしまう。
凪は、
その先に、
自分がどこに存在するのか急に分からなくなり、
果てしない常闇へ放りだされるような不安を感じて、息ができなくなる。
でもすでに、もう遅かった。
凪は「禁じ手」を、もう知っていた。
それを試したいという欲望は、もはや溢れんばかりに体中を渦巻き、凪自身を業火にさらしている。
凪はその火炎にあぶられながら、ひとかけらに残る理性を手放し始めていた。
自分でも覚えのない文言を、口のなかで唱える。
耳鳴りに似た警鐘が鳴っている。
そして、
いつのまにか、
今初めて浮かんだ「禁じ手」の名を、頭の奥で、一字ずつなぞっていた。
ーー汝、その名において、覚醒する。
「ーー送り火」




