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「四季の中つ国」  作者: 雪花
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予兆


次の日、

珂雪が向かったのは春の郷だった。


またそこへむかう気になったのは、「氷花」が解かれたことを感じたからだった。


ーーやはり、白虎は夏昊殿にいたのか。



なぜ彼がそんな場所にいたのかは分からないが、そんなことをいえば、珂雪も夏昊殿に一時的にいたのだ。


彼も《楓の宮》からの命があったのかもしれない。


ーーが、今となってはそれもどうでもいいことだった。




飛英が留守の時を見計らって、珂雪は春陽殿へヒュウマで乗り込んだ。

桜の宮は、珂雪が再び訪れたことを知るとそれを歓迎したが、

珂雪が話した内容ーー夏の郷の【忍び烏】のヒュウマが射かけられたこと、ヒュウマは夏昊殿に戻ってきたが深手を負い、動けないでいること、さらにその忍び烏は四獣である可能性があり、飛英の禁じ手、「胡蝶」によって捕らわれた恐れがあることーーを知ると、その表情を、みるみる曇らせた。



飛英がこの場にいても気取られないように、珂雪は気配を消し、その時を待った。


一時的ではあるにしろ、感情を波立たせないよう静かにしていれば、四獣同士でも分からないことはある。


まして、今は葵の宮の「氷花」は解かれているのだから、気配をたつのは難しいことではなかった。



やがて、

晷針(きしん)の置いてある場所に、飛英はやってきた。


桜の宮が話した内容を聞くと、飛英は動転し、


ーーあろうことか、

目の前で《転変》した。



ーー青龍。




彼は、

天窓を突き破ってそのまま逃走し、

姮娥と佳宵に続いて、


珂雪もヒュウマでその後を追うことになった。



とはいえ、

転変した四獣に、速さでヒュウマが敵うはずもない。


あっという間に飛英を見失い、珂雪は舌打ちした。


すでにこの辺りに気配がない。


彼の結界ーー「胡蝶」のなかにまぎれたのだとしたら、ここから追うのは、もう難しかった。



ーーと、


その時、



誰かに呼ばれた気がして、

珂雪は風の音を聞き分けようとした。



『ーー珂雪』



それは、聞き覚えのある声だった。


間違えようもない。


背に鳥肌がたつ。


なぜならそれは、すでにこの世の者ではない声だったからだ。

生きている者ならば、こんなに声が遠いはずがない。



ーー魂が、すでに身体から離れている。



珂雪は、額に汗がにじむのを感じた。


できるかは分からない。


失敗すれば、もう二度と取り戻せないだろう。


珂雪は目を閉じる。


方向は分からなかった。

でも、このままにしておくこともできない。


口のなかで短く呪を唱えると、

珂雪は何もない(くう)へ指を突きたてた。


指先から、白い光がはしる。


ーーと、


その先に、葵の宮が、宙に()()()()()


その目が見開かれる。


重力に従って体が落ちる前に、珂雪はその腕をとっさにつかんだが、急に変わった重心に腕を支えきれず、気づけばヒュウマから放りだされていた。


ーー落ちる。



下には森があった。


伸びた枝葉にあちこちを擦りむきながらも、珂雪は葵の宮を手に、太い枝のひとつに引っかかった。



珂雪はその枝の上で葵の宮の体を支えると、指笛でヒュウマを呼ぶ。

葵の宮は、体力を消耗したのか、気を失っていた。


手が冷たい。


今のはーー「蜻蛉」だった。


それで、見えないようにされていたのだ。

一歩間違えば、一体どうなっていたか。


それでも葵の宮の心臓は、止まっていなかった。


呼気を感じて、珂雪はホッとする。


ここで葵の宮を失えば、例え目覚めても、もう《焔》を鎮めることはできない。

そうなれば、最後の希望が断たれることになる。




葵の宮をヒュウマに乗せることに成功すると、珂雪はーーもうひとり、この場に近づいてくる者の存在を知った。


驚いたことに、彼も転変している。


珂雪は、転変した《白虎》を間近で見たことはなかった。


白虎は、

珂雪と共にいる葵の宮を見ると、心からすまなそうな口調で礼を言った。


「気づいたらもう、いなくなっていたんだ。飛英とかいうやつと話をした後、いないことに気づいて、本当にあわてた。あれ、お前ーー」


「もう少し遅かったら、彼女は死んでいた」


珂雪は冷たく言った。

白虎は、相手の正体を察したようだった。


「本当に無茶なことをしたと思ってるよ。でも、お前にここで会えて良かった」


「初対面でお前呼ばわりはないでしょう。私の名は、珂雪」


そう名乗ると、なぜか白虎は笑った。



「そうか。俺は琥珀」


「飛英は、どこにいたの」



琥珀がそれに答えようとするとーー


カッ! と、辺りが、まばゆいまでの光に包まれた。




ーーこれは。



珂雪はその気配を感じて、全身が総毛立った。



ーー《焔》が今、目覚めようとしている。



まだ意識の戻らない葵の宮を乗せ、珂雪は光の発した方へ、ヒュウマを急がせた。



「おい、待てよ」



琥珀が慌てるように、その後を追ってくる。


光はどんどんふくらんで大きくなると、

ある境界をさかいに、パッとはじけとんだ。








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