心の内
珂雪が言ったように、
侵入するのはとても簡単だった。
葵の宮は早々に加南を見つけると、自分の正体を明かした。
加南は、見慣れない侍女が葵の宮だと知ると驚愕したが、この巫女姫の特性を昔から知っているため、半分あきれたような様子だった。
「この数日間、あなたさまがいなくなって、ごまかすのがどれほど大変だったか」
そう嘆く加南を、宮は一蹴した。
「話はあと。変わった動きはあった?」
「篠竹さまが要請した、秋の郷の者が今朝来られました」
ーー秋の郷の者。
葵の宮は、今し方会ったふたりを思いだした。
「出て行ったのではなくて? 今朝ここに来たの?」
「なので、入れ替わりにここに来られたのです」
ーー秋の郷の四獣は、夏昊殿にいるかもしれません。
珂雪はそう言った。
本当にそうかもしれない。
葵の宮は、加南に向き直り、決然と言った。
「その者たちの世話は私がするわ」
加南は目をむいた。
「せっかくお戻りになられたのに、何をおっしゃいますか。どういう手品の扮装か知りませんが、宮さまには部屋に戻って頂かないと」
「私、まだ四獣を見つけていないのよ。またここを出ていかなければいけない。
もうしばらく、私は部屋にこもっていることにして」
加南はうなだれたが、この巫女姫がいったん物を言えば動かないことを、よく知っていた。
今さらどうこう言えることではない。
「登極のために四獣が必要なのは分かりますが……どこにいるのか、宮さまに分かるのですか」
「分からないわ」
そう答えた上で、
葵の宮は、強くきらめく目で加南を見返した。
「だから、探しに行くの。地の果てまで探して見つからなかったら、またその先まで。
篠竹が恐れるものを、私は恐れない。私は、自分の役割を果たすだけ。そのためなら」
ーーそのためなら、この身が焔に焼かれてもかまわない。
このまま、かごのなかの鳥のように、安穏と登極の日が延びるのを、ただ待っていることはできなかった。
この郷は、貧しい。
四獣がいないからだ。
四獣がいないということは、天宮の加護が得られないことに等しい。
今はよくても、作物が育たなければ、今後は飢える者が出てくるだろう。
一体なんのための巫女姫なのか。
四獣がいれば、間違いなく、結果的に郷は潤うのだ。
そのために自分が犠牲になるのなら、それでもかまわなかった。
葵の宮を前に、加南は声をひそめた。
「篠竹さまは、ただ心配しておられるのです」
心配。
心配して、何が得られるというのか。
この郷の宮代は、何も分かっていない。
幼い頃から、それがいやだった。
「今日来た者に用意した部屋を教えて。いつまで彼らはいるの」
「早ければ明日の朝、帰られるかと」
「では、その時に」
ーー「氷花」を解いてもらおう。
もし本当に、彼が四獣なら、それができるはずだ。
葵の宮は、
ふいに舌打ちしたくなった。
ーーそもそも私の言うことを素直に聞いていれば、こんな面倒なことにならずにすんだのよ。
そう思うと、無性に腹が立った。
加南は、まだ「侍女」にしか見えない葵の宮ーー空恐ろしいことに、顔形まで変わってしまっているーーを前にため息をつくと、結局彼らの部屋を教えることになった。




