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「四季の中つ国」  作者: 雪花
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錯綜


紅雪らを始め【昏蛇】の面々は、突如ヒュウマで冬華殿へ舞い込んだ人影に目を見張ったが、それ以上に驚いたのは、もう一人見知らぬ者の同伴があることだった。


珂雪の想像通り、柊の宮は連れてこられた『侍女』を見ると、目を見開きーーそして激怒した。



「お前は自分が何をしたか分かっているのかい。あれ程「氷花」は使うなと言ったのに」


「私がむりにお願いしたのです」


弁護するように葵の宮が口を挟むと、柊の宮は容赦ない口吻(こうふん)で言った。


「だとしたら、もっと悪い。なぜこのようなことを」


「柊の宮さまに、話したいことがあってきたのです。そして聞きたいことも」


その目が真に切実なのを見て、柊の宮はひとまずどなり散らすのをやめたようだった。

キセルをくわえ、ひと息吸い込むと、薄紫色の煙を吐いて、椅子に座るようにうながした。


「話を聞こうじゃないか」



葵の宮は御前へ儀礼的に会釈した後、椅子に腰かけ、柊の宮に言った。



「まず、宮代が登極を阻もうとしているのは事実です。彼は、登極の日を延ばそうとしています。夏至を過ぎれば、時期を失して四獣は弱体化する。それを鑑みた上で、愚かにも四獣を与し易いよう、計らえと言うのです」



葵の宮は、いったん目を伏せ、また口を開いた。


「彼は、焔が私を()()()と言って聞きません。また最悪の場合、焔によって冬の郷の四獣が目覚めると。それは事実ですか」


「事実かどうかはともかく、そういう(いわ)れがあるのは確かだね」


柊の宮はそう言ってキセルをくわえ直すと、もう一度息を吐いた。


「お前が聞きたかったのは、そのことなんだね」


葵の宮が頷くのを見て、柊の宮は、やれやれとつぶやいた。



「宮代の指摘は、ある意味では正しい。確かに、日を延ばせば四獣の力は弱まる。起こるかもしれない危険を、回避することにも繋がるだろう。

玄武がその姿を顕すのは、焔の力を封じることがかなわなかった場合に限られる。宮代はそれを恐れているんだね」


「《綾女の宮》の話はご存知ですか。焔を完全に封じることができず、その巫女姫は死んだと聞きました。そのために、あるべき統治が短かったと」


「ああ、そうだったね」


柊の宮は、わずかに目を細めた。


「封じることが、あの時はできたんだよ。決して力が弱かったわけじゃない。そもそも巫女姫として定められた者は、四獣を御する力を有して生まれてくる。封じられないことの方が、珍しいくらいだ」


畢竟(ひっきょう)、宮代は、私が仕損じると思ってるんですね」


「前に巫女姫を亡くしているからね。慎重にもなるさ。でも私は、あんたならできることだと思うけどね」


その言葉に、

葵の宮は唇を持ちあげた。


「ひとつ、聞いてもいいかい」


柊の宮は言った。


「どうして宮代が四獣をすでに特定しているのか。彼に光輪は見えないはずだろう」


葵の宮は、その時のことを思いだすように、視線を部屋の中空にさまよわせた。


「前に【忍び烏】が、凧を使う演習をしていたんです。そしたらひとりだけ、高い木の上に引っかかってしまった。意識がないようなので、私は慌てて宮代を呼びました。そしたら宮代は、そんなことでくたばる輩は役に立たないから、捨て置けばいいと答えた。

それで思わず言ってしまったのです。『彼は四獣だ』と」


「なるほど」


「宮代が私から四獣を遠ざけようとする狙いが分かってからは、密かに彼の動向を見張ってました。

夏昊殿で宮代が、彼に冬の郷の四獣の話を吹き込むのを聞いて、止めなければと思った。でも、彼は私の命よりも宮代わりの命を優先し、行ってしまった。

そこへ、珂雪が私の前に姿を見せたのです」


「それでここまでついて来たってわけか。「氷花」を使わせてまで」


しばらくの沈黙が流れたのちに、柊の宮は言った。


「まあ、ひとまず今日はここで休むといい。珂雪に部屋を用意させるから。お前は今、巫女姫に見えないから、あんまりいい部屋はあてがえれないがね」



***



対面を終え、

葵の宮が部屋に入ってきた折、それをなかで待っていた珂雪は言った。


「もう、ここでの用は済んだのでしょう。「氷花」を解くために、他の郷へお連れする必要があります」


葵の宮は、かねてからもう決めてあったような口吻で珂雪に言った。


「それなら、春の郷に行きましょう。宮代が次に使いをやるなら、そこだろうから」


珂雪は目をしばたたく。


「なぜ、そう思うのですか」


「だって、聞いていたでしょう。宮代は、私に彼を近づかせまいとするの。簡単に帰ってこないよう仕向けるはず」


珂雪は肩をすくめた。


「そこまで分かっていながら、なぜあの時行かせたりしたのですか」


葵の宮は、外方をむいて口をとがらせる。


「仕方ないでしょう。だって本当に頭にきたんだもの」


「では、まず私が明日、様子を見てきます。一緒に行くのは、またそれからにしましょう」



***


そういう経緯もあり、珂雪は明朝、春の郷へ向かった。

空はまだ暗く、たなびく雲の合間に群青に広がっている。しかし夜明けが近いことは、東の空を見れば明らかだった。


珂雪はヒュウマに乗り、玄冥門を過ぎると、空を縦横に切って、春の郷の入り口である句芒門へと急ぐ。



その途中ーー


異様な気配を感じて、珂雪はヒュウマを止めた。



ーーなんだろう、これは。空気がはりつめている。



と、その瞬間、



珂雪は、()()が、虚空に投げだされるのを見た。



ーーあれは。


珂雪の乗るヒュウマが反応するよりも先、


鋭い光が、辺りを埋めつくした。



禁じ手、これはーー「胡蝶」



大きな結界が、張られようとしていた。



ーーここから逃れなければ。私も巻き込まれる。



珂雪は慌てて、ヒュウマを飛翔させた。



ーーふたつの光輪。まさか。



雲を割って、さらに高い空へ逃れた時には、確かに感じた気配は、もう消えていた。




飛英と名乗った四獣を、珂雪は思いだす。


白い髪に、うす緑色の瞳。


真面目で融通がきかない印象だったことを覚えている。


「胡蝶」に、まだ見ぬ四獣がかかったのだとしたらーー



珂雪はヒュウマにまたがり、空中で静止しながら考える。



ーーきっともう、誰にも探せない。飛英が彼に、術を解かれない限り。



四獣同士で「禁じ手」をかけた場合は、本人が術を解くか、相手に解かれるかなのだ。


そしてもし、まだ見ぬ四獣が、飛英を上回った時ーー



珂雪はその予感に、身をふるわせた。



ーーこの世界は、燃えつくされるだろう。


そして、葵の宮の力が見合わなければ、玄武()は「本来の姿」を顕すだろう。











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