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七体目 トイレが怖ければついてきてもらえばいいじゃないっ!

 全員からドン引きされてしもうた俺は結局、つけ坊ハウスの前で一晩を過ごすことになった。


 ここなら町中だから魔物の心配はない。羞恥プレイではあるけど。そのうえ寒い。頭を冷やせと言う意味だろうけど文字どおり過ぎて寒い。


 まぁそりゃそうだ。こんなやつ家に入れときたくないもんな。変な霊とか呼びそうだもんな。


 くしゃみを連発していると、つけ坊がドアを開けて登場し、相も変わらず俺を見下げ果てた目で見ながらも、持ってきた毛布をボスンと俺の腹の上に置き、何も言わずに家に入っていった。


 優しいなぁ。あの子はやっぱりええ子やなぁ。


 俺の冷たく貧しい心はつけ坊の優しさと毛布によってかなり暖まった。


 いやこの説明いる!?特に語ることないならとっとと朝になればいいじゃん!!惨めな俺を浮き彫りにするシーンいらないじゃん!!嫌だわぁこういうの!!



【よくあさっ!】



「ふぁぁぁ……寝た気がしねぇ……ん?」


 起き上がって横を見ると、欠けたお椀の上に楊枝二本とコケが入れられていた。


 いや誰か知らんけど恵むならちゃんと恵んでよ!!なによコケって!!置いたやつ踏んづけてやるっ!


 楊枝は念のため持っていこう。


「兄さぁぁぁん!!」


 立ち上がろうと思った矢先にヒカヤがドアを蹴飛ばして家から出てきて、号泣しながら俺に抱きついてきた。


「うおっ!どうしたヒカヤ!?何でわざわざほふく前進で……走って来ればいいのに!!」


 あっ、ちょっと佐原さんの気持ちが分かったような気がする。


「エロゲのヒロインが全員アンパンマンのキャラクターだった夢見ちゃったよ~~!!SLマンが想像を絶してテクニシャンだったよ~~!!うわあぁぁぁぁぁん!!」


「えぇっ!?お前もエロゲのヒロインが全員アンパンマンのキャラクターだった夢見ちゃったのか!SLマン凄ぇテクニシャンだったよな!!おお、よしよし」


「ふえええ……SLマンが引くぐらいテクニシャンだったよ~~!ヒカこわかったよ~~!トイレついてきてよ~~!!」


「朝なのに!?つか大丈夫だって!アイツは想像を超えてテクニシャンだけど敷かれたレールの上しか走れねぇから!この周辺に線路ねぇから!でも仕方ないのでついていってやろう!妹のポッポちゃんが出てこないとも限らないからな!あ、でもポッポちゃんも線路の上しか走れないじゃん!」


 余談だが、ヒカヤは興奮したり激怒したり恐怖したりなど、とにかく心が強く乱れてしまったとき、一人称が“ヒカ”になる。どうでもいい。いやウソ、かわいい。


「つかお前さん、昨日まで俺にドン引きしてなかったか?一晩で普通に接してくるんだ」


「…………はっ!!」


 はいアホ発掘。


「なっ……なに堂々と話し掛けてるの!でも、あなたみたいなゲスだって使用価値がないのは可哀想だから、仕方なくトイレについて来させてあげるんだから!感謝してよね、アマネさん!」


「あざーす。」


 結局、妹の要望を聞くことになった。トイレは確かに外にあるから夜中は怖いだろうけど、朝なのにねぇ?


 トイレを終えたヒカヤが家に入っていくと、一瞬だけ何やらいい香りがした。


「朝飯か……」


 昨日は果物やら魚やらで食い繋いだだけだし、腹減ったなぁ。


 まっ、ヒカヤみたいに皆、一晩経てば普通に接してくるだろう。シリカさんだって大人だ。俺一人だけ米一粒とか、そんなガキみたいなこと、するわけないよな。


 ヒカヤが入ってからしばらくして、俺もつけ坊ハウスに近付く。緊張するなぁ……。頼む神様、俺を平凡な日常に戻してくれ!



 その時だった。



 二階から一台のイスが落ちてきたのは。


 それには“死ねアマネ”やら“ウゼー”やらの悪口とともに、カラフルなラクガキが施されていた。


 嫌な予感がして上を見る。


 そこではヒカヤ、シリカさん、グンノルさん、そしてつけ坊が、部屋から顔を出し、俺を蔑んだ目をしていた。


 俺が何かを喋り出す前に、つけ坊が口を開いた。




「おめーの席、ねぇから!!!」




 やっぱり神様なんていなかったね。



 上から笑い声と“コーラコーラァ!!”というよく分からん野次が聞こえる。


 いやこれはアカン。これは本気でヘコむやつやわ。一回発狂したぐらいでここまでゴミみたいな扱いされるの?


 よりによってつけ坊に言わせることねぇだろ。最も俺の心にクるキャスティングなんだけど。泣くぞちくしょう。


 家の前で“orz”の体勢でいると、ドアがガチャリと開いた。


「冗談よ……アマネくん。一緒に朝ごはん食べましょ!席もちゃんとあるから!」


「シ……シリカさぁぁぁぁぁぁん!!」


 人は絶望に叩き落とされてから手を差し伸べられると、かくも容易いものか。


 天使のような微笑みを浮かべて家に入っていくシリカさんに、俺は地べたを這いつくばるような腰の低さで続いた。


「さぁ!皆には昨日、失礼なことをしちゃったからね!腕にヨリをかけて作ったわよ!献立はね……パン、トマトとキャベツとハムのサラダ、クラムチャウダー、そして焼き魚!魚はね……パパが釣ってきてくれた、ブットビウオよ!」


 バブル時代か。


 いやはやありがてぇ。でもそうだよね、そんなに引きずる話題じゃないしね。もうあんな仕打ちはこりごりだ。俺ももうちょっとメンタルを鍛えにゃ……。


「むむっ?」


 違和感に気付いた。テーブルに並んでいるのは、四人前だけ。シリカさんが座り、俺以外の全員の前に今読み上げられたメニューが並んでいる。


 俺の席の前、机の隅っこに置かれていたのは………。



「いやコケやないかいっ!!」



 そのあと結局みんなと同じ朝食を食べました。なにこの回。



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