六体目 恥ずかしければ狂えばいいじゃないっ!
「さてと……何か言うことはあるかね?」
いいえ、ほぼチェックメイトでおま。
チェスで言うとキングの周囲全方向にクイーンがいるみたいなピンチ具合。ポジティブに見るとギャルゲーの表紙に見えなくもないが、実際はあれだからね、ただのドラッグオンドラグーンのフリアエエンドだからね。みんなのトラウマだからね。
つまり……どうあがいても、絶望。ゲーム違うけど。
だがしかし。
まだだ……まだ終わらんよ!
まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!
「確かにグンノルさんの浮気の疑いは晴れました。でも……グンノルさんの魔物疑惑は、まったく晴れていない!!」
「まだ足掻くか……良かろう。ワシが全て打ち返してやる。全力でぶつけてくるがいい!」
怒っているようには見えない。ジタバタしながらわがままを言う子どもを見つめる父親のような表情。
こうなったらとことんやってやる!
「まずは……グンノルさん、俺が喋るにつれて焦ってたじゃないですか!!下とか向いちゃって!!」
「あまりに的外れな推理を自信満々に喋ってくるからね。ワシも最初は動揺したんだが……途中から笑いを堪えるのに必死だったのだよ!まぁ、少しばかり付き合ってやろうという気持ちもあり、あえて泳がせていたのだがね!」
「まっ……魔物に娘を食べられるくらいならワシが……みたいなこと、言ってたでしょ!!」
「“食べちゃいたいくらいカワイイ”とよく言うだろう?まさかそのまま解釈していたのかね?」
「つけ坊を魔物の出現場所に放置したのは!?」
「シリカには勝てないと思ったのだよ。長年一緒にいるが、シリカがここまで怒ったのは初めてでね。正直どうしたらよいか分からなかった。あのまま連れ帰っても、ヤンヤンを怖がらせてしまうだけだと思ったんだ!また叩かれでもしたら可哀想だろう?だから君のことを“殊勝な精神”と言ったのだ!あのシリカを見て、まだあのような立派なことを言えたのだからな!」
「すっ……睡眠薬!!そうだ、俺らに渡した毛布に、強い睡眠薬がタップリと……」
「睡眠薬?ブハハヒッ!バカ言っちゃいけない。アレは薬草……気分をリラックスさせる効果のある薬草を、毛布にまぶしておいたのさ。もちろん怪しい物質は一切使っていない。勇敢にもドロボウに立ち向かったんだ。ヤンヤンもさぞかし疲れていると思ってね」
「……毛布が小さくて、枚数も少なかったのは……?」
「おっと、さっきは0点と言ったが、ここだけは君の言う通りだったよ。ヤンヤンに万が一のことがあれば困るから、君に守ってもらおうと思ってね。いやはや、予定通りちゃんと二人に譲ってくれたようで良かった!君の推理も捨てたものじゃなかったというわけだ!」
「野菜とか毛布とか持ってきて下さったとき……何でシリカさんが怒ってるのか分からない……って、つけ坊の前で言ってました……よね……?」
「あの場ではああ言うしかなかっただろ!“お母さんはパパが浮気をしてると思って怒ってるけど、そんなことしてないからな”と言ってコロッと信じてくれると思うか?それに、カードはシリカが持ってたんだ!ヘタに誤解を解こうとするのは逆効果だ!」
「シリカさんを……その……黙らせる、的な……」
「君たちが帰ってくるまで、シリカは暴れまわって大変だったんだぞ?急いで片付けていたせいで、君たちを出迎えるまで時間がかかったのだ!近所迷惑だろう、早く黙らせないと!」
グンノルさんとのラリーをすればするほど、どんどんと自分の声量が小さくなっていくのが分かった。
オセロの盤面が頭に浮かんだ。自分のコマが次々と裏返しにされていく、そんな感じ。俺はピンチになるとボードゲームで例えるクセがあるらしい。やがて盤面すべてが黒に染まり、俺の脳内オセロは決着を迎えた。
“キミガシネ”だったら絶対にみんな俺に投票してるよ。全ての議題において完敗だもん。説得力ゼロだもん。助けてケイジさん。レコさんでもいいや。あるいは「あはは、うふふ」の人でもいいよ。いやそれホエミー!!いっちゃん助け求めたらアカン人!!
思考がストップしかけた時、グンノルさんが嬉しそうに俺に近寄った。
「で?誰が“既に死んだ娘を食らうよりも、慕っていた父親が恐ろしい魔物だったというショックと恐怖に怯える娘を食らう方が気持ちいい………なんてドン引きな思考を持つ、変態クソゲス野郎”なんだね?」
ドゲザノジュンビニ、トリカカリマス。
俺は……間違っていたのか?
あれだけドヤ顔で能書き垂れておきながら?
あれだけ悦に入った語りを延々としておきながら?
いやいやちがうちがう。俺まちがってない。アマネくん正しい。
グンノルさんやシリカさんのややこしい言動に、まんまと釣られてしまっただけだ。魚釣りだけにね。上手い!山田くんザブトン50枚!いや多いよ!ザブトン多い!倒れちゃう!
もぉう、冗談キツいなぁ!やめてくださいよぉ!にゃはははははははははは
「殺せええええええええええ!!!」
殊勝な精神も限界を迎え、俺は恥ずかしさのあまり頭をかきむしりながら床をゴロンゴロンと転がる。
「あぴゃああ!!アマネくんやっちまったばい!!アマネくん大恥かいちまったばい!!馬鹿!!俺の馬鹿!!馬鹿だからウマとシカのマネしまーす!!ヒヒーーーン!!ヒヒーーーン!!ブルルルルルルル!!ヒヒーーーン!!あああシカのマネってどうやってやんだよふざけんなよタコ!!タコス!!いや誰がメキシコ人やねん!!どっちかっちゅうと木星人やろ!!いや木星人の顔パッと出てこおへん!!木星人の顔分からへん!!おるんかガスの中に!!ドドンパドドンパ!!ドドンパドドンパ!!ぼくは花火だ!!ドドンパドドンパウソつかない!!ドカーーーン!!おーっとアマネくんボムだぁ!!必殺のアマネくんボムの炸裂だぁ!!まってましたぁ!!ドカーンドカーーーン!!ビリビリビリビリ!!あああん!!雷さまぁぁぁらめえええええ!!ビリビリしちゃう!!アマネくんビリビリしちゃうのぉぉぉぉぉぉ!!びゃあああうまひぃぃ!!かずのこ!!かずのこ!!かずのこ……とみせかけてバーコード吉川!!でへへへへ!!かずのこかと思たやろ!!かずのこ三連発かと思たやろ!!ざんねええん!!バーコード吉川でしたぁぁ!!誰じゃあああ!!バーコード吉川って誰じゃあああ!!税理士か誰かかぁぁぁ!!ニャオオオオオオン!!ニャオオオオオオン!!ボクは謎かけネコ!!謎かけするニャアアアアアアン!!地デジ化とかけましてグランドピアノととくニャン!!その心は……ニャオオオオオオン!!思い付かないニャアアアアン!!ぐあああああん!!エンゲル係数ゥゥゥゥゥ!!エンゲル係数計算したいよママァァァァ!!げはははははは!!わあいチベット高原だぁぁ!!グニョグニョしよ!!嬉しいからグニョグニョしよ!!よっしゃ登るぞぉぉぉぉ!!我について参れえええ!!コッケコッコォォォォ!!あっさですよぉぉぉぉぉぉ!!コケェェェェェ!!コッコッコッ………コケエエエエエエエエエエエェェェェェ!!!」
二人が顔を真っ青にしてドン引きしている。
だってこれは恥ずかしいよ!こんなの恥ずかしいに決まってんだろ!!
「いったい何やってるんですか……アマネさん」
入り口から少女の低い声。嫌な予感がして動きを止めた。全身から汗がドッと噴き出る。
「ヤ……ヤンヤンちゃん、ヒカヤちゃん!ご機嫌うるわしゅう……にはははは……」
ゴミクズ界のゴミクズを見るような目で、毛布を持った二人の少女が俺にカチコチに凍った視線を送ってくる。寒い、寒い死ぬ死ぬ、寒い。
「てか、お前らグッスリ寝てたはずじゃ……あっ、やっぱお兄ちゃんが隣にいないと怖いか!いやぁスマンスマン!仕方ないから一緒に寝」
「しばらく私に話しかけないでね……“アマネさん”」
あ、終わった。妹が妹じゃなくなった。
やっちゃった。
誰でもいい。
誰でもいいから。
誰か俺を……俺を……
殺してくれよおおおおおおおお!!!
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