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五体目 論破したければ喋りたおせばいいじゃないっ!

 つけ坊の家に着く。今度は出てくるのを待つことなく、強引にドアを抉じ開けた。


「シリカさん!!大丈夫ですか!!」


 中に入ると、シリカさんとグンノルさんが面食らったような顔で俺の方を見てきた。


「な、何よ!?わたくしがどうかしたの!?」


「シリカさん……間に合った!ソイツから……グンノルさんから離れてください!」


 俺はシリカさんの細い腕をグイグイ引っ張った。


「ブハハハハヒッ!おやおや、ワシはずいぶんと警戒されているみたいだね」


「当たり前だろ、グンノルさん………いや、魔物さんよぉ!!」


 そう言い放つと、グンノルさんはまだ表情に余裕を持たせながらこちらを見た。その化けの皮、すぐに剥がしてやるんだからねっ!!


「思えばここに来てからおかしなことばかりだった。つけ坊の話じゃ“今まで怒ったことのない”シリカさんが、今日だけは昼ドラばりの迫力で、娘に“死ね”とまで言い放った。そしてこうも言った……“早く、できるだけ遠くに行け”と。生意気な娘を家から追い出すのに、わざわざそんなことを言う必要があるだろうか?」


 二人は俺の饒舌な推理に聴き入っている。いいぞ、このまま押し通すんだ。


「答えは簡単。おそらくシリカさんは俺たちがこの家を訪れる前に偶然にも見てしまったんだ。自分の夫が……魔物の姿になっている所をね。それで危険を感じたシリカさんは、帰ってきたつけ坊を過剰なまでに叱り、できるだけ家の遠くに行かせることを選んだ。バレてしまった以上、自分だけでなく、つけ坊も殺されてしまう。そうならないためにも、自分が犠牲になって、娘を守ることを選んだんだ。ったく……大した根性だ。恐れ入ったよ、母ちゃん」


 よしよし、今日はよく舌が回ることが、ぜにごまが裸足で逃げる。


 俺は部屋の奥の方で涼しい顔をして座っているグンノルさんに視線を移した。


「アンタの言動にもおかしな箇所がいくつもあったよ、グンノルさん。まず“妻を黙らせる”というフレーズ……普通、癇癪(かんしゃく)を起こした妻を“なだめる”や“落ち着かせる”とは言っても“黙らせる”とはなかなか言わない。そこに明白な殺意がない限り……ね」


「言葉の綾かもしれないぞ?それに、仮にワシが魔物だとしても、シリカを殺せばヤンヤンは何も知らないままだ。愛する娘を手にかける理由がどこにある?」


「“愛する”だと?笑わせんなよ。“魔物には気を付けろ”とだけ言い残して娘を寒空の下の魔物スポットに放置するのが、娘を愛する父親の行動かい?違うだろオヤジさん。俺が娘を溺愛しまくってる父親なら、家に連れ帰って、なんとしてでも妻を説得してみせるけどね」


「ほう……なんとまぁ、殊勝な精神をお持ちのようだ。まあいい。では、何故それでワシがヤンヤンを殺そうとしたということになるのかな?どうせ魔物が出るのなら、わざわざワシが出向く必要もあるまい」


 グンノルさんの声がだんだんと暗くなってくる。下を向き、顔も見えなくなる。追い詰められているんだ。


「それもお見通しだよ。小さめのサイズの毛布を二枚だけ渡したのも、計算だったんだろ?いくら子どもでも、あのちっちゃな毛布に二人が入るのは不可能。アンタは俺がアイツらに毛布を譲るのを見越して、わざと二枚だけ持ってきたんだ。俺がアイツらの身を案じて魔物の番をすることも、想定済みだったんだろ?」


「ブハハハハヒッ……よくもまぁ、憶測だけでそこまで堂々と喋れるものだ。では、ワシがそんなに回りくどいことをする理由は何だ?もし最初からヤンヤンを殺すつもりならば、一緒に持ってきた食べ物や水に毒でも仕込んでおけば、それでおしまいだろう」


「俺ぁ魔物じゃねぇから、アンタが何を考えてるのかわかんねぇけどさ。おそらくはアンタが、既に死んだ娘を食らうよりも、慕っていた父親が恐ろしい魔物だったというショックと恐怖に怯える娘を食らう方が気持ちいい………なんてドン引きな思考を持つ、変態クソゲス野郎だからだろ!!」


 ついにグンノルさんが黙り込んだ。もう勝ったも同然だ。まとめに入ろう。


「おさらいすると、こういう風になる。何かの拍子で魔物の姿に戻っちまったところをシリカさんに見られたアンタは、口封じにシリカさんを殺そうとした。だがそこに運悪く俺たちが来た。出てくるまでに時間がかかったのもそのせいだろ?あの場で俺たちも皆殺しにしようとしたんだろうが、シリカさんのおかげでそれは失敗。その後で魔物特有の嗅覚で俺たちの場所を突き止め、俺にザコ魔物を一掃させるためにわざと毛布を少なめに渡した。あとは魔物の姿に戻ってシリカさんを殺し、魔物の番をしている俺とグースカ寝ているヒカヤ、そして娘のつけ坊を食らえば、晴れて目標達成ってわけだ。だが運が悪かったな。アンタよりも俺の方が……数枚上を行っていたみたいだ。こっから先は通さねぇよ。誰も殺させねぇ……テメエは俺が倒す。いい加減に正体を現しな」


 決まった。完膚なきまでに叩きのめしてやった。ちょっとカッコつけ過ぎたかも知れないけど……これでもう言い逃れはできない。


 だがここからが面倒だ。コイツがどれほどの戦闘力なのか……当然、昼間のドロボウどもとは段違いだろうな。


 だが、ヒカヤにもつけ坊にも、もちろんシリカさんにも、手出しはさせない。


「逃げてくださいシリカさん。ここは俺が引き受けます。俺の妹とつけ坊のこと……頼んます」


 シリカさんは呆然とした様子で俺を見てくる。


「アマネくん……あなた……」


「大丈夫です、妹とその友達のためを思えば、俺は元気百倍アマパンマ」




「いったい何を言っているの?」




















          ぽへ?









「わたくしが犠牲とか、この人が魔物とか、正直言ってこの家に入ってきてからのあなたの言葉が一文字も理解できないのだけれど」


 それはこっちの台詞なのだけれど。


「なっ……何を言ってるんすかシリカさん!!そりゃ旦那さんが魔物だったということを信じたくない気持ちはよく分かります!でもこのままじゃこの魔物に……」



「……ブハッ!ブッハハハハハハハハハヒッ!!ブハハハハハハハハハハハハハヒッ!!ブハハハハヒッ……はぁ……はぁ…………ブハッ!ブッハハハハハハハハハハハヒッ!!ブハハハハハハハハハハヒッ!!ブハハハハハハヒッ!!」


「くっ……テメエなに笑いまくってやがんだ!!やめろ!!一回一回引き笑いで区切るのやめろ!!どうせ笑うなら最後まで大笑いしてくれ!!てか一回止まりかけたよね!?」


「はあ……はあ……ブハッ!ブッハハハハハハハハハヒッ!!ブッハハハハハハハヒッ!!ブハハハハハハハハハハヒッ!!ブッハハハハハハハハハハハハハヒッ!!」


「しつけぇな!!言いたいことがあるなら早く言えよ!!長ぇよすごく!!」


「はあ……はあ……ブハッ!ブッハハハハハハハハハハハハハヒッ!!ブハハハハハハハハハヒッ!!ブッハハハハハハハハハハハハハハヒッ!!ブハハハハハハハハハハヒハヒヘッ!!」


「“ハヒハヒヘッ”!?“ハヒハヒヘッ”って言った今!?そんな技も持ってるの!?つかいい加減に笑うのやめろよ!“ハ”がゲシュタルト崩壊するわ!俺の推理は完璧だったはずだろ!」


「はあ……はあ……完璧だって?とんでもない!0点だよ、アマネくん」


 あ、やっと話が出来るようになった。


 てか、え?


 0点……?


「ワシは魔物じゃない、ただの人間さ!」


「ほにゃっ!?い、言い逃れはよせ!母親が己の身を犠牲にして娘を守ろうとしたのに対し、父親は娘を食らおうとした上にウソまでつくのか!!外道め!!」


「ウソじゃないわよ、アマネくん。わたくしは本当に、ヤンヤンが邪魔だったから追い出したの。このエロブタオヤジの解体ショーは、カワイイ娘には見せられないもの!!」


 シリカさんがグンノルさんを鬼のような形相で睨んだ。


「か、解体ショー!?なに、じゃあ実はシリカさんが魔物だったとか……?」


「違うわよ……浮気してたのよ、このジジイが!!」


「………え、浮気?」


 は……話が読めましぇ~~ん。ぽよ~~ん。


「あなたたちが初めて家に来た前の場面から話してあげる。わたくしが家事をしていると、このオヤジが上機嫌で帰ってきたの。このエロブタは釣りが趣味でよく行くから、大量に釣れてご満悦だったのかと思ったら、釣具なんて一つも持ってなかった。すると、コイツがそこの椅子にドッカリと座った時、何か一枚のカードのようなものが落ちた。それは……遊郭の会員証だった!!」


 遊郭……キャバクラみたいなもんだっけ?


「違うのだシリカ!それは友人に預かっといてくれと頼まれたものだ!」


 うわぁ、ウソの典型的なパターンだな。誰もが通りすぎて獣道になってる言い訳だ。


「またそんな嘘を……」


「嘘なものか!カードの裏に“ザダルダ”と名前が書いてあるだろう!お前も何度か会ったことがあるはずだ!」


「あっ、本当だわ!ザダルダさんの名前!」


 なにっ!?絶対ウソだと思ったのに!


「でもどうしてあなたがこれを……」


「アイツが……ザダルダが、ワシを利用したのだ。釣りをしていたワシの所に死にそうな顔で走ってきたザダルダは、ワシにそのカードを渡し、言った。“カードの持ち主がお前だということにしてくれ!俺のために悪役になってくれ!”とな」


 ザダルダどうしようもねぇクズ。


「だが遅かった。その直後、アイツは鬼のような顔をしたカミさんに見付かり連れていかれてしまった。あのあとこのカードを返そうと色々な場所を探したのだが、ザダルダは見付からなかったから、仕方なくそのまま持ち帰ってきたんだ。釣具は家の近くで乾かしてあるのだよ!大量の魚が釣れて気持ちよかった!アマネくんも美味しかっただろう?」


「え………?あっ!」


 思い出した。あの時、果物とかと一緒に持ってきてくれた魚は、グンノルさんが釣ったものだったのか!


「これで分かってくれたか、シリカ?ワシが愛しているのはヤンヤンだけじゃない。お前のような最高の良妻を置いて、女遊びなどするものか!」


「あなた……ごめんなさい!あたし、あたし酷いことを……!」


 美しきかな、夫婦愛。


 「ふんだ、俺も最初っから分かってたもーん!グンノルさんが浮気?“まさかな”ってね!魚だけに!えっへへへへへへ!!んじゃ俺“テレビで学ぶスタッカート”始まるんで帰りま」


 ゴキブリのごとくカサカサと逃亡を図るも、グンノルさんの毛深い手がガッチリと俺の頭を掴んだ。


「さて、ではワシの誤解も解けたことだし、ワシのことを言いたい放題に言ってくれたアマネくんに、色々と話を聞いていこうか」


「…………………ふぁぃ」




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