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彼女が作れなければ造ればいいじゃないっ!  作者: 箒星 影
二章 リゾート地ミーナリア
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三十九体目 ビンタが飛んでくれば完全に見切ればいいじゃないっ!

 西暦30XX年。


 発達した科学技術(テクノロジー)により安寧の日々を送っていた民達の顔は、平和ボケがこびりついた見るも無惨な代物だった。


 機械化の更なる進展の影響は大きく、従来より遥かに利便性を増した、都会という一つの巨大な箱の中での生活に身を置く人間の瞳には、もはや緑は映っていない。


 手に握られた小型メディアに視線を落とし、薄ら笑いを浮かべながら、硬いアスファルトの上を闊歩(かっぽ)する。


 液晶画面からの光を吸収しきれずに青白く光る顔面を気だるげに動かし、生気を失ったように歩を進める大衆の姿は、ゾンビの行進と見紛うに余り有る。


 かつては農業と呼ばれていた、農家の血と汗が染み付いた泥まみれの野菜の生産も、時代遅れだと一笑に付される始末。


 機械の手によって、極めてクリーンな環境で、何らの労力も要さず、しかし皮肉なことに――――本当に皮肉なことに――――昔よりもずっと新鮮で味の良い野菜が、人々の胃袋を満たし続けている。



 そんな中。



 その巨大な箱から遠く離れた、人の手の全く加わっていない天然の大地を踏みしめ、今やすっかり目にすることはなくなった透き通った汗を、シワだらけの焦げ茶色の額から流す者がいた。


 齢七十八。綺麗に折れ曲がった腰を更にかがめて、足元に埋まっている立派な大根を引き抜いた男は、禿げ上がった頭を微かに揺らして屈託のない笑顔を見せた。


 現代において排気ガスを全く肺に入れることなく生きている、おそらく唯一の人物。


 そして残酷な時の流れに抗い、自らの手で泥と愛にまみれた野菜を産み出し続ける、農家のただ一人の生き残りである、その男の名は――――。



「ふぅ…………豊作豊作」



『実るぜッ!ホーサク』 第一話“安心せい、無農薬じゃ”




「あまりに興奮しすぎて意味わかんねぇ作品にワープした!?どんな現象なんだよ怖ぇよ!!おいアンちゃん帰ってこい!!オメエはホーサクさんじゃねぇ!!カタカゲアマネさんだろうが!!」


 はっ!?


「ザ、ザダルダさん……俺は一体何を……?」


「なぁもうホント科学じゃ説明できないボケを突然かますのはやめてくれねぇかアンちゃん?寿命縮むぜ」


「善処します。でも何でいきなりそんな興奮したんですっけ俺?」



「なに忘れとんねんあほぉぉぉぉぉ!!!」



 間の抜けた声で質問する俺の右側から、強烈な関西弁に後押しされた真っ白い手のひらが物凄いスピードで飛んでくる。


 それを完全に見切った俺はクラムボンのように余裕そうな笑みをかぷかぷ浮かべながら一歩後ろに下がろうとしたのはいいもののよく考えたら全然見切れてなかったのでクラムボンのように余裕そうな笑みをかぷかぷ浮かべながら右頬に重い一撃を食らい五メートルほど吹っ飛んだ。


「もうイヤやぁ!!ミラさんにどうしてもって言われたから着たけど、あたしやっぱりこんな格好耐えられへん!!着替えるぅぅぅぅ!!」


「まあまあセンナ、もう少しだけここに居ておくれよ。アタシもアンタの芸術的な体、この目に焼き付けときてェんだ。それに、この炎天下であんな厚ぼったい鎧なんざ着てたら熱中症でぶっ倒れるよ?」


「ムリやし!!きがえるもん!!あの鎧がいいもん!!こんなはずかしいのイヤやぁぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁぁぁん!!いややぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 エメラルドグリーン色の、今にも胸やら尻やらが溢れ出そうな申し訳程度のビキニ型の布切れを、純白の引き締まったパーフェクトボデーに貼り付けた今のセンナは、大人の色気がてんこ盛り…………の、ハズなのだが。


 地面にペタリと腰を落とし、わんわんと号泣するその女性を、気が付けば俺とザダルダさんは幼稚園児を見守る父兄のような目で眺めていた。


 防犯ブザーにも引けを取らないセンナの甲高い叫換を聞き付け、ヒカヤにミャーちゃん、サバシルにアクラッチさんが、各々の水着をバッチリ装着して、店からぞろぞろ流れ出てきた。ゲームシステム崩壊の決定的瞬間。


「えっ、ちょっ、センナさんが女児のように!!憲法何条に違反したの兄さん!?」


 ヒカヤの中では俺はもう何らかの犯罪に手を染めた後らしく、その軽蔑的な目を見ているうちに、アマネちゃんは自分が留置場の中にいるかのような感覚に陥りました。



 いや俺なんにもしてねぇんだけど!!



 なんかいつにも増して冷静に情景描写すれば少しは現状が掴めてくるかなと思って淡々と説明進めてたけど!!


 今までクールまっしぐらキャラだと思ってた仲間が赤面して!方言で喋って!挙げ句の果てには幼児退行して号泣!


 そんな目まぐるしい変化にアマネくんがついて行けないことくらい、オセアニアじゃあ常識なんだよ!


 とりあえず、このままじゃあまりに不憫なので元のセンナに戻してあげよう。


「ヒカヤ、センナを店まで連れていって元のコスチュームに着替えさせてやってくれ。このまま泣かれたらこの砂場まで海になっちまう」


「わかった!任せといて性犯罪者!」


 えっ。



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