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彼女が作れなければ造ればいいじゃないっ!  作者: 箒星 影
二章 リゾート地ミーナリア
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三十六体目 水着を売りたければ画期的なシステムを考えればいいじゃないっ!


 あのあと結局、俺の所に普通のラーメンのようなものが運ばれてきた。普通の見た目で、普通の匂いで、普通に美味しかったです。


 なんだろう、この虚無感。


“飯ネタはもうやり尽くしたからコイツのは適当なやつでいいや”感が半端ないんだけど。ガチでツッコミ所がないんだけど。


「おいしかったねぇ!」


「悪くなかったわ」


「半分近くヒカ公に食われたけど……ジューシーで旨かったぜ!」


「ん、大満足っちょ」



 うん、もう君らが幸せならアマネくんも嬉しいよ。目から肉汁流すほどだもんな。サバシルは顔の血を拭け。魚なんて二度と食いたくねぇ。



「おいアンちゃん!」


「はいな?」


 楊枝で歯をシーハーしていると、ザダルダさんが俺を呼んだ。遠くで嬉しそうな顔をして手招きしている。


 絶対にロクでもない事だよなぁ……。


 いやいや立ち上がり、皆から離れる。ザダルダさんに近付くと、グイッと引き寄せられて肩を組まれる。加齢臭なう。


「なんすか。クサイっすよ」


「おいおい、怖ぇ顔すんなよ!なんかさ、アンちゃんとは仲良く出来そうな気がすんのよ!クサイは傷付くからやめて」


「そんなこと言ってもカードは返しませんよ。ごめん」


「いやいや!そんなんじゃねぇって!オレの見てた感じだと、どうやらアンちゃん、あの中の誰とも恋人関係にないみたいだからよ!発展しそうにもねぇし!しかもなんか、アンちゃんからはオレと同じニオイがするんだ!」


 オレと同じ匂い…………?クサイって言った直後にそう言われるとまるで…………。


 ひとまず警戒は解かれたらしい。だから俺は最初からそう言ってるのに。一人は完全に実妹だし。


「んで、それが何ですかいや」


 ザダルダさんが俺の耳に顔を近付ける。


「あ「詳しく」のお連れのお嬢ちゃんたちの水着姿、見たいと思わねぇか………って何だ今の!?怖ぇよ!!ボケは人間のアビリティ範囲内にしろ!“ひゃうっ”てなるだろーが!!」


 俺はザダルダさんの話に興味を持ち、一緒に店の外に出た。かわいい。



 しばらく歩き、二人並んで砂浜に座った。眼前では若い男女がこの上なく幸せそうな顔で青春を謳歌している。


 目の毒だなぁ。アイツら全員、あと三秒後くらいに砂アレルギーになんねぇかなぁ。


「時にアンちゃん……かわいこちゃんのビキニ姿、好きか?」


「ハイかイエスで言ったらモチのロンっすね」


「へへっ、そいつは結構。実はよぉアンちゃん、オレさ……作ってんのよ」


「はい?えと……作ってるって………」


 湿った潮風に吹かれて砂ボコりが勢いよく舞い上がる。女子たちのホイッスルのようにけたたましい悲鳴がその場を支配した。


「陶器を?」


「何でだよ!!流れを完全にムシしたボケは突っ込みにくいから控えろ!ビキニだビキニ!!それしかねぇだろい!!」


 予想通りの答えに俺は眉をひそめてみせる。


「ビキニィ?ザダルダさんがっすか?キモい……何でまた?」


「バッカお前!んなモン、かわいこちゃんたちに着てほしいからに決まってんだろ!キモいは傷付くからやめて」


「わざわざ自分で作って?ごめん」


「かぁ~~~!ホンット、なぁんにも分かっちゃいねぇなぁ!これだから青二才は困るってんだよ!まっ、腐れ童貞なんてそんなもんか!どーせお前みたいなザコは、保健の授業で教科書にエロいページやら単語やらが出てきたら落ち着かなくなって隣の席のヤツの反応とか見たくなるけど、変に取り乱したら悪目立ちして周りからバカにされちゃうからってんで、逆に普段より背筋伸ばしちゃったりとかして授業態度よくなりやがる、ウブッウブなムッツリスケベ野郎なんだろうなぁ!そっちの方が陰キャっぽくてキモがられるってのによぉ!」


 焼き殺してやろうか。


 今だけでいいんで手から炎とか出させてください神様。必殺“図星ファイアー”みたいな。


「何をそんなに偉そうに……そこら辺で売ってる水着でもいいでしょうに。資源のムダっすよ。エーッコエコエコエコロジーって、高須くんも歌ってますよ」


「この駄犬が!!いいか、俺がこの手でベタベタ触って作り上げた水着をかわいこちゃんが着るってことはよぉ!俺は間接的にその子の裸にベタベタ触ってるってことになるだろーが!!」


……………………。


「さらに水着をレンタル制にして返してもらえるようにすれば……後は分かるだろ?」



 俺はケンシロウのような濃すぎる顔面になって、ゆっくりとザダルダさんを見た。



「あんた………天才か?」



 ザダルダさんの料理人らしい厚ぼったい手を固く握りしめる。


「ザダルダさんっ!俺は17年間生きてきてこれほどまでに他人の考えに感銘を受けたことはないっすよ!兄貴とお呼びしていいっすか!?」


「おう!呼べ呼べ!好きなだけ呼べ!!」


「でもただの水着じゃ物足りないような気がします。なにか画期的なシステムが欲しいところっすよね、ザダルダさん」


「え?呼ばないの?そ、そうなんだよなぁ……できるだけエロティックなものにするのは既にやってるから、他に何かオプションが欲しいところなんだが……」


「ハイハーイ!!」


「おっ、何か意見があんのかいアンちゃん?」


「水に濡れたら透ける水着とかどうざんしょ!!」



 ザダルダさんはラオウのような濃すぎる顔面になって、ゆっくりと俺を見た。



「おめえ……天才か?」



 そして俺の手を上からギュッと包み込む。


「その発想はなかったぜ!海に来ている以上、濡れるというのはもはや必然の理!濡れる覚悟のない者に海に足を踏み入れる資格など皆無!透けることなんざ教えずに上手い商売文句で売っちまえば、オレたちゃ何の苦労も要さずに、かわいこちゃんたちの水着姿だけでなく裸まで楽しめるってわけかい!まさに一粒で二度おいしいってこった!」


「ウホウッ!テラ江崎グリコ!!ウホウッウホウッ!!それだけじゃない!いきなり自分の水着が透けて、うら若き乙女たちが赤面するサマもバッチリ目に入れることができます!この発明だったらノーベル賞も狙えるっすよ!!」


「素晴らしいっ!!オレたちで勝ち取ろうぜ、ノーベル賞を!!後は値段だよな!女ってのは“○○%引き”とかいうのに弱ぇからよ!ウチのブタゴリラもそうだ!だから原価をバカみてぇに高くして、そっから大幅に値引きしてやりゃあ、ハイエナのごとく寄ってきやがるんだよ!」


「悪ぃぃぃぃ!!ザダっちクソ悪党ぅぅぅぅ!!でもその心の醜さがかえって清々しくさえ思えてくるぅぅぅ!!確かに女ってバーゲンとかに骨抜きですもんね!思いっきり値引きしましょう!ビキニだけに“30%引きに”ってか!」


「プハッ!!ガハハハハハハ!!笑わせんなよアンちゃん!!」


「だひゃひゃひゃひゃ!!ポンポン痛い!!アマネくんポンポン痛いよぉぉぉ!!」


「よっしゃ!じゃあ早速“女体ウォッチ”計画の開始だ!ヨーでるヨーでるヨーでるヨーでるおっぱいでるけんでられんけターンエックスッ!!!」



 輝かしい将来を確信し、ガッシリと手を取り合った俺とザダルダさん。


 しかし、汚らわしくも純然たる中年男性の笑顔が突如として目の前から消えた。恐怖に凍りついた自らの頭を右側に動かすと、砂浜をうつ伏せで豪快に滑ってゆく丸い物体の姿が。


 ルンバかと思ったが、どうやらあれは頭部を蹴られて吹っ飛ばされたザダルダさんらしい。よく思い出さなくても、人語を喋っていたしな。さすがターンエーのお兄さん!


 ザッ。


 目の前で高く上げられていた、細く引き締まったおみ足が、砂を踏みしめる音が聞こえた。


「ずいぶんと面白そうな話、してんじゃねェの……この“ブタゴリラ”も混ぜちゃくれないかねェ?」



「ミ……ミラ姐さダンシングサムライッ!!」



 殺意に満ちた相手の名を呼ぶことも叶わず、こめかみに鋭いキックを受けた俺は、ザダルダさんの(わだち)をそのまま辿っていった。


「ノーベル賞?んな大層なモン貰える器かい。アンタらにお似合いの賞は…………」


 灼熱の砂浜に突っ伏した俺とザダルダさんの頭を引っ付かんで自分の顔の目の前に持ってきたミラ姐さんは、このシチュエーションじゃなければ惚れてしまいそうな屈託のない笑顔を披露した。



「ゴーへル賞さね」



 んー、なんかオチにしては微妙なボケですね……とか言ったら間違いなく殺されるから、ここはアマネくんお得意のオブラートで……。



「つまんねぇんだよクソババア!!はらきれきさまぁ!」



 さぁて、ちょっくら三途の川でも見てくるロン!あぢゅー!



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