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彼女が作れなければ造ればいいじゃないっ!  作者: 箒星 影
二章 リゾート地ミーナリア
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三十五体目 料理がなくなれば皆で窓際に座って泣けばいいじゃないっ!

「お待たせいたしましたぁ!カレーライスにトリカワ、三種の動物の焼き肉と、ゥプャルドュキヮです!」


「わあい!カレー大盛りだぁっ!!」


 あれから十数分後、四人の料理が運ばれてきた。


 さすが何でも屋の亭主を名乗るだけあって、オーダー通りのものを見事に作り上げてしまった。見た目も皿から溢れんばかりにボリューミーでカレーやお肉の香りもバッチグー。空腹の人間にはたまらない品々が卓上に並べられていく。


「おおっ、肉もタップリだ!!おいアク公、コレ何の肉だ!?」



「なはは…………ヒ・ミ・ツ………のアッコちゃんっ!」



 何だか分からんが頼まなくて良かった。つかその言い方だとアッコちゃんの肉みたいだからやめてほしい。


 ここでサバシル氏オーダーのゥプャルドュキヮさんが俺の方をギョロリと見た。生きとる。目と目が合う瞬間“ヤバい”と気付いた。


 紫の体に緑の鱗、分厚い唇に虚ろなおめめ。全長は一メートルほど。人面魚はキツい。てか生きてない?ビチビチしてない?何の処理も施されてなくない?皿に乗ってるだけじゃない?


「ゥプャルドュキヮは新鮮なうちに踊り食いでお楽しみください!」


 鬼か。



「アァ………アマネェ………」



 人語!ゥプャルドュキヮさん人語話した!!よりによって俺の名を!!やめて!すがらないで!!俺にはどうにもできないから!


「……タス……ケ………ビャアアアアッ!!アッ!!アアッ!!」



「モグモグ……うん、脂が乗っててウマイっちょ。やっぱ新鮮さを楽しむなら踊り食いっちょね」



 サバシルちゃんの可愛らしい唇から牙が剥き出しにされ、俺に何かを最後の望みを抱いていたゥプャルドュキヮさんの一番身がギッシリしてそうな腹部に、はむっと可愛らしく噛みついた。


“助けて”なんて言おうとしてないよな。“太助寿司”って言おうとしたんだよな。魚だもんな。


 真っ白なお皿が垂れ流された鮮血を受け止め、赤く染め上げられていく。名状しがたい叫び声をあげながらこの世のモノとは思えないような顔でビチビチ痙攣するゥプャルドュキヮさんの尻尾と頭部をしっかりと持ち、至福の表情で食してゆくサバシル。


 新カテゴリ“見る拷問”。


 一匹の魚の未来が閉ざされていく様を、何もできない俺は真っ正面から見させられ続けなくてはならなかった。目を背けても、一瞬にしてあの断末魔が、表情が、脳裏に深く焼き付いてしまったため、もう遅い。墓場まで持っていかなければならない記憶がまた一つ、増えてしまった。


「ん、アマネも食べるっちょか?アテクシが口つけちゃったので良ければっちょけど」


「あぁ、俺“ゥ”から始まる食べ物アレルギーなんだわ」


 口にベッタリと血を付着させたサバシルのお誘いを、俺は無難な言い訳で断ってみせた。キツいキツい。魚なのにトラウマになりそう。


「わぁ~!このカレー、コクがあっておいしい!」


「トリカワも歯応えがあってなかなかよ」


「マジで!?おいセン公!一口よこせ!」


「“セン公”って先生みたいね……ていうかあんたは充分に肉があるでしょ。どうしてもって言うなら、そこのカワの所と交換してあげてもいいわよ」


「カワ好きだなぁお前……モチロンいいぜ!ホレ食え!」


「むぐぐっ!?熱っ……んぐ……んんっ、ホントおいしいわ!」


「え~!センナさんばっかりズルいよぉ!私にもお肉ちょーだい、ミャーちゃん!カレーあげるから!」


 テメエらは何でこの殺戮の悪魔のご近所でそんなにキャピキャピできるんだよ!!“けいおん!”みたいに女の子どうしでホノボノしやがって!


 どこが軽音だよ!店中にゥプャルドュキヮさんの野太い断末魔が響き渡ってるだろうが!“じゅうていおん!”だよ!!



 俺の料理は!?



 何で四人のが同時に運ばれてきたのに俺だけ時間かかってるんだ!いやもうサバシルのせいで食欲失せたけど!


「モシ……ウマレ……カワレ……タラ……アタシ……モ……ソウシテ……アマネノ……トナリ、デ…………アマネ……スキィ……」


 ゥプャルドュキヮさん!!もう喋らないで!俺に惚れないで!!踊り食いされてるやつに告白されるのがメンタル的にどんだけキツいか察して!!


「むぅ……やっぱアマネも食べたそうっちょね。ミズくさいっちょ。アテクシも鬼じゃないっちょから、食べたいなら正直に言ってほしいっちょ。はい、アーン」


 口を血まみれにしたサバシルが素早く俺の隣に移動し、ゥプャルドュキヮさんを口元まで運んできた。いや“アーン”の規模じゃねぇだろ鬼!!


 てかなに、ゥプャルドュキヮさんの声、俺にしか聞こえてないの!?


 ゥプャルドュキヮさんが俺を横目で見てくる。初めて手料理を作ってあげた彼氏が一口目をスプーンですくいあげた時みたいな顔で。なに期待してんだよ!なんで頬に紅さしてんだよ!!


「ムリムリムリムリかたつむり!!こんなキモいの食える猛者、世界にお前しかいなきゅっぷい!!」


 喋る猶予さえなく、サバシルが食べ進めて人体模型みたいに体内が露出している部分を顔に押し付けられる。後頭部にサバシルの手。“ニ・ガ・サ・ナ・イ”のサイン。


「ホネが多いから優しく食べた方がいいっちょ」


 お前が俺に優しくしろ!!こんな生類憐れまない拷問、江戸時代じゃ絶対に採用されねぇぞ!!



「………………マズッ!!」



 しかもマズいんかい!カニの食べられないところみたいな味がする!!飲み込めないほどマズい!!お茶くれお茶!このお茶男!


 はっ!しまった、ゥプャルドュキヮさん生きてるのにハッキリと“キモい”とか“マズい”とか言ってしまった!見たくないけど反応を確認。



「ア……アマネ……ヒド、イ……」



 名曲“潮鳴り”が流れてきそうな悲しい御顔。


「この素晴らしい味が分からないっちょか?アマネ、お子ちゃまっちょ」


 そのままサバシルは俺の真横で極楽浄土のような顔をしてゥプャルドュキヮさんを食べ始めた。ゥプャルドュキヮさんの声は聞こえなくなった。


 お子ちゃまでいいよ。そんなモノを旨いと感じられるなら、おとなになんかなりたくな~い!ぼくらはトイザらスキッズ!!


 って、他の奴らが静かだけど、一体何を……?



「ミャーちゃんの肉料理、おいしいね~!次の一口は~……」


「え~っと、その次はですねぇ……」


「ってぇ、次は無い無い!」


「今度の一口は、もっともっとウマくなってるよ!」


「テメエおかわりする気かぁ?アタシの皿の上の肉はもう無いのっ!」


「そっかぁ……それは残念だねっ……!」


「ザダザダぁっ!」


「パピ上!わがまま言わないで!お客様も子どもみたいに泣かないでください!」


「これは肉汁だよぉ……うっ……ひぐっ……!」


「セーンーナー………ミオシーン」


「ふ、ふふっ…………ミャーリタスだって泣いてるくせに」


「アタシのも肉汁だあっ!!」




 お前ら全員いっぺん死ね!!




 人が耐えられないほどグロテスクな思いしてるってのに窓際座って“じゅうていおん!!”やってんじゃねぇよ!泣くぐらいならおかわりしたらいいじゃん!!


 アクラッチさんはともかくザダルダさんまで何だよ!“ザダザダぁっ!!”じゃねぇよちきしょうめ!


 そろそろ誰かに怒られろ!!感動シーン台無しにしやがって!俺もボロ泣きしたんだぞあのシーン!!



 俺の料理は!?



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