三十四体目 泊めて欲しければカードで脅せばいいじゃないっ!
ふええ……おなかへったよぉ……。
「だいたいなぁ!アンちゃんのその格好は何だ!?どっから来た!?」
ザダルダさんの頭からプップカプーと汽笛が噴き出している。
「あーっと……異世界、みたいな?」
「イセカイィィ?何かわかんねぇけど遠くから来たんだろ!?そんな野郎がメシ食えるほどの金なんか満足に持ってやがんのかよ!?」
何かと理由をつけて料理つくらない気だなこのオッサン。
確かに最初はバンソウコウとかハンドクリームとかしか持ってなかったけどさ。でも俺は今やプリョンゾヌス神の遣いである魔物たちとの戦闘によってガッポガッポの一年生なのだよ。ナメてもらっちゃジャポニカ学習帳やで!
袋を取り出し、手を突っ込む。わざとらしくかき混ぜ、ジャランジャランと音を立ててザダルダさんに聞かせる。
「ふっふっふ……どうすかこの全ての人間を幸せにするサウンドは……いてっ!」
が、突如として激しい痛みが中指に襲いかかり、慌てて手を引っこ抜いた。袋の底に何か角ばったものが入っていたような。
「ど、どうしたの兄さん?」
「んにゃ、なんか硬貨じゃない物が……むお?これって……」
今度は慎重に袋をまさぐってみると、見覚えのある一枚のカードがコンニチワ。
これ、遊郭の会員証じゃないか。何でこんなもんが袋の中に?
裏側を見る。
そこに書かれていた名前を見て、全て理解した。
「アアアアアアアアアアァァァァァァ!!!」
「うわぁっ!!今度は何なの兄さん!?にしおかすみこ!?」
「こっ、こここっ、この人……ザダルダさんだ!!」
「あ?だからザダ公だって言って言ってんだろうが!どうしたんだよアマ公?」
ザダ公。
俺以外の誰もが小首を傾げる。そうか、確かこのカードの説明をグンノルさんとシリカさんから聞いたとき、この中であの場にいたのは俺だけだったから……!
「この人は……グンノルさんの知り合いだよ」
「な、何でテメエがそのカードを!!てか、グンノルを知ってやがんのか……!?」
顔を青ざめさせて一気に取り乱すザダルダさん。
ははん、コレは使えますね。
俺はカードを二本指で挟み、ザダルダさんに見せつけ、不敵な笑みを浮かべてみせた。
「……確かザダルダさん、この遊郭のカードをグンノルさんに預けたんですよね?奥さんから言い逃れをするために」
「そ……それがどうしたってんだ!!」
「浮気の“誤解”は解けたんですか?」
「おうよ!このザダルダ様の巧みなウソで納得させてやったぜ!“アレはグンノルから預かっていたモノで、裏にはしっかりアイツの名前が書いてある”ってな!コロッと信じやがったぜ、あの単細胞ゴリラ!」
クズだねぇ。じつにクズだねぇ。
こりゃもう少し痛い目を見てもらわねばなりまへんな。
「そっすか、それは何より。じゃあこのカードの裏に書かれていたのが本当はあなたの名前であるという事実がミラさんに知れたら、どんなスプラッター劇が幕を開けるんでしょうなぁ?ピペベペペペペ!!」
グンノルさんの瞳に恐怖が宿った。
「ア……アンちゃん……」
弱味を握られて衰弱しきったザダルダさんにトドメの一言。
「はぁ……腹減ったなぁ」
「ちっ……ちくしょおおお!!ちくしょおおお!!ちくしょおおお!!」
ライアーゲームのように三回連続で崩れ落ちたザダルダさん。本家は編集してるだけで一回だけなんだけどな。
「りょ、りょりょっ、料理は作る!!宿代が惜しいなら泊めてやる!!だからアイツには言わないでくれ!頼む!この通りだ!!!!」
ザ・シナァァァァリオォォォォ!
すべて俺のシナリオ通りに上手く事が運んだようだ。土下座までさせるつもりはなかったんだが……。
あ、でもアクラッチさんには知られてしまったな。もっと外に呼び出すとかしてコッソリ脅せば良かった。
「ユーカク……“ユーキャンで資格”の略ですかな!?コホホホホホホホ!!」
ホッ……教科書に載せてもいいほどのアホな人でよかったぁ。
奥さんにも聞かれてないようだし、宿も無料で手に入れられた。ハッピーハッピー。はっぴぃにゅうにゃあ。
ここで、カードをよく見たら隅っこの方に小さく折りたたまれた紙のようなものがペタリンコと。
《アマネくんへ
どうせ次の行き先はミーナリアの【何でも屋ZADA】でしょ?コレで宿代がタダになるわよ! シリカ》
予言者かよシリカさん。
 




