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彼女が作れなければ造ればいいじゃないっ!  作者: 箒星 影
二章 リゾート地ミーナリア
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三十一体目 命の危機に瀕している人が来れば匿ってあげればいいじゃないっ!


 店員さんは楽しそうにスキップで店の奥へと入っていった。ストレスから最も遠そうだなあの人。


“起こしてきます”って……寝とるんかいな?いくら閑古鳥だからってさぁ……営業中なのにさぁ……。


 俺たちは五つの椅子がある窓際のテーブルを見付けて座ると、同時に一息ついた。


「なんか見てただけなのにドッと疲れた……凄い人だったわね、あの店員さん」


「本当だよ!ただでさえお腹もペコペコで元気も出ないのに、あんな面倒くさい人に出て来られて疲れも溜まって、まさに“でらっくすなニク”だよ!!」


「“なきっつらにハチ”だろ何ちょっとイイ物食おうとしてんだ。あと店員さんのことを“面倒くさい人”とか言っちゃダメだろ?面倒くさい人なんだからバレたら大変だ。まぁまぁ、とりあえず店主さんとやらが出てくるのを、ゆるりと待とうじゃないかね」


 貸し切り状態と言ってもいい店の中に、俺たちの声だけが鳴り響く。


 店員さんは変だが、店内は実家のような安心感。もっと人気が出てもいいと思うが……フクロウカフェならぬ珍獣定食屋みたいな。


「いやぁ、それにしてもミャーちゃんのさっきの泣き顔カワイかったっちょねぇ。貴重映像っちょ」


「テメエ、蒸し返してんじゃねぇよサバ公!」


 両手で頬杖をついて満足そうな顔をしているサバシルに怒号を浴びせるグラード……ミャーちゃん。


 二人の様子を見ていて、ふと気になることが。


「お前らすごい仲良いけどさ、姉妹とかじゃないんだよな。何もかも正反対なのに、どうやってそんなに親密度を上げられたのか、良ければ話してほしいもんだね」


「おおっ!ミャーちゃんとサバシルちゃんの昔話!広瀬アリスっぽく言うなら……わたし、気になります!」


「あぁ?いいよそんなモン、こっぱずかしい!あとナチュラルにミャーちゃん呼びするなヒカ公!!別にえる公で良くね?」


 千反田えるちゃんはミャーちゃんルールでは“える公”になるらしい。一回一回“公”って付けるの大変そう。エネルギー消費の大きい生き方に敬礼。


 つかミャーちゃんってのがそんなに嫌なら、なんて呼んでほしいか言えばいいのに。


「アテクシは別に話してもいいっちょけど」


「だあああっ!!余計なこと言うなサバ公!脳と心臓入れ替えるぞ!!」


 おいおい、ヒステリックなこと言うなぁ。ガチのスサミストリートやがな。


 そんなに話したくないなら無理強いはしないけどさ。別にからかったりしないのに。ちょっと高木さんに伝言するだけなのに。


 しばしご歓談くださっていると、いきなりガタンガタン!!と店の奥から大きな物音が聞こえ始めた。ここからじゃ何が起こってるのか全く分からん。



「おあまーーっ!!」



 すると、奥からさっきの店員さんがうつ伏せでズザザーッと滑り出てきた。なになに、今度はなに?


「いやあ失礼ぶっこきマンボ!ただいま自分のパピ上とマミ上が取っ組み合いの大喧嘩をしておりまして!自分も必死に仲裁を図っておったのですが……ご覧の通り敗走いたしました次第でありゃんせ!」


 パビ上とマミ上?ああ、店員さんのお父さんお母さんか。


「おいおい!地震みたいな音してんぞ!!大丈夫なのかよアク公!?」


 店員さんにも容赦ないルール適用。アク公じゃ“鍋のアクを公園にバラ撒くピアニスト”と区別つかなくない?平気?


 ハラハラしながら騒動が鳴り止むのを待っていると、物音がだんだんと近付いてきた。別にピアニストに限る必要はなかった。



「ひっ……ひい!助けてくれ!誰か助けてくれぇっ!!」


「ややっ!!パ、パピ上!!」


 続いて一つの丸っこい物体が床の上を転がり込んできた。ルンバかと思ったが、店員さんがパピ上と呼んだということは、この人がここの店主らしい。よく思い出したら人語を話していたしな。


 ルンバだったら良かったのに。ルンバがもしも人の言葉を使えたら“キェェェェェアァァァァァシャベッタァァァァァ!!!”と感動したのに。


 というわけで店主さんの紹介に移ろう。白髪の五分刈りがトレードマークの小太りなちっちゃいオジサンで、鼻の下のチョビヒゲがどこか懐かしさを感じさせる。白Tシャツに短パンと、海辺の店の主であり定食屋の旦那でもある男に相応しい、なんとも着飾りのないアバウトなファッションである。


 騒動のせいか元からか、Tシャツは薄汚れており、アクラッチさんと違って清潔感があるとは言えない。が、その感じが逆にアットホームで、グンノルさんとは違う理由で親しみやすそうなオジサンである。かくいうアクラッチさんもさっきの一滑りでせっかくの純白エプロンが台無しなのだが。


 にしても店主の第一声は命乞いじゃなくて接客の挨拶であってほしかったなぁ。


「ア……アンちゃん達がお客さんかい!?いきなりで悪いが匿ってくれ!このままじゃ殺されちまう!!頼む、助けてくれよ!何でもするからさ!!」



 ん?



 おっと……座っている俺の足に半泣きですがりついてきた男性。潤んだタレ目の下の頬と鼻は赤く染まっている。


 アルコールの匂いがツンと鼻を刺激した。


 なぁるほど、客が来てるってのに奥で酒をかっくらってグースカ寝ていたところを、カミさんにバレて叱られてるってワケね。オーケイオーケイ、いきさつは分かった。取っ組み合いの大喧嘩って言うより、一方的にやられて逃げてきたっぽいけど。



「汚い手で俺に触るな泥酔怠慢オヤジ」それは災難でしたね。俺たちが全力で守ってあげますから安心してください



「悪意が善意を追い出してセリフを乗っ取った!?そんな現象有り得んのかよ!!頼むよアンちゃん!後生だ!何でもするから!!」



 ん?



 おっと……そうこうしているうちに、奥からシャレにならないくらいの殺気が漂ってきた。


「コホホホホ!どうやらタイムリミットみたいですなぁパピ上!」


 アクラッチさんが絶望感を感じさせない絶望の報せを可愛らしい笑顔で告げた。


「ひいっ!もうここに隠れるのでしゅっ!!絶対バラしちゃダメなのら!!」


 店主さんは俺の足を押し退けて机の下に潜りこんだ。需要のない萌えキャラ。



 店主さんが隠れきった直後、漆黒のオーラに包まれた長身の女性らしきモノが、ぬるりと現れ出た。手には巨大な棍棒。



 って、なんで棍棒くんが!?



 本当の本当に終わり




……と終わらせるわけにもいかず、奥さんは調理器具とも清掃用具とも到底考えがたい、なんとまぁ飲食店とはミスマッチな一物を引きずりながら、ゾンビのようにゆっくりと店中を徘徊し始めた。よく聞いたら何かをブツブツと……



「ドコダ……コロス……」



 おいもうシザーマンも裸足で逃げ出すレベルの怖さなんだけど。目ぇ光ってるし、うなり声あげてるし。ミャーちゃんもビクビクしてるし。ターゲット、キミちゃうで。


 いや、アクラッチさん以外のそこにいる誰もが、その姿に確かに恐れおののいていた。


 しかしその中の誰よりもガタガタ震えている者が、机の下に息を潜めている。この卓上だけ震度パナいもん。


 地震を起こしている本人が机の下に潜っているだなんて……落語やな。


 てなわけで、これじゃあ自分の居場所を伝えているようなものでありまして、奥さんという名のハンターが反応してしまいました。一人で百人ハンターぐらいのプレッシャーを秘めてございます。



「ソコカァッ!!」



 奥さんが、持っていた棍棒を震源に向かってぶん投げる。


「あぶなっ!!」


 夫婦間の、棍棒の軌道上に自分の足があることに気付いた俺は、類いまれなる反射神経を駆使して間一髪で両足を思い切り上げ、それを避ける。


 これで障害物はなくなった。棍棒のゴールは狭い処刑場の中で四つん這いになっている旦那さんの大きな尻。そこに奥さんの投げた極太の棍棒が……。




「──────ゎんっ」




 ただ一言、子犬の遺言のようなか細い鳴き声が震源より発せられると、地震はあっけなく止まった。音響担当いないのにエコーかかって聞こえた。本当にエグいダメージを受けたときは、断末魔なんか出ないものなのである。


 どうやら、ホールインワンしたらしい。想像したくもない。股ぁ裂けるぞヘタしたら。BLOOD-Cだぞ。阿部さんも真っ青だ。


 安否が気になったので机の下を覗いてみる。そこには肛門を両手で押さえたままピクリとも動かない旦那さん。トゲ付いてないとはいえ、尻にぶっ刺さったんだんもんな。ドクロちゃんが弟子入りを願うほどの棍棒さばきだった。感服。


 大丈夫かな、逝去したかな?とりあえず心配なので声を掛けてみよう。



「店主さん……協力したんで依頼料」



「誰が払うかぁっ!!」



 存命でした。




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