二十八体目 ハイファンタジーに疲れれば修学旅行気分になればいいじゃないっ!
まだ早朝とはいえ、木々が頭上高くで複雑に結束し合い、薄暗く不気味な森。
だが結構使われているのかくっきりと獣道が出来ており、足場も平坦ゆえ、それほどの労力はいらない。イメルルとミーナリアを往復する人、わりと多いのかな。
「ホントにこの先に町があんのかねぇ?」
「なんだよ、もうバテたのかアマ公?トリ公も言ってたろーが!この先に……プラナリア?があるって!」
それはひょっとしてギャグで言っているのか!?
「ねえねえ!海があるってことは泳げるのかな!?宿見つけて荷物置いたら皆で泳ぎに行こうよ!」
「お前ハイファンタジーを修学旅行か何かと勘違いしてない?」
ヒカヤは引きこもりだが運動面のスペックは高い。泳げるし走れるし跳べるし。
宝の持ち腐れという言葉がこれほど似合う哺乳類も珍しい。体育祭とか出たらさぞかしオイシイ思いを出来るだろうに。
しかし、とにかく身体面のスペックをブクブク膨らませるもんだから、学力面はベッコンベッコンすぎてもう可哀想なんだけどね。
「およ、出口が見えてきたっちょ」
サバシルが指を差した先には、目を細めてしまうほどのまばゆい光が。暗いところに長くいたからまぶしく見えるだけかもだが。
そしてその光はヒカヤの瞳にも。
「イヤッフウウウウ!!海だ海だぁっ!!わくわくもんだぁっ!!ヒアウィーゴオオオオウ!!レッツパァァァリィィィィ!!」
あのアラレちゃんすら“ちょ、これはマジパネェっしょ”と言いそうな猛スピードで、ヒカヤは差し込む光の方へと、んちゃんちゃ駆け出していった。サラマンダーより、ずっとはやい!!
「森も終わりか……思ったより掛かったな。はてさてミーナリアとは一体どんな所なのやら。ウィース!WAWAWA忘れもの………ぬおわっ!!」
教室のドアを開けるかのように木々を掻き分けた先で見えた景色に、思わず大声を出してしまった。
緑の長いトンネルを抜けるとそこは南国であった。
青い空!白い砂浜!広大な海に光り輝く太陽!
そしてそして、朝っぱらから色とりどりの水着姿でビーチにてイチャイチャキャッキャウフフしているボーイズアンドガールズ!死ね!!
マジでハワイやらグアムやらに来た気分だコン。
にしても人が多すぎるだろ!うーん押しつぶされる……。
鳥女やセンナの言った通りだ。石を蹴ればお店に当たるくらいの間隔で、木造のレストランや防具屋、そして宿屋が、海岸沿いのそこかしこに立ち並んでいる。
イメルルを引き合いに出すようで申し訳ないが、今度は道行く人は全て幸福に満ち溢れた顔をしているな。
活気のある町だぁね。まぁイメルルも結果的に活気を取り戻したんですけどね!誰のおかげかは言いませんけど!
「ミーナリアは人やお店がたくさん集まって海でも遊べるスポットなんだね!すごーい!たーのしー!!」
あまりの繁栄ぶりにヒカヤも興奮してドッタンバッタン大騒ぎしている。
「おいおい、あんまり騒ぐなよヒカ公!よそ者のアタシらがヘタに悪目立ちするのは……」
刹那、ミャーちゃんの腹からグラードンの鳴き声のような音がした。
青春を謳歌していたリア充どもはピタリと止まり、視線が一斉に紅髪の少女に集まる。
「ぁ……ぅ……!」
やばたんピーナッツ!ミャーちゃんの顔が真っ赤だ!エルモみたいになってる!泣きそうだし!
一刻も早く救助を!!このままだったらエルモミャーちゃんが恥ずかしさのあまり荒んじゃう!スサミストリートになる!!
「あぁ、みなさん違うんすよ!!今のはこの子の腹の虫じゃなくてね!あの……空腹時にほら……グウッてなる、そう!いわば腹の虫ってやつでゴポヌスッ!!」
赤面したミャーちゃんのフルパワーエルボーが拙者の頭頂部に炸裂した。
走馬灯のようなものが見えた。
「ずっ……頭痛が!!頭痛がヘッドエイク!!」
「うっせぇ!!人をフォローする細胞死滅してんのかテメエは!いいからさっさとなんか食いに行くぞっ!おら、テメエら、も……ぐすっ……早く来っ……ふぇっ……う、うわあああん!!アマ公のばかぁぁぁぁっ!!」
依然、自らに視線が集まる辛い環境の中、涙目かつ涙声のミャーちゃんがついに耐えきれなくなり、号泣しながら一目散に走り出した。おそとはしってくるぅぅぅぅ!
その姿はあっという間に見えなくなった。
………お粗末っ!