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彼女が作れなければ造ればいいじゃないっ!  作者: 箒星 影
二章 リゾート地ミーナリア
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二十七体目 安否を知らせたければ郵便屋さんを使えばいいじゃないっ!


 イメルルを離れたアマネくんたちは、一風変わって人気のない草原を歩いておりました。


 心地よい朝の風が心地よい。あ、何か“頭痛が痛い”より酷い文章できちまった。てへぺろっ!


 そういえば“てへぺろ”っていうワードの発案者って声優の日笠さんなんだってね。もっとバブル世代とかに流行してたセリフかと思った。まぁ日笠さんもバブル世代の人って言っても差し支えな……おや?こんな時間に誰だろう。


 まぁとりあえず、イメルルの人たちにもらった沢山の元気を胸に、今日も一日がんばるぞい!プフッ!“ぞい”ってなに……!?


 デャハハハハ!環境破壊は気持ちいいゾイ!お前のそれもカラカゾーイ!?アイルネバービーハングリーアゲインゾイ!


 おっと、これ以上言うとどこぞの楼座さんに“そのゾイゾイ言うのをやめなさい!”って怒られそうだからやめとこ。


「兄さぁぁん、疲れたからおんぶしてぇぇぇ」


「アテクシも頼むっちょ、アマネ」


 まぁ、前途多難ですね。


「ふいい……つか、適当に出てきたはいいものの、次はどこに向かえばいいんだっぺ?」


「はぁ!?テメエ、行き先も決めずに出てきたのかよアマ公!」


 今さらだけど“アマ公”って聞くと“インター”を彷彿とさせるよね。


「あれだけ大腕振って出発したのに、さっそく路頭に迷うとか有り得ないわ!こんな役立たずを信用するなんて……あたしって、ほんとバカ」


 そこまで言うことないじゃん!さやかちゃんっ!


「ハーイまた始まりましたよ!!新しい仲間たちが、主役のアマネさんをイジメておどしてふざけて、おもしろい!?アーン!?抗議しまーす!ハイ今日も抗議するぞ!!抗議するぞ!今日も!!何がサバラ国じゃ!!お前らは!骨肉の争いより!サバラ国からのお引っ越しが先っ!!荷物まとめて出ていけ早く!!ハイひっこーし!!ひっこーし!!さっさとひっこーし!!シバくぞ!!はーやーく!!お引っ越し!!絶対早くお引っ越し!!私の勝ちよ!!」


「兄さん落ち着いて!罵倒スタイルが完全に河原さんだよ!うーん……でも確かに地図も看板もないのにどうすれば……」



「お困りのようッピヨね!」



 なんかたっけぇ女の子の声が空から聞こえた気がするが。また新キャラかよぉ。


 少し待っていると、遥か上空から凄い勢いで何か人型の物体が落ちてくる。簡単に言うなら“親方!空から女の子が!”状態。


 危険を感じた俺はヒカヤとミャーちゃんとサバシルに指示して“のうコメ”のオープニングを彷彿とさせる見事な倒立を促した。三人が綺麗に並んで足の裏を空に向けている。


「え?ちょ、なんピヨその陣形!!あっしは敵じゃないピヨ!!くっ、そんなもの華麗に避けて……」


「センナ、風」


 またしても俺の指示でセンナが剣を天高く伸ばすと、冷たい突風が吹き荒れた。


「ピピピッ!バランスが……ちょ待って!嫌だ!あっしは……ピヨオオオオオオ!!」


 大地にそびえ立つ三本の柱。そこに勢いよく仰向けで落ちてきた謎の物体。



 これぞアマネくん奥義“マリーナベイ・サンズ”!!



「ヒ゛ヨ゛オ゛ッ……!」



 写真に納めておきたい絶景も束の間、骨がボッキリ折れる嫌な音がした。


 上に乗ってサバ折りになっていたのは、やはり人間ではなさそうだった。


 確かに見た目はまだ年端もいかない、可愛らしい女の子だ。黄色のセミロングヘアーの上に深緑色の帽子を被っており、腰には小さめのウエストポーチ。これまた深緑色。


 だが、人間要素はここまで。背中には白鳥のような白いフワフワな羽根が生えており、顔からは黄色いくちばしが申し訳程度に伸びていた。


 なんだこいつ。


 確認を取ろうにも、どうやら背骨をやっちまったそうで、白目をむいて口をアングリと開け、ダラリンコと気絶している。


「さすがに少しやりすぎたんじゃないのアマネ!大丈夫なのこの子!?」


「死んだんじゃないのぉ~?」


「そんな軽々しく……ちょっとあなた、平気!?」


 センナが心配に顔色を悪くしている。


 っていうかこの子たち、こういうときの素直さとチームワークえげつないのな。躊躇なかったもん。


「……………はうあピヨッ!!」


「いや“はうあっ!!”に語尾はいらんだろさすがに」


 起きたか。えがったえがった、このまま死なれたらさすがに後味悪かったもんな。映画の“ミスト”ほどじゃねぇけど。


 鳥女が起き上がりバッサバッサと飛び回ると、土台の三人もやれやれと言った感じで逆立ちを解除する。


「いきなり何すんだピヨ!!ピヨピヨ!あっしわるい鳥じゃないピヨ!」


「から揚げ、焼鳥、チキン南蛮、照り焼きチキン、チキンナゲット、鶏そぼろ、親子丼、チキンカレー、チキンカツ」


「やめて!鳥が主役を担う料理を思い付く限り列挙していくのやめて!!あっしはただのしがない郵便屋ピヨ!」


「郵便屋ぁ?」


 鳥でなおかつ郵便屋ってポジションは“どうぶつの森”のぺりお様が遥か昔にいただいちゃってるんだけど。“街へ行こうよどうぶつの森”ってさ、アレ別にぺりみとぺりこで片方ずつ役場の接客やりゃよくね?


「そうピヨ!聞いて驚くことなかれピヨ!あっしは“世界をかける郵便屋”なんピヨ!」


「言ってること分かんないからとりあえず丸焼きになってくれるか?話はそれからだ」


「いやそれまでピヨ!!食われて終わる未来しか見えないピヨ!ぐぬぬ……どこまでもあっしのことをコケにしおってピヨ……!」


 キャラ設定が露骨すぎるんだよなぁ。今日び一人称が“あっし”って。


 おじゃる丸のキスケと被らないように“~ッピ”っていう語尾を避けたのも減点対象だよねぇ。


 羽根をバサバサと動かしてイラつきを表現する鳥女。


「わーったわーった。とりあえず話したいこと全部話してみろでゲソ。そっから決めるよ……焼くか揚げるか煮るか漬けるか」


「選択肢がオール無慈悲!!んで“漬ける”って何事ピヨ!!料理界に一石を投じる斬新なレシピ禁止!!」


 うっせえなコイツ。声が笛みたいなんだよな。耳キンキンする。


「ピヨン……よく聞くピヨ、あっしは……魔物ピヨッ!!」


 総攻撃。


「ギャアアアアアア!!アニメのオープニングのサビでよく見る一人ずつスタイリッシュに攻撃繰り出していくアレで襲いかかってきたピヨオオオオ!!」


「“ピヨン……”が人間でいう“コホン……”であると予測されたことが俺たちの攻撃を引き起こす原因になりましたね」


「そこ!?魔物のくだりでなく!?ぐぬぬ……話を聞けピヨ!あっしは魔物と人間のハーフなんピヨ!!」


 デデドン!と効果音がバックに入りそうな高らかな声で言い放った鳥女。攻撃なんだかんだで全部避けやがったコイツ。


「ハーフだぁ?アタシも色んな魔物と戦ってきたが、そんな奴と会ったこたぁねえぞ?」


 ミャーちゃんが槍を構えながら高圧的に言った。


 串刺しになるのを恐れた鳥女は両手を上に上げて無抵抗のポーズをとった。


「落ち着くピヨ!ま、まぁその辺はおいおい話すとして……あっしは運び屋ピーちゃんという二つ名を持つピヨ!」


 一つ名の方もまだ知らないんだけどな。


「運び屋で郵便屋ってこたぁ……世界中の色んな人にお手紙を配達してるのかね君は?」


「そうピヨ!オマエ頭軽そうなのに理解力はあるピヨな!」


 鳥のくせに“鳥頭”って単語知らないのこの人?


「だが“世界中の”という部分は若干の訂正が必要ピヨ!あっしの活動範囲はこの世界だけじゃない……」


 鳥女が俺の所までバッサバッサと飛んできて囁く。



「オマエの世界にも及ぶピヨ」



 一瞬だけゾクリと寒気がして、かつ理解が遅れたのは、羽根のくすぐったさに意識が持っていかれたという理由だけではないはず。


「鳥女……お前……」


「ピッピッピ……やっとあっしの話をまともに聞いてくれそうっピヨね!オマエ、異世界から来たんピヨ?そう、あっしは“世界をかける郵便屋”!とある特殊なルートでこことは別世界に行くことなど造作もないことピヨ!」


 これまたドえらい奴が現れたな。


 この世界と俺の世界を行き来できるってことか?そんなバカなことが……。


「って、落ち着いて聞いてる場合じゃないでしょアマネ!あんたの世界に魔物が侵入できるってことは……」


 センナの一言でハッと気付いた。


「ああ、やはりコイツは生かしてはおけないやな」


 グンノルさんの剣をスラリと引き抜く。幼女斬ると色んな人から苦情が来そうだが、やむを得ないな。


 んで何でこいつヒヨコじゃないのにピヨピヨ言ってんの?


「待つピヨ待つピヨ!言った通り、あっしは魔物と人間のハーフ!人の血もしっかり通ってるピヨ!人間に危害を加えるようなことは絶対にしないピヨ!それにご覧の通りあっしは武器になるようなものは持ってないピヨ!オマエの世界をどうこうできるほどの力は持ってないピヨ!」


「じゃあ何の目的で俺らに近付いたっちょ?」


「あ、ついにアテクシの語尾まで盗まれたっちょ」


「オマエ、家族とか友達に手紙とか出したくないピヨ?」


 思ってもみない発言。


 いやまぁ確かに何の別れも告げずにこんな世界に来ちまったから、心残りはずっとあったけど……。


「お父さんとお母さんに、手紙が出せるの!?」


 ヒカヤが棚ぼたな報せを耳にし、嬉しそうに鳥女に飛びかかり、叫びぎみに聞いた。


「まぁ、あっしも商売人ピヨ。お金をしっかり払ってもらえればの話ピヨ」


 なんつう斬新なシステム。異世界から生存報告が出せるなんて。


「兄さん!お願いしようよ!」


「待て待て焦るな妹よ。にわかには信じがたいだろ。この鳥女には不審な点が多すぎる」


「そこまで言うなら百聞は一見にしかずピヨ!今ならなんと、無料お試しサービスというものを実施しているピヨ!よかったらいかがピヨ?」


 ドモホルンリンクルか。


「まぁ、金が掛からないならやってみる価値はあるか。父さんと母さんも心配しまくってるだろうし」


「“異世界にいる”なんて報告を聞いた方が心配するかもだけどね……あはは……」


「紙とペンは無料ピヨ!」


 とりあえず俺は筆無精なので、二人への手紙はヒカヤに任せることに。


「わーい!絵も描いちゃおっ!」


 にしてもなんちゅうシュールな事態であろうか。今時の異世界は元の世界と文通まで出来るのか。



 かがくの ちからって すげー!



 いやはや本当にまいっちんぐマチコ先生やな。便利な時代になったもんだ。


 だがヒカヤの言う通りだ。こんな風に異世界から“わたしたちは元気です。”なんて文と一緒に、元気に笑って手を繋いでる二頭身の俺たち五人の絵が描かれた手紙をよこされたら、俺が親ならすぐに精神科の予約を入れる。止めはしないけど。


 てか手紙がまんま“がっこうぐらし!”なんだけど大丈夫かな?窓割れてね?


「終わったよ!」


「うむ、では早速届けてくるピヨ!もし返事がもらえるようならもらってきてやるピヨ!」


 まぁ、あまり期待はしないでおこう。


「おいトリ公!!」


 ミャーちゃんルールだとトリ公になるのか。ピーちゃんなんだからピー公でいいのに。俺も鳥女って呼んでるけど。


 つかアケボノは普通にシルマって呼んでたよね?いや、もうこれ以上のあら探しはやめよう。


「テメエ、こっから一番近い町を知ってるか?イメルル以外で」


「ああ!そうそう!それも踏まえて話しかけたんだったピヨ!この先に森があるピヨ!そんなに長くないし、魔物もすでに除去されてるからご安心をピヨ!そこを抜けたらミーナリアという町に着くピヨ!海に面した楽しいリゾート地ピヨ!」


「ミーナリア……聞いたことあるわ。宿泊地もお店も多いしイメルル以上に栄えているとか。中には格安の宿もあるらしいから、確かに野宿回避にはもってこいね」


 ほほう、それは楽しそうだ。


「んじゃ、とりあえずはそこに向かってみるかね。もう用なしだチキン女。早く手紙届けてこいよ生臭ぇグズが殺すぞ」


「有益な情報教えた相手への文言と信じたくない!!夢なら覚めて!!ピピッ、でも仕事はまっとうしなければならない……働く女は理不尽ピヨ。思い起こせば十数年前、鳥のお父さんと人間のお母さんの間に生まれたあっしは、それはそれは過酷な人生を……」


「ジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカンジンギスカン」


「うわああ!!わ、分かったピヨ!!さっさと行くから鶏肉の料理名を連呼するのやめ…………それヒツジ!!くっそぉ!覚えてろピヨオオオオ!!」


 大丈夫だ。あの捨てゼリフを吐く奴はたいてい弱い。


 またイジりがいのあるやつに出会ってしまったな。



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