二十五体目 酔っ払いが怖ければ他の人に任せればいいじゃないっ!
「アマネくーん!」
シリカさんの声。
「ややっ、皆さんお揃いで。何用ですかや?」
シリカさんご一行にヒカヤご一行。さっき別れた二つのグループが全員一列に並んで軽快な指パッチンをしながら歩いてきた。
ゆめの町ノビタランドか!!大山さん版ドラえもんの記念すべき第一話の!!
「もうお祭りも充分に楽しんだし、家に帰って祝勝会しましょ!」
「祝勝会?」
「そ!無事にヤンヤンとヒカヤちゃんを取り返せたじゃない?このメンバーで!だからお祝いするの!これだけの人数分の料理を作るのにはちょっと時間はかかるかもだけど、みんな少しずつ何か食べてたみたいだし、お利口に待ってられるでしょ?」
確かに、今日の熾烈な戦いを最後まで成し遂げたメンバーは勢揃いしている。
もうこの全員で何かをすることはないだろう。
「分かりました、帰りましょっか」
「あの……あたしもご一緒してよろしいのでしょうか?」
センナがおずおずと確認。
「あのねセンナちゃん……敵だと思ってる子の傷を治すほど、わたくしはお人好しじゃないわ。確かに元はシルマ王子の味方だったかもしれない。でも今は違う。あなたも被害者の一人。そしてわたくしに言わせれば、立派なヤンヤンのお友だち。ヤンヤンのお友だちってことはわたくしの家族みたいなものよ!変な遠慮はいらないから、思いっきり楽しんでいきなさい!」
センナの瞳がジワリと潤った。
「ありがとう……ございます……シリカさん……!」
身寄りのなくなったセンナにとって、この言葉はどれくらい嬉しかっただろうか。
シリカさんカッコいいなぁ。機会があれば口説き方とか教えてもらおうかな。
祝勝会は、たぶん今までの俺の人生で一番楽しかったと思う。
テーブルに所狭しと並べられたシリカさんの絶品の料理の数々に全員が舌鼓を打った。多くの材料を安く売ってもらえたそうな。今回の戦果すごいな。
グンノルさんとジョンとジャックは酒を手に持ちドンチャンドンチャン。どさくさにシリカさんも飲みまくって大暴れしちゃってな。
俺は間違えてその酒を飲んでしまったミャーちゃんとサバシルに絡まれつつも、センナとつけ坊、そしてヒカヤの相手もしなければならず。
全員のテンションは最高潮になり、濃密な時間はあっという間に過ぎていった。
数時間後、皆が疲れて次々に眠りについてゆく頃合いで、俺は家の近くで夜風に当たっていた。
一つの足音が近付いてくる。
「……つけ坊か」
「えへへ、正解です」
二人でその場に腰を降ろし、空を見上げる。
俺の世界じゃ決して見られないような美しい星空。ついつい吸い込まれそうになってしまう。
「皆は寝ちまったか?」
「お母さんとセンナさんが起きてます。完全に酔っ払ったお母さんの相手をセンナさんに任せて、飛び出してきてしまいました!」
「やめてさしあげろ。センナは武井壮じゃねぇんだぞ。手がつけられなくなった猛獣の対処法なんか心得てねぇだろ」
クスクスと笑うつけ坊。どこか上の空な笑顔だった。
「行っちゃうん……ですよね」
唐突な切り出しに面食らう。
「あぁ……明日の朝に、な。シリカさんとグンノルさんには、さっき話した」
「そう、ですか……そうですよね!もともとアマネさんは、ここの世界の人じゃないですもんね!こんなところでワイワイ暮らしていても何にもなりませんから!」
「お前は……来ないのか?センナもミャーちゃんも、サバシルだって一緒に来るんだぞ?」
つけ坊は視線を空から地面へ、ゆっくりと移した。それから俺の方を見てブンブンと手を振る。
「いえいえ!私、魔法も何も使えませんから!邪魔なだけです!」
「せっかく……友達が出来たんだぞ?ヒカヤも喜んでた。はじめてちゃんと友達って言える奴を見付けられたんだからな」
「それは、私も寂しいですよ。でも……やっぱり私はお父さんとお母さんと一緒にいたいです!これ以上、二人に心配はかけられませんから!」
「……そうかい。じゃあムリには誘えねぇわな」
沈黙。と言っても気まずさはなかった。上手く形容できないが、なんというか、心地のよい沈黙だった。
「まだ昨日のこと……なんだよな。お前と初めて会ったのって」
「……ですね。色々なことがありすぎて、もう何年も一緒みたいな感じがします」
「いやそれは流石に盛っただろ」
「何でそこはキッパリ否定するんですか!!比喩ですよ!!」
もしつけ坊に出会っていなかったら、俺はどうなっていただろう?
いきなり屋台のオッサンに石窯へとブチ込まれ、やって来た世界。そこで孤立無援の文無し生活だなんて、絶対にムリ。断言できる。
だがコイツに声を掛けられて、ヒカヤを見付けられて、俺は“ヒカヤと元の世界に帰る”という、確かなる目標を抱くことが出来た。
つけ坊の優しさと勇気が、俺に希望を与えてくれた。
「“邪魔なだけ”だと?アホか。お前は俺という人間を絶望から救い出した。俺という人間に光をくれた」
「アマネさん……」
「あんがとよ、つけ坊。俺とヒカヤは絶対に元の世界に帰るからさ。遠くから応援しててくれな」
頭を撫でようと手を伸ばしたが、そこにつけ坊の姿はなかった。
ダッシュで家の中へ駆け込む金髪の少女の姿を、アマネくんアイはしっかりと収めた。
「ったく………最後なんだから泣きっ面くらい拝ませてくれよ。どこまでもたくましい奴だ。可愛いげねぇの」




