二十四体目 仲間にしてほしければしつこく追いかければいいじゃないっ!
って、ワイ金持ってへんやん!!
くそぅ、くそぅ!あまりにチヤホヤされているから自分が異世界の人間であることを忘れていた!
ミャーちゃんが俺をハブるから悪いんだ!
俺もヒカヤたちと一緒にいれば楽しい時を過ごせて、しかも食料にもありつけたのに!
ミャーリタス、あとで、なかす。
いいじゃん!ハーレムでもいいじゃん!
俺妹とかはがないとかクラナドとか俺ガイルとか!女キャラが男キャラより圧倒的に多いハーレム状態の作品は好かれる風潮があるじゃん!
そんでもってそういったハーレムアニメの主人公である男は不思議と嫌われないっ!!
伊藤誠?何それ死ね?
とにかく!求めてるんだよ皆!そういうウハウハよりどりみどり展開を!
何で祭りというフラグガン立て胸キュン激アツイベントの最中、俺は一人でウロチョロしてるんだよ!
しかも金もないし!!
「ぐああああカワイイ女の子たちに引っ張りだこにされながら“おいおいそんなに群がるな!俺はおみこしかっての!ワッショイワッショイ!”とかスカしながら言って女の子に“アマネくんおみこし、略してアマみこしだね!ワッショイワッショイ!”って返されたいよぉぉぉ!!カワイイ子たち来てくれよ!!俺をアマみこしにしてくれよぉぉぉ!!」
「人様の前でなに言ってんのよ、バカ」
冷凍マグロになった気分だった。
真後ろにセンナ。
「失礼だが、俺をバカと言った根拠を聞かせてくれ」
「全てよ」
あ、こいつ静かに突っ込むタイプだ。一言で確実にねじふせるタイプだ。
「あんたが女の子に来てほしそうだったから、仕方なく声をかけてあげたのよ?感謝なさい」
「まろが望んだのは“めんこい”おなごじゃが?はて、どこにおるのかや?あ、きょろりきょろりと」
歌舞伎のような動きで辺りをオーバーに見回す俺の喉元にセンナの鋭い切っ先。
「嘘です嘘です可愛いです美しいです!!ダイヤモンドあるでしょ?それに金箔を被せるでしょ?んで汚水に浸すでしょ?最後にダイヤモンドと金箔を取り除いて残ったものがセンナ=リフルソフィアッ!!アッ!!アッ!!アッ!!アッ!!」
往復パンチ。怒濤の往復パンチ。
女の子だろ?ならビンタしてくれよ。なんかこの言い方は語弊があるけど。
「ふんっ……アマネのバカ、もう知らない!あんたみたいな奴は独り身がお似合いよ!あーあ、あんたお金持ってなさそうだったから、お礼もかねて仕方なく何か買ってあげようと思ったのになー」
「………汚水とか言ってマジすんませんでした」
世界一ワンダフルな土下座。そんなメイみたいに。
結局、焼き鳥のようなものを一本ずつ買い、階段のような場所に座って二人で並んで食べることにした。
「お礼が鳥カワ串一本たぁ、えらく太っ腹なことでんな」
「皮肉のつもりだろうけど、あんなに失礼なこと言ったんだから当然でしょ」
「おっ、今の皮肉って鳥カワと掛けてんの?センナおねえちゃんオヤジみたーい!きゃはははは!!きゃははははは!!」
「カタカゲアマネ惨殺熱望症の患者になっていい?」
病名に名指しされることってあります?
とりあえず世界一マーベラスな土下座しとくか。
「まっ、冗談はさておき……あんたには、それなりに感謝してる。あんたの言った通り、あのままシルマの下で腐ったような生き方をしていたら、お父さんとお母さんに顔向けできなかったと思う。だから……ありがと」
センナは吐き捨てるように言った。
何で!?
「呼び捨てにすることにしたんだな。“様”がイヤにしても、一応アイツはこの国の王子なんだろ?」
「ああ、前から言おう言おうと思ってたけどさ。シルマは別に王子じゃないわよ」
「ほえ?」
「“白馬の王子様”っていうでしょ?それに憧れて文字通り白馬に乗って王子を名乗っていただけ。城まで建てさせてね。よってシルマはサバラ国王の息子でも何でもない。国王様も、王子様も、イメルルとは別の所で元気にやってるわよ」
なるほど、どうりで祭りなんか催せるわけだ。マジの王子が殺されたのにドンチャン騒ぎなんかしたら、オヤジの国王様が黙ってないだろう。
不謹慎ながら、ちょっとだけ肩の荷が降りた気がした。どうにか国家問題にはならずに済んだようだ。
国家問題になるとしてもヒカヤ泣かせるような奴はどのみちクレーターにしてたけど。
「もういいトシだったんだから、さっさとあんなことやめちゃえば良かったのに。自業自得だわ」
「え?俺と同じぐらいじゃないの?」
「32よ。あたしが小さい頃から元気に魔物操ってたのよ?それぐらいいっててもおかしくないでしょ?」
リアルな年齢に驚き鶏肉が喉に詰まりそうになる。そんないってたのかアケボノ。なんなら俺よりちょっと下ぐらいの覚悟もしてたのにアケボノ。
「なぁ、センナ」
串に刺さっていた肉を綺麗に食べ終わったセンナが、返事もせずに俺の方を見た。
「何でお前はあのとき……礼を言ったんだ?」
「あのときって……シルマの死に際のとき?」
「ああ。ヒカヤもすげぇ元気に“ありがとうございました!”って言ってたじゃん?まぁアイツは結果的には身ぐるみひっぺがされただけで直接的な身的被害は受けてねぇからアレだけどさ、お前はその、違うだろ?全ての事実が分かって、誰よりもアケボノを憎んでいたはずだ。なのに……」
センナは綺麗になった串をくわえながら、どこか一点を心なく見つめ、やがてスッと立ち上がった。
「……あんたにも、そのうち分かるわよ」
服についた砂ぼこりをパンパンと払い、歩き出したセンナ。
「なんじゃそら。なんじゃもんじゃにんじゃくんやで。すぐそうやってお茶濁すんだからぁ。にごっしーって呼んじゃうぞ。にぼっしーと仲良くなれるぞ。良かったな」
「それより」
まだ鳥カワ串をお楽しみ中の俺に、グググと詰め寄る銀髪の美女。
「なんだよ、あげないよ?」
「あんたさ……これからどうする予定なの?」
「鈴木このみが主題歌のアニメって割りとマジでハズレがないと思う」
「Q&Aを破綻させないで。だから……ずっとここに滞在するつもりじゃ、ないん……でしょ?」
あぁ、そのことか。ややこしいから勘違いしちゃったポン。
「ミャーちゃんたちにも言ったが、明日にはイメルルを出発するつもりだ。ここにい続けても元の世界にゃ帰れないと思うんよ。現時点で俺との同伴が確定してんのはヒカヤとミャーちゃん、あとサバシルだな」
「ふーん………そうなんだ……」
センナはモゴモゴと何かを言いたそうにしている。
「まぁ、あの二人も強いけど、直接攻撃系?なのよね。あんたも基本的には剣しか使えないし。魔法を使える人がいた方がいいんじゃないかしら……あくまで、あたしの予想だけど」
ははーん。
「そっか、そうだよね!アドバイスありがとう!さっそく“数種類の属性の魔法”を自在に使えて“勝利がほぼ確定していても床に仕掛けられたトラップにまでしっかりと気を配れる”ような、それでいて“自分の気持ちをスッパリ言える”頼もしい仲間を探してみるよ!じゃあ、お前も達者で!宿題やったか?お風呂はいれよ!歯ぁ磨けよ!風邪引くなよ!また来週!」
「うぐっ……待……」
俺は回れ左をしてツッタカツッタカとセンナから離れていく。
すぐ後ろから俺と同じペースの足音が聞こえる。
振り向くとセンナがモジモジしてあちらこちらを向いている。
「なんですのん?何でついて来ますのん?べとべとさんのマネですのん?」
「いやっ、だから……遠距離攻撃できる人……いればさ、戦局も有利になる、でしょ?あたし、氷魔法とかで、離れた敵も、ほら、一撃で……」
「いやいや、氷魔法だけじゃ心もとないだろJK。もっとシリカさんみたいに炎と治癒、みたいな、少なくとも二種類以上は使えた方が……あ、そうだ、シリカさんに頼んじゃおっかなーっと」
そしてまたしてもアマネくんの踵返しが炸裂。早足でセンナの元を去る。
いつまで経っても足音は二つ。
いきなりピタリと足を止めてみると、センナの顔が俺の後頭部に激突した。鈍い音。
「ぎゃふっ!きゅ、急に止まらないでよ!」
鼻を押さえながら文句をふっかけてくる。
「お前さ……ホンッッットに素直じゃねぇよな」
「う……うるさいっ!行くんなら早く行きなさいよ!」
はあ、と一つ、大袈裟に溜め息をついてみせる。行かせてくれねぇから困ってるんだけどな。
「わーったよ。“居場所作ってやる”って約束したもんな。良かったらお前も一緒に来るか、センナ?お前の実力は折り紙つきだ。この先、大きな力になる」
ホントはセンナの口から聞きたかったんだが、仕方ないので救いの手を差しのべてみることに。
「ええの!?」
センナの顔がぱあっと明るくなった。
あ?
しかしそれは一瞬で、すぐに通常運転のツンケンした顔に戻った。表情筋、ブラック企業にでも勤めてんのか?酷使されすぎだろ。
「あっ………ふ、ふんっ!あたしがいないとすぐに全滅しちゃいそうなパーティーだからね!せいぜい働いてやるわよ!」
「今のは建前、本音はこう……“ヤッターー!友達が出来たでごわす!センナちゃんうれぴーー!マンモスうれぴーー!!ツルン!あぁっ、嬉しすぎてハンドクリームに気付かなかったでございまーす!!ああん!!また黒星ついちゃうぅぅ!!らめえええええ!!”」
顔をグワシッと掴まれる。
「白星に塗り替えてあげましょうか?今この場で」
「ぶんまへん、うそでしゅ。これからよろしくおなしゃすぅ」
これで五人か。いいね、男女比的に完全にハーレムが出来つつある。
こりゃヒカヤの手を借りることなく彼女できちゃうかぁ!?にょほほほほ!
つか、何だろう。
一瞬おかしかったよね、コイツ。
 




