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二十二体目 聞いていなければもう一回言ってもらえばいいじゃないっ!

 アケボノに捕らえられていた人たちは皆、無事に救出された。


 アケボノが魔物を従えていた、その驚くべき事実は飛ぶように広まっていったそうな。


 城を出て町に帰った俺たちを待っていたのは、イメルルの人々からの手厚い歓迎だった。


 貧困にあえいでいたイメルルの民たちは、魔物問題がひとまずは片付いたことで、揃って生きる気力を取り戻した様子だった。えがったえがった。



 その夜、イメルル全体で俺たちを主役とした大規模な祭りが執り行われた。


「おやおや。こいつはまた大層な騒ぎになっちまったもんですな。すっかり英雄扱いじゃねぇの。でも、まあ、とりあえずは一件落着ってとこかね」


 俺はヒカヤとつけ坊と三人でお祭り会場を歩き回っていた。出店が立ち並び、どこを見てもド派手できらびやかな光景。目がチカチカする。


「お前らにもずいぶんと怖い思いさせちまったな」


 俺は二人の少女の小さな頭をワシワシと撫でてやる。


「本当だよ!燃やされてるっていうのに平然としていて……シリカさんに治療してもらったときに傷と一緒に服も元に戻ったからいいものの、あのままだったらどうするつもりだったの!?替えの服もないのにって、すごい怖かったんだから!」


「服!?一番最初に挙げる恐怖ポイント、俺の服!?」


 ヒカヤがクスクスと笑っている。


「ふふっ……冗談だよ!そりゃ裸にされてシルマ王子が襲いかかってきたときは本当に怖かったけど……他は全然!だって兄さんなら絶対に助けに来てくれると思ってたもん!」


「簡単に言ってくれちゃってんじゃねぇよバカ妹。何回死にかけたと思ってんだこのこの!!」


「あいたたたた!!耳を四つ折りにしないで!引っ張ればいいじゃんいっそ!!何で毎回そんなにトリッキーなの!!」


 言動はこんな感じだが、俺はひたすらに嬉しかった。ヒカヤに頼られていたこと。そのヒカヤを無事に救い出せたこと。またこうしてヒカヤとふざけられること。


 ある程度、ヒカヤとのいつもの絡みもできたので、ここで一つ、どうしても言っておきたいことがある。



「お前ここ最近…………影薄すぎだろぉぉぉぉぉい!!」



 急に指を差されたつけ坊がビクッとした。


「うぇっ!?しっ……仕方ないじゃないですか!!城に着いてすぐに変な薬で気を失って、気が付いたらアマネさんがおぞましい顔でシルマ王子をタコ殴りにしてるんですよ!お父さんとお母さんもいるし!存在感出せるわけないでしょ、あんなカオスな境遇で!!逆によくあの場面で“ア、アマネさん……?”って喋れましたよ私!むしろ褒めてほしいくらいですよ!」


 つけ坊の言うことを聞き流していると、その綺麗な瞳から涙が流れた。


「本当に……怖かったんですから……バカぁ……!!」


 胸がキュッと痛んだ。


 大人びているけど、つけ坊もまだ14歳なんだ。そんな子がいきなり誘拐まがいなことをされて、檻に入れられて暗い顔をしたボロボロの女の人たちを見て、自分もこうなるのではないかと思って……どれだけ怖かったのか。理解しようとしてもしきれない。


「……ごめんな、つけ坊。もう大丈夫だ。悪かったな……この世界に来てから、お前の言うこと結構な頻度で聞き流して」


「いやそれ今詫びるべき内容じゃないで……聞き流してたんですか!?結構な頻度で!?」


 つけ坊の涙が一瞬にして収まりました。てじな~にゃ。



「まったく……娘を泣かせるとは、つくづくとんでもない男だなぁ、アマネくんは!」


 早くも酒に酔いつぶれたグンノルさんに肩を貸すシリカさん、それにジョンとジャックが近寄ってきた。


「なはははは……早くも出来上がってますねグンノルさん。にしてもお二人の実力には驚きましたよ。メチャクチャ強かったじゃないですか!」


「ブハハハハヒッ!!娘のためなら何とだって戦ってみせるさ!魔王でも何でも掛かってこーい!ブハハハハヒッ!!」


「もうっ、威勢のいいこと言って……元ドロボウ界のレジェンドのくせして!」


 上機嫌なグンノルさんに呆れ返るシリカさん。


「そうそう、グンノルさんがドロボウ出身だったってのも驚きっすよ!まさか盗みだなんてねぇ!」


 チーム名のセンスは盗まれた側っぽいけど。


「ある日ひったくりをした女性があまりに美しすぎてな!一目惚れしてしまったのさ!それでNSM総長は引退!ドロボウからはキレイサッパリ足を洗ったわけだ!ブハハハハヒッ!!」


「その“美しすぎた女性”ってのは……」


 俺が視線を移した時には、シリカさんはすでに顔を赤らめてそっぽを向いていた。


 真っ赤なシリカさんを見ているとついおちょくってみたい衝動に駆られる。


「なるほど、天下の大ドロボウであったグンノルさんは、シリカさんにハートを盗まれてしまったと」


「こ、こらアマネくん!大人をからかわないの!」


「グンノルさん、シリカは大変なものを盗んでいきました……あなたの心です」


 構わず続ける。気分は男子中学生。



「もうっ……そんなに茶化されたら、恥ずかしくて顔から火が出ちゃボオオオオオオオ!!」



 シリカさんの顔から火が出た。



 シリカさんの顔から火が出た?



 シリカさんの顔から火が出た!?



「だぁっちいいいいぃぃぃぃぃ!!」



 それが俺の尻に勢いよく引火した。


「ざまあみなさい!わたくしをからかった罰よ!わたくしレベルになると、体のどこからでも炎が出せるんだから!」


「あっちゃちゃちゃ!!いや何この一風変わった新しい攻撃!!慣用句を現実化する人がどこにいるってんですか!!早く火ぃ止めてぇぇぇぇ!!アルシンドにナッチャウヨ~!頭じゃないけど!」


 俺は昭和のギャグ漫画のように尻に炎を宿してピョンコピョンコ跳び跳ねる。何だろう、この懐かしいノリ。


 シリカさんをイジりの標的にしてはならない(戒め)。


「だはははははは!!アマネ面白ぇ!!」


「右に同じくぅぅ!!」


 ジョンとジャックが俺を見て大笑いしている。


「笑ってねぇで助けろ!んで笑うぐらいちゃんとしろよジャック!!くそっ、こうなりゃ……卍解!!“尻伝染焦熱地獄おしりとおしりでおしりあい”!!」


「ギャアアア!!漢字のくだらなさもさることながらルビが完全におしりかじり虫じゃねぇかぁ!!卍解ナメんなよテメエ!!どわっちいいいい!」


 ジョンとジャックの尻にも炎をお裾分けしたため、三人並んで無様にピョンピョンしている状態。


 皆が笑ってる。


 一応この祭りの主役なんですけど、俺たち。



「ていうかさ、ジョンとジャック……お前らにもその、何だかんだ世話になったよな。元は俺への仕返しに来たってのに」


 やがて火が消えた時、俺は藪から棒に二人に切り出した。


「ああん!?何だよ藪から棒に切り出しやがって!」


 表現がカブった!


「まぁ何だ、その……あんがとな。お前らいなかったら、マジでヤバかったわ」


 言いにくかったが、本当のことだ。しっかりと感謝の言葉を伝える。


 二人はさすがに照れくさくなったようで、頬をポリポリと掻いた。


「バカたれ。礼なんて良いんだよ。確かに当初の目的とは違くなっちまったが……お前は偶然にも、シルマに恨みを持ってた、俺たちの同志だった。手助けした理由なんざ、それで充分だろ」


 ここで俺は、センナに言われたことを思い出していた。



『協力した礼として金品を根こそぎ奪われるかもしれない。これを機に味をしめたアイツらによって、あらゆる場面で利用されるかもしれない。利用するだけ利用して、役立たずと判断されれば即座に殺されるかもしれない。そんな可能性を全て考慮して、あんたは奴らと手を結んだの?』



 もはや、二人に対する疑念は全くなかった。


 でも……一応確認だけ、最後にしておくことにした。


「あの………さ」


「あ?今度はなんだよアマネ?」


「その……対価みたいなの、いらないのか?」


 それを聞いた途端、ジョンは真剣な顔になった。怒っているようにさえ見えた。


「確かにお前らはシルマに個人的な恨みがあったかもしれない。でも、俺はそれ以前にお前らを倒してる……わけじゃん?」


 ジョンは頷きもせずに黙って話を聞いている。


「そんな俺に協力してくれて、ヒカヤとつけ坊を助けてくれたわけだけどさ。でも結局、お前らには何の見返りもなかっただろ?それでいいのか?苦労に見合う釣果もなくて、ドロボウのお前らはそれで本当に満足なのか?金品が欲しいとか、苦労の引き換えに俺のことも色々と利用するとか、そんな望みは……」


「アマネ」


 ジョンは俺の顔を思いきりぶん殴った。


「っつ……何すんだよバカ!」



「バカはテメエだ!!いいか、よく聞け!!俺たちはシルマの野郎の下で、クソみてぇな生活を送ってきた!俺たちを踏みにじり、のうのうと暮らしてやがったシルマに、いつか痛い目を見せてやろうと、ずっとずっと心に決めてきた!!」


「ジョン……」


 ジョンの大声に、周りの人たちがゾロゾロと集まってくる。だがジョンはそんなものは意に介さずに続ける。


「でも出来なかった!!勇気が出なかったんだよ!!俺だけじゃない!絶対的な力を持つシルマに不満を抱きつつも、誰も口出ししようとする奴はいなかった!!でも俺は、何もできない自分が悔しくて悔しくて、頭が変になりそうだった!!」


 何も、言い返せなかった。


「そこにテメエが現れた!!誰も逆らえなかったシルマをぶん殴ると豪語する、呆れるほどの大バカ野郎がな!!一生に一度のチャンスが回ってきたと思った!たとえ死ぬとしても、今までの情けない俺のままで息絶えるよりかはよっぽといいと、そう思った!!」


 ジョンの剣幕に、周りに見物人がゾロゾロと集まってきた。だがそんなことは意に介さず、ジョンは続ける。


「見返りなんていらねぇ!!俺も!ジャックも!命を捨てる覚悟でテメエと一緒に戦うことを心に誓った!それだけで充分なんだよ!それが俺たちの望みなんだよ!!金も何もいらねぇ!ましてや利用なんて、天地がひっくり返っても有り得ねぇ!俺たちゃテメエの味方だ!分かったら二度とそんなくだらねえこと言うんじゃねぇぞ!!」


「ジョン……悪かった」


 ジョンが全て話し終えた頃、俺は簡潔に謝罪をした。


「へっ……いいんだよ、分かってくれりゃ」


「“バカはテメエだ!!いいか、よく聞け!!”から全く聞いてなかったんだからもう一回言えよブルマ好き!!」


「俺はセーラー服派だ……って何で聞いてねぇんだよぉ!!何だその態度は!人目もはばからず結構恥ずかしいこと言ったんだぞゴラァ!!」


 このあと滅茶苦茶ボコられた。



「…………テメエちゃっかりセーラー服に鞍替えしてんじゃねぇよ!!」



 そのあと滅茶苦茶ボコり返した。どうでもいい理由で。


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