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二十体目 数が少なければ絆を使えばいいじゃないっ!

「サバシルちゃん……ミャーちゃん!」


 俺は颯爽と降り立ったミャーちゃんに綺麗な回し蹴りを食らった。


「痛いっぽい!!」


「だぁからミャーちゃんじゃねぇって言ってるだろうが!!テメエから殺してやろうか!ああん!?」


「ど……どうしてお前らが!?確か“もうここには来たくないから”って、城を出ていったはずじゃ……てかその武器……」


 ミャーちゃんは俺の身長ほどある長槍を肩に担ぎ、サバシルちゃんは包丁のような小刀二本を両手に逆手持ちにしていた。


 ミャーちゃんは不機嫌そうに俺を見ていたが、やがてニカッと可愛らしい笑みを浮かべた。


「考え直したんだよ!やっぱりアタシたちはお前らの力になる!!ご覧の通り、戦える武器もしっかり持ってきた!借りはキッチリ返すぜバカドロボウども!!」


「俺はドロボウじゃないわいっ!!ったく……この人数を見て、よく入ってくる気になったよな。バカはどっちだっての」


「違いないっちょね。アテクシも死ぬほど嫌だったっちょけど……助けてくれたオメさんたちに死なれるのは夢見が悪かった……それだけっちょ。それに……」


 サバシルちゃんが部屋の入口を呆れたように見る。向こうから何者かがドンドンと勢いよく扉を叩いている。


「バカは……オメさん方やアテクシら二人だけじゃないっちょ」


 やがて、あれだけ重そうだった扉がバキッと二つに割られた。


 驚く間もなく、中に入ってきたのは……。


「ブハハハハヒッ!!その通り!シルマにケンカを売るような奴は……バカしかいないさ。そのバカの仲間に入れてくれないか……ワシとシリカもな」


「可愛い娘とその仲間たち、みーつっけた。覚悟しなさいよあんたたち!全員まとめて焼き払ってやるわ!!」



「グンノルさん!?シリカさんまで!」



 そこには巨大なオノを携えたグンノルさんと、手の平の上に大きな炎を出現させ、悪魔のような表情で敵を睨み付けるシリカさんが、顔に笑みを浮かべて立っていた。


「二人とも、これはいったいどういうことっすか!!危ないから来ちゃダメって……」


「君のことが信用できなかったワケではない。あのあとシリカと決めたのだ。足手まといだっていい、君とともに戦おう……とな」



「ボス………!!」


 ジョンとジャックがグンノルさんの姿を見てわなわなと震えている。


「え、二人ともグンノルさんを知ってんのか?」


「知ってるどころの騒ぎじゃねぇ!!いいかアマネ、あの人はな!俺たちドロボウ軍団、チーム“NSM”の創設者にして初代総長、伝説の大ドロボウ、グンノル=マリユスさんだ!!」


「え……はああああああ!?」


 どういうこった?グンノルさんが元ドロボウ!?それに凄いエラい人っぽい!伝説の人っぽい!!


「本当なんすか、グンノルさん?あなたがチームNSMを……」


 いやいや信じられるわけがないって。あんないい人がドロボウ軍団の初代総長?つかドロボウの総長ってなに?


「その通りだよアマネくん」


 にょーん。


「もう昔の話だがな……ワシは若い頃は伝説のドロボウとして、ブイブイいわせていたものだよ」


 にょにょーん。


「マッ……マジすかグンノルさん!!つかNSMってどういう…… 」


「ブハハハハハヒッ………NSM(ぬすみ)だ」


 DAIGOか。


「ちなみにドロボウから足を洗えたのはシリカのおかげなのだが……長くなるからそこは割愛しよう。シリカもそろそろ世間話は限界のようだからな」


「二百人以上はいるわね……でも人肉はすぐに焼け焦げてしまうから材料には使えないわ……残念」


 食う気なの?ねぇねぇ食う気なのシリカさん?


「まぁ、そういうわけだ。ワシらは娘を取り返すために、ここにやって来た。そのような兵士たちなど恐るるに足りぬ!!」



「くそっ!底辺の貧乏人どもが……僕に刃向かうなど……!!」


 シルマがハッキリと怒りを露にしている。


「やれ!!所詮、寄せ集めの烏合の衆だ!!一人残らず殺せ!!」


「行くぞ!!誇り高きイメルルの民たちよ!!かかれえええええ!!」


 アケボノとグンノルさんの号令で、全員が一斉に動き出す。



 本格的な戦争が始まった。



 とはいえセンナがやられた今、まともに動けるのは俺も入れて七人。シリカさんがどれほど戦えるか分からないが……とにかく圧倒的な戦力差だ。


 俺もなんとかしねぇと……でもセンナが……!!


「リカバー」


 シリカさんがセンナの腹部に手をかざして呪文を唱える。すると、小さな魔方陣のようなものが傷口に覆い被さるように出現し、センナの重い傷はあっという間に塞がってしまった。


「若者がわたくしたちより先にくたばろうなんて許さないわよ!うおおりゃああああ!!」


 シリカさんはもう片方の手に出していた炎をぶん投げ、遠くで大爆発を引き起こす。それを見た俺は顔を真っ青にした。アクション映画みたいなんだけどホラーだわ。


「シリカさん……足手まといどころかメチャクチャ強いじゃないですか!!それにこんな治癒能力まで……」


「当たり前よ!何十年生きてると思ってるの!誰がババアですってぇ!!」


「言ってない言ってない!!アマネっち言ってないそんなこと!!」


「冗談よ。ちなみにあの薬もわたくしの手作りよ!時間かけて作ったのにあっという間に使い果たしてくれちゃって……ホント、世話のかかる子達だわ!」


 セリフの割りにはシリカさんは嬉しそうだった。


「確かに協力はありがたいっすけど、でも危険なのは変わりが……それにアイツと戦えば、もう今まで通りの生活に戻れないかもしれないんすよ!!」


「関係ないわ。ヤンヤンが傍にいれば、それがわたくしの居場所だもの。他には何もいらない。どんな苦しい環境になったって、笑い飛ばして生きてやるわよ!」


 少しもためらうことなくシリカさんは言った。ホント……大したお母様だこと。


「え、ワシは?」


 不憫、グンノルさん。


「それよりジョンとジャック……君たちは昨日、ワシの娘に傷を負わせたらしいじゃないか」


 グンノルさんの冷たい声に、二人のドロボウはピキッと固まった。


「ついでに頭をカチ割ってあげてもいいけど……戦力が減るのは困るからね。それに、アマネくんとともにここまで娘を助けに来てくれたんだ。無事に助けられたら、多目に見てやろう」


「すっ……すんませんしたグンノルさん!!」


「右に同じくぅっ!!」


 グンノルさん、本当に怖い人なんだな。ちゃんと謝れジャック!!


 グンノルさん魔物説を自信満々に提唱した後悔が今になって再発した。よく殺されなかったよな。すげえ失礼なこと言ってたのに。


 俺たちの間にミャーちゃんとサバシルちゃんが割って入った。


「おいおいおい!!アタシらが必死で頑張ってるってのに、お話で盛り上がってんじゃねぇよ!!まっ、気持ちは分かるけどな!あの憎いシルマの野郎に一泡ふかせるような下克上だ!どんなお祭りより楽しいに決まってらぁ!!」


「覚悟しろっちょミャーちゃん……あっ、ごめんっちょミャーちゃん。あんまりうるさいから敵だと思ったっちょ」


「ギャアアアア!!てめえサバ公!人の髪の毛ぶったぎってんじゃねぇよ!!わざとだろ!ハッキリと“覚悟しろっちょミャーちゃん”って言っただろ!!」


 この二人もどこにいても変わらないな。


「なにニヤニヤ笑ってんのよ……気持ち悪い」


 俺の膝元でセンナがモゾモゾと動き出した。


「誰かさんが早々にやられちまったせいでさすがにダメかと思いましたからな。“頼もしい”仲間が増えて嬉しいんですよ、アマネくんは」


「むっ……わ、分かったわよ!!役立たずで申し訳ありませんでしたぁ!傷も治りましたのでぇ!これからはぁ!アマネさまのご期待に精一杯に応えられるようにぃ!身を粉にして戦う所存ですぅ!」


 あからさまにふてくされてる。ホント、プライドだけが原動力みたいな女だな。


 センナが立ち上がり、こっちを見ずにモジモジしてる。なに、このシチュエーションでもトイレ?


「あと……一応あんたも今まで重傷を負ったあたしを守ってくれてたわけだし、礼を言っておく!!じゃあね!背中はあたしたちに任せて、せいぜいいつも通りマイペースに戦ってなさい!」


 センナは早々と俺から離れ、機械作業のような完璧な動きで敵を倒していく。


 皆が一つになって頑張ってくれてる。


 俺も頑張りますかっ!



 やがて全ての兵士が地に伏した時、俺たちも体力の限界を迎えていた。


 とはいえ8対200人以上の圧倒的な戦力差の中で一人の犠牲も出さずに済んだのは、絆と覚悟の差だろう。


「はぁ、はぁ……これでしめぇか……お坊っちゃま?」


「たった八人で僕の部下を全員……何なんだお前らは!!くそ、ここまでか……」


 アケボノはがっくりと膝をついた。


「よっしゃあ!!ついにシルマの野郎をひざまずかせることができたぜ!やったなアマネ!」


「やれやれ、やっと終わったか。手間ぁとらせやがってプリョンゾヌス神が」



「……違う」



 肩の力を抜いた俺とジョンの隣でサバシルちゃんが呟いた。


「え?あ、サバシルちゃんは知らんと思うがね、アイツにはプリョンゾヌス神さまという神聖な二つ名が……」


「あほう。オメさん方、ホントにこれで終わりと思っとるっちょか?あの男、まだ何かを隠し持ってるっちょ」



「………クッ」



 うなだれていたはずのアケボノが、小さく笑った。


「クハハハハハハッ!!存外、凡人の中にも頭のキレる奴がいたものだなぁ!!」


「なっ……アケボノ、テメエ!!」


 アケボノの高笑い。よく見破ったなサバシルちゃん。


「そいつぁどーも。んで、またゴロゴロと兵士をブチ込むってワケでもないっちょ?今度はオメさんがアテクシらとお相手してくれるっちょか?さっきの銃……いんや、もしかしたら魔法でも使えるっちょか?」


「ククッ……それも悪くはないがな。生憎、僕が直接手を下す必要もない。だから、君たちの相手は“彼ら”に頼もうと思うんだ」


 シルマが甲高く手笛を吹くと、俺たちが入ってきた後ろの扉が再び開けられた。


 入ってきた異形のものたちを見て、俺たち全員は戦慄した。



「嘘だろ………?」



 俺たちを取り囲んだのは、おびただしい数の……魔物だった。



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