十七体目 ビビらせたければリアルにすればいいじゃないっ!
ヤバいな、さっきとは違う理由で体が動かん。
「くっ……こんなもん……!」
無理やり動こうとするも、ただ体力を消費するだけ。
「ムダよ。長く唇を重ねれば重ねるほど、麻痺状態は重くなる。さっきのキスはだいたい一分。戦うどころか歩くことすら難しいでしょう?」
「ナメくさりやがってクソアマが……インチキな技ばっかりじゃねぇか卑怯者……!」
「自分が持ってないものを持ってる人を卑怯者呼ばわりなんて、器の小さい奴ね。あんたのそういうところ、大嫌い」
センナが俺の喉元に剣先を突きつける。どうすりゃいい?どうすりゃ……。
「とはいえ時間が経つと効果は薄れていくから、さっさと終わらせないとね」
「そうかい。でもこっちは首が繋がってる限り足掻かせてもら……ぐっ!!」
ポケットのがま口を取り出そうとしたが、腕をセンナの剣が貫通する。
「悪あがきはやめなさい。勝負はついたんだから」
センナは剣を引き抜き、俺を部屋の中央まで蹴飛ばした。
なんとか踏みとどまったが、そのまま全方位から激しい斬撃が襲いかかる。
「ぐああああああっ!!」
「ほら!ほらほら!!対処しきれないでしょ!!あれだけ余裕ぶってたあんたが、なかなかいい悲鳴を出すじゃないっ!!もっと聞かせてよ!あははははは!!」
狂ってやがる……人を斬ってるってのに、なんつう楽しそうな笑い声あげてんだコイツは……。
少しも動けないまま全身を少しずつ、少しずつ斬り刻まれていく。やがて立っていられなくなった俺はそのまま膝をついた。
「あら?お得意のおふざけも言えなくなっちゃったの?つまんないわね……もう終わり?」
「はぁ、はぁ……バカ言え。俺だけの力でお前に勝たないと!ヒカえもんが安心して!元の世界に帰れねぇんだ!!」
「知ったことか!!」
顔を正面からぶん殴られる。あ、そこはノッてくれるんだ。
あーあ、全身血まみれだ。文化祭のお化け屋敷を思い出すね。これを見たら全員が怖がってくれるに違いない。
その後に佐原さんに告って玉砕したんだよな。
「死ぬ前に彼女の一人でも欲しかったなぁ、こんちくしょう。まっ、お前みたいな美人に死に水とってもらえるんなら悪くないかね」
「ふーん、諦めるんだ。あと少しで妹たちを助けられるのに」
センナは失望したかのように俺に一歩一歩、近寄ってくる。
「くそっ!!」
俺は震える手で残った小銭を投げつける。だが、力が入らないのに加え、残ったのは軽い一円ばかり。しかし、センナは余裕の表れか、それを受け止めるでもなくヒョイヒョイと避けてみせる。
そして念のため後ろを確認し、投げられた小銭に危険がないかしっかり確かめている。周到な女だな、本当に。
「お見事。そんなに用心されちゃハッタリもかませねぇや。もう全て出しつくした。残りカスも出やしねぇよ。殺すなら痛くないように、でも悔いのないように全力で殺してくれ。他のものなんかに気を取られず、俺を殺すことだけに集中しろ」
「そのつもりよ。早々に諦めるような腑抜けは……あたしが全力で葬ってあげる!!」
センナは俺が下手なことをしないよう、俺の目を見ながら全速力で走ってきた。俺もそんなセンナの瞳をジッと見つめる。
引き付けて、引き付けて、まだまだ引き付けて…………。
今だ。
センナが目と鼻の先に迫ったとき、俺は最後の力を振り絞って右側に転がった。
その数秒後、センナは見事なくらいにツルリと滑った。
宙を舞う銀髪の美女。
「ふぇ……………?」
すっとんきょうな声を出したセンナは、地面に突っ伏した俺を見ながらそのまま一回転し、床に豪快に頭を叩きつけた。いたそう。
「がっ……!!」
そして、勝利一歩手前だったセンナ=リフルソフィアは、そのまま気を失った。
まさかこんなに上手くいくとは。
おっと、こうしちゃいられねぇ。だいぶ麻痺の力も弱まってきたし。
体を必死で動かし、気絶しているセンナに近付く。
これがラストチャンスだ。なんとか身動きを封じねぇと……!