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十六体目 近寄れなければ物を投げればいいじゃないっ!


 うーむ……近寄れぬ。依然、センナの凍てつく風が止まず、壁際に押しやられたまま全く動けない。


 前が見えねェ。


 寒いばっかりでドンドン体力が削られていく。


「こっ……こんなの卑怯だろ!!インチキだ!」


「なんとでも。ほらどうしたの?そこでジワリジワリと体力を蝕まれて死んでいくのかしら?」


 遠くにいるセンナが勝ち誇ったように俺を見据える。姿が霞んできた。


 アマネくんピンチ。


 困ったときの三次元ポケットだ!ただのがま口サイフだけど!!


 なんかないか、なんかないか、なんかないか……あぁもう輪ゴムばっかり!


「もうっ……氷魔法らめぇぇぇぇぇぇ!!」


 やぶれかぶれに、サイフに入っていた五百円玉を投げる。


「あがっ!!」


 センナの短い悲鳴。え、うそ、当たったの?


 風がゆっくりと吹き止んでいく。視界が鮮明になると、額を押さえてしゃがみこんでいるセンナの姿。


 やったぜ。しまった。やったぜしまったしまったやったぜやったぜしまったしまったしまったやったぜしまったやったぜやったぜしまったやったぜ。


「お、俺そろそろキャシィ塚本の料理番組始まるから帰るわ。ばいならならいば~!なはははははのは……」


 やったぜバーサスしまった。二つの感情に脳内がパンクしそうになりつつも、俺はキビスを返して部屋の出口へと向かう。



「……まちなさい……」



 アドレナリンさんがログインしました。

 アドレナリンさんがログインしました。

 アドレナリンさんがログインしました。

 平和的解決の可能性さんがログアウトしました。



「よくもやってくれたわね………」


「いやいやだってさ!そりゃ女の子の顔に当てた俺にも非があるよ!でも不可抗力だべ!あのままじゃ近寄れなかったし!」


「黙れ!!」


 センナが顔を上げる。瞳孔がヤバい。山田くんの口並みに開いてるじょ~!アハハハハハハ!


「あんただけは、あんただけは絶対に許さない!!もう……殺すっ!!」


 大激怒。ぞう大魔王や。怖い。髪の毛が逆立っとる。殺気をおしゃれに着こなしとる。


 しかしこれはチャンスやも。


 センナを相手どる上で最も脅威だったのは、何を隠そうその冷静さ。


 でも今は非常に感情的。センナの一番の強みが削られた状態。つけ入る隙はある。


「一応言っとくけど、今投げたものには遅効性の毒があるぞ。大人しくしといた方が……」


「もうその手は食わないわよ!!何故なら昨日のあんたの卑怯な戦い……あたしはその一部始終を見てたんだからね!!」


 そうだったんスか!?


 ジョンにしたハッタリが見られていた?


 人混みが仇になった。まさかこんな派手な髪色した奴を見付けられなかったとは。


 最悪、ハッタリでどうにかしようと思っていたが、全てパーだ。どうしたもんか。


「でも、そうね……このあたしに傷をつけたんだもの。あんたにご褒美をあげてもいいわ」


「ぅぇぃ?」


 思ってもみない発言に二度と出せないような声が飛び出す。


 急に冷静になりやがった。テンションの高低差えげつないな。


「何だそりゃ、えらく太っ腹だねぇ。何をしてくれるんだ?二人を返してくれるわけでもあるまい。肩でも揉んでくれんの?それとも誰にも話したことのない秘密の話とか!?まっ……まさかキス!?キャー!待って待って!まだ心の準備が!!」


 一人で浮かれているうちに、センナが目の前にさっと移動してきた。


 壁際だから逃げられない。


 そのままジッと見つめられる。顔を冷たい両手がフワリと包み込む。やがてセンナが目を瞑り、そのまま顔を近付けてくる。



「あのぉ、センナちゃ………んぐっ!?」



 センナの冷たい唇が、俺のにソッと付着する。



 ちょっと考える時間を下さい。チャンネルはそのままで。


 確かに俺はキッスも候補の一つに入れてましたよ?でもさ、本当にしてくると思わないじゃん?だから急にこんなことされても色々と予想外というか規格外というかなんというかその


「んぐぐぐぐぐぐぐっ!!んぐーー!!んぐぐーー!!」


 カーバンクルみたいな言語を発しながら逃れようとするが、センナは俺の体をしっかりと抱き締め、それを阻む。


 頭がとろけてきた。意思を問おうにも口が開かない。呼吸をしようにも鼻しか使えず、センナの甘い香りしか入ってこない。


 やがてセンナはゆっくりと唇を離した。口と脳ミソがピリピリと痺れる。一分ぐらいされたんですけど。


 頭が真っ白になった俺はそのままズルズルと壁を滑り、地面に尻餅をついた。


 徐々に理性が取り戻されていくと、俺はすぐさま立ち上がった。


「テッ……テメエ何してんだ!!自分のしたことがどれほど大変なことか、分かっておるのかね!!破廉恥!!淫乱!!エロマンガ島!!」


「あら、あんたも予想してたじゃない」


「いやそうだけど!こういうのはもっとムードというかムーディーというか勝山というか!そういうのが大事だろ!!いきなり接吻かます愚か者がどこにいる!!うつけが!!」


 顔を真っ赤にして抗議する俺を、センナは不思議そうな目で見てくる。


「…………何でまだそんなに喋れるの?バカには魔法の効きも悪いのかしら?」


「はぁぁぁぁ!?何を言いくさって――――っ!?」


 体に異変が生じた。


 あれ、ちょ、待って。体が動かないんだけど。


 金縛りにあっちまったみたいな。頭も上手く回んないし。喋ることもままならない。


「あたしは口付けを交わした相手を麻痺させることができる。さぁ、ここからが本番よ、カタカゲ アマネ。満足に動けない無様なあんたを、じっくり痛めつけてあげる」



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