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十五体目 寒ければ熱い人を呼べばいいじゃないっ!


 部屋の前に着いた。また扉。扉ファンか。アケボノ扉ファンか。


 また石の扉だったら二人を呼んできてやろうと思ったが、あいにくと今度のは普通。


 覚悟を決め、ゆっくりと入室。


「お酌、頼めるか……とはな。ホント、昨日知り合ったばかりのドロボウさんたちともずいぶん仲良くなっちまったもんだ」



「全くね」



「!!おっとっとぉ!」


 一歩足を踏み入れるなり、いきなり斬りかかってきたセンナ。


 またも不意を突かれたが、今度は即座に刀を抜いてしっかりとガードに成功。


「あっ、これゼミで出た攻撃だ!……ってな。さすがのバカでも同じパターンは食らわねぇよ!誰がバカだ!!にしても奇襲攻撃たぁ、えらく余裕がないんじゃのう、センナちゃん?ご指名しといてそりゃねぇだろ。もっと楽しもうぜ」


「あんた……恐怖とかないの?」


「オフクロの腹ん中に置いてきた」


 センナは何も言わずに離れた。ノリ悪いったらないね。


 部屋を見渡す。またしても広いわりには俺とセンナ以外、何もなかった。いやガチで。おかしな仕掛けが施されているようにも見えない。


「へえ、結構キレイにしてるんだぁ」


「この部屋の先にシルマ様と、あんたのお目当ての二人の女の子がいる、六階への階段があるわ。通りたければ全力であたしを倒してみなさい。心配しなくていいわよ。罠も、援軍も、何も用意してないから。用意するだけ無意味だもの」


 なるほど、本来ならその情報は朗報だ。挟み撃ちなんかされたら構わん。


 ん、挟み撃ち?


「心配してるようだから言うけど、さっきの二人にも手出しはしないように言ってあるわ。たとえあんたの味方を早急に倒したとしても……ね」


「……そいつはどーも」


 心の内が読まれんのはゾクッとするやね。


 見た感じ、嘘も言ってない様子だ……が。


「自分一人で充分だもーん……ってか?信用できないねぇ。ここはテメエらの陣地。何が起こっても不思議じゃない」


「あら、残念。あの薄汚い賊軍共のことは信じて、あたしのことは信じられないんだ?」


 話せば話すほど不気味だなぁ、ったく。一言一言で謝りそうになる。


「昨日の敵は今日の友ってね。アイツらは俺の協力をしてくれる。お前は俺の邪魔をしてくれる。贔屓する理由としちゃ、それで充分だろ」


「はっ、たった一日や二日で築いたハリボテみたいな絆でしょ?いつ崩れるか分かったものじゃないわ」


「と言いますと?」


 俺は爪をいじくりながら聞き返す。


「協力した礼として金品を根こそぎ奪われるかもしれない。これを機に味をしめたアイツらによって、あらゆる場面で利用されるかもしれない。利用するだけ利用して、役立たずと判断されれば即座に殺されるかもしれない。そんな可能性を全て考慮して、あんたは奴らと手を結んだの?その無策さが可哀想だから、一つ忠告してあげる。信じる相手はしっかり考えて選んだ方が身のためよ」


「最後以外は全く聞いてなかったけどアドバイスあざーす!でもさ……それをお前が言うのかよ?あのクズ王子の(がわ)についてる、お前が」


 センナの形のよい眉がピクリと動いた。


「クズ王子ってのは……シルマ様のことを言っているの?」


「他に“王子”と名の付く奴がどこにいる?お前も知ってんだろ?アイツのしてること」


「えぇ、もちろん。でもそれであたしがシルマさまをお慕いする気持ちは揺るがないわ」


「でしょうな。お嬢ちゃん美人さんだから、どうにか斬らずに説得で……と思ったんだが、退いてくれそうもないね」


 センナがまたしても不機嫌そうな顔をした。理由はだいたい分かる。


「言葉は選んだ方がいいわよ……その言い方だと、あんたがまるで、あたしを斬れるみたいじゃない」


「選んだ結果の発言さね。傑作じゃねぇか。誰よりも近くであのキザ野郎を見てきたお前が、誰よりもアイツの悪事に気付けていない。誰かが言ったもんさ……“憧れは理解から最も遠い感情だよ”ってな。ぐうの音も出ねぇ正論だ。そんな恋に焦がれる乙女ちゃんに、俺は負けねぇよ」


「そ。じゃあお話は終わりにして見せてもらおうじゃないの……その乙女ちゃんに一度殺されかけたあんたが、どこまで太刀打ちできるか」


 センナが床を蹴って一気に距離を詰め、猛攻を加えてくる。ギリギリまで見極め、落ち着いてそれを受け止める。


 これでいい。最初は相手のペースに呑まれないよう、必死に食らいつくぐらいがベストだ。


「その剣……」


「おっ!お目が高いねぇ!シルマ王子……いや、アケボノがさらった女の父ちゃんからの授かりモンだ。悪いけど非売品だなも!」


「グンノル=マリユスね……余計なことを」


「グンノルさんを知ってるのか?」


 膠着状態。つばぜり合いの姿勢でセンナが俺を睨んでくる。身長差ほとんどないから顔近ぇんだよなぁ。思春期には辛いのう。


 え、グンノルさんの質問ムシ?


「あんたさ、変な格好してるけど……この世界の人間じゃないの?」


「そこは聞くも涙のお話なんだが……俺がお前を倒したら、冥土の土産に教えてやろうぞえぞえぞーえぞえ」


 センナの力がググッと強まった。真ん前にある顔を見る。え、怒ってる?怒ってるよね?分かんないよ常時ぶっきらぼうな顔してるから。


「さっきから、あたしを“斬る”だの“倒す”だの……不愉快なんだけど。あんたみたいな得体の知れないふざけた男が、あたしに勝てると思ってるの?」


 よし、勝利フラグが立った。でもやっぱ怒ってらっしゃる。


「おうさ。俺は妹のためなら誰とでも闘える。でも熊やライオンが来たら妹と一緒に逃げる。そこにもう一人、そいつのダチが加わったんだ。こんなところでみじん切りにされてる場合じゃないんだよ。それに、勝てる感じもするし」


「ふーん。根拠のない自信は死を招くわよ」


「中途半端に根拠があるくらいならゼロの方がマシだ。ムダな考えはオモリになる。丸裸で戦った方が気楽ってもんよ」


 センナが何も言わずにつばぜり合いを解き、数歩後ろに下がった。


「どした、休憩するか?」


「どこまでも人をおちょくってるようね。二回連続で瞬殺は可哀想だと思ったから手加減してあげたけど……本気でいかせてもらうわ」


 センナが目を見開き、剣を高く上に掲げた。


「ヌルフフフ、ヒーローは同じ敵には二度は負けな……ぐおおおおおっ!?」


 刹那、凄まじい冷気が彼女から放たれた。みるみるうちに部屋の気温が下がっていく。


 前に進もうにも豪風で身動きが取れない。今すごい顔になってんだろうなぁ。おそらくはドラえもんの新・魔界大冒険でのタイムマシンのシーンみたいになってるよ。“あああ!アマえもんの顔が!!”ってコマーシャル流されるよ。


「寒い寒い!!誰か松岡修造呼んできて!!八百人ぐらい!いや死ぬ!!そしたら暑すぎて死ぬ!八百人はほぼ太陽と変わらんぎゃあああああ!!」


 やがて耐えきれなくなった俺は話の途中で冷風に吹きとばされ、壁に勢いよく頭をへごちんした。


「もうパーンてなりましたね頭が!!いててて……バカだけど痛い!!バカだけど痛ぇんだよ!!心がよぉ……痛ぇんだよぉ……ジョーーーン!!カムバァァァァァァック!!」


「こんな時まで仲間にすがりつくの?よほど信頼感があるのね」


 あ今のは仲間のジョンじゃなくてちゃんと元ネタあるんです。ややこしくてすんまそん。


「つかお前、魔法って……」


「氷結系しか使えないけどね。まぁあんたみたいな蛮族には、この程度で充分でしょ。センナ=リフルソフィア……あんたをこれから氷付けにする女の名前よ。よーく覚えておきなさい」


「知ってるから言わなくていいと思うけど、一応礼儀だからな。カタカゲ アマネだ。まぁ脳の隅っこにでも居候させてやってくれ。心配すんな。今はまだ小せぇ野郎だが、いずれビッグネームになるよ。なんたって……あのセンナちゃんに白旗あげさせちゃう男の名前なんだから」



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