十四体目 合コンがしたければ人数を合わせればいいじゃないっ!
ごかい。
「あのミャーリタスとかいうガキの言う通りだ……こっからは本格的にヤベェ匂いがするぞ、アマネ」
「分かってる。けど、今さら引き返すわけにもいかないしな」
またしても静かな廊下を三人で歩いていく。
角を曲がると、いきなり巨大な石の扉が現れた。
圧倒的な貫禄。扉ながら土下座しちまいそうだ。
他の扉とは一味も二味も違う、異様な気配がする。冷や汗が頬をつたる。
「“何かありますよ”って警告か?怪しさ満点だが、やけに親切だねぇ」
「…………開けるぞ、アマネ。覚悟決めろよ」
ジョンとジャックが二人がかりでゆっくり、ゆっくりと厳重な石の扉を押し開ける。重そう。
さすがに緊張してきたな。トイレ行っとこっかな。
つかここがトイレだったらいいのに。“漏らしそうな人に襲いかかる最後の壁なのでプリョンゾヌス!わざと重く作ってるでプリョンゾヌス!フハハハハハでプリョンゾヌス!”とか、あの性悪なプリョンゾヌス神さまならやりかねない。
まあ、そんな拍子抜けな展開があるわけ……。
「あ?何だこりゃ……!」
ジョンが気の抜けた声を出した。まさかと思って中を見ると、ただの広い広い部屋だった。奥にはその先に続く一本の細い道。先は暗くて見えない。
だけ。
景色的にはミャーちゃんとサバシルちゃんを助けた部屋と全く変わっていないわけだが。誰もいないし。
「カッ……カラッポじゃねぇか!!どうなってんだ!!」
「こりゃトイレより拍子抜けだねぇ。もしや、さっきの二人を捕まえるためにここに配置予定だった兵士さんまで動員されたとか………」
「なら良かったのにね」
「!!」
この声……ついに来やがったか。
心臓を止めんばかりの、冷たい冷たい声色。一言聞いただけで、昨日の恐怖が一気にこみ上げてくる。
前方の道から出てきたのは、相変わらずの凍ってしまったかのような無表情を少しも崩さない銀髪の美女センナと、二人の女剣士。どいつもこいつも何で後から出てくるんだろう。演出かな。
「男女三人ずつ……こいつはラッキーだ。あいにく合コンなんて初めてなもんでね。しっかりリードしてくだせぇよ、カワイ子ちゃんたち。えと、まずは名前と簡単な自己PRからだっけか?」
「その必要はないわよ、カタカゲ アマネ。あんたはここで死ぬんだから。昨日は見逃してあげたけど……あんたから出向いたなら話は別。奥の部屋で手厚く相手してあげるわ。覚悟なさい」
センナは俺に背中を向け、長い髪をかき上げて歩いていった。
「おいおい……知り合いがいるなんてズリぃぞアマネ!こっちは全員と初対面だってのに!」
「右に同じく!こういうのは知り合いなしでフェアな状態からスタートすんのが暗黙の了解だろ!」
コイツらも結構マイペースだぁね。ジャックが割りと合コンのこと分かってて怖い。
「悪いなジョン、ジャック。奴さん、どうやら俺をおっもちかえりぃ!したいみてぇだ。まぁ落ち込むことはあるめぇ。他の二人もなかなかの上玉だ。お酌、頼めるか?」
「チッ……わーったよ。行けアマネ。モタモタしてっと、俺らが先にシルマの野郎の鼻っ柱、へし折っちまうぞ。おらモブアマども!テメエらの相手は俺たちだぁっ!!」
ジョンとジャックは俺と拳をぶつけ合ったあとで、両端の二人に殴りかかっていった。 ”モブアマ“って呼び方やめたげて!!
俺はその間を堂々と通り抜け、のっしのっしとセンナを追いかける。暗くて狭い道を歩きながら、剣に手をかける。
さてさて、いよいよ本番ってとこかね。
次に負ければ、俺はおそらく死ぬ。
まっ、勝ちゃいいんだけど。