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十三体目 襲われてる女の子たちがいれば救ってあげればいいじゃないっ!

「門番もいなかったとは、ずいぶん歓迎されてるみたいだね!嬉しきかな嬉しきかな!」


 誰もいない、暗く広い城の中に、俺の楽しげな声がコダマする。


「冗談はここまでだぜ、アマネ。シルマのことだ、どうせ変な仕掛けまみれに違いねぇ。さっきパッと見た感じじゃあ、城は六階建てってところだろう。気を引き締めていくぞ」


 こうして俺たちは城の探索を開始した。確かにここはアウェイ。アケボノがどう仕掛けてくるか分からないやね。


 緊張で足取りが重くなる。



一階。


二階。


三階。



なんにもなし。なーんにもなし。



「“シィイィイルマァのことだわァアァアァア、どうせ変な仕掛けまみれに違いなアァアいわよオォオォオォォォォォ”」


「やめろ!恥ずかしいから真似すんな!てか俺そんな美輪明宏オーラ出てたっけ!?」


「オーラの泉だけに?」


「ああもう!!テメエはボケねぇと死ぬのか!!てかおかしいぞ、誰にも会わないまま四階まで来ちまった!」


 確かに不自然だな。最初油断させて後から畳み掛けてくるって可能性もあるけど、にしても矢の一本も飛んでこないなんて……。


 四階の広い通路を電気も点けずに歩きながら、なにげなーく考える。


「まさかさっきの騎士たちで全員とか言うわけじゃねぇだろうな!」


「いやいや、それはさすがに……ん?」


 何かが聞こえたような気がした。しばらく待ってみる。


 もう一回。やはり気のせいではなかった。


「なあジョン、なんか遠くから声がしないか?女の子の声みたいな。ジョンの声か?」


「あぁ?そんな声どっから……っ!!マジだ……でもどこから!?」


 ツッコミがない、ただのシリアスのようだ。


 声がする方向に走る。静かだからか、よく声が響く。この階の一番奥っぽい。戦闘が起きているのか?でもどうして……。



 さあさあ、声がする部屋の前までやって来たんだけどさ。


「ここでドンパチやってるってことは、少なくとも片方は俺たちの味方なんじゃねぇのか、アマネ」


「まぁ、他にアケボノに恨みを持って侵入したやつもいるかもしれねぇけどさ。アイツの権威は絶大なんだろ?なのに……まぁいいや、とりま中を見てみますかね」


 念のため、中にいる誰にもバレないようにソッと、部屋の扉を開けた。


 すると、部屋の中央で二人の女の子が丸腰で背中合わせになりながら、十数人の兵士に囲まれているのが分かった。



「うっひゃひゃあ……もうムリっちょ、これ。だーからアテクシは脱獄なんてやめよーねって言ったのに。痛い目ェ見る前に、ちゃちゃっと降参して体でも何でも差し出しちゃった方が身のためっちょ。それか試しにここで自殺でもしてみるっちょ?“殺される前に死ね”っつーことで」


「テメエ!!簡単に諦めてんじゃねぇよサバ公!!死にたきゃ勝手に死ね!アタシが死なせねぇけどなァッ!!」


「いや、どっちっちょ。つか、あんまり諦め悪かったら、いざ死ぬことが決まっちゃった時の絶望感パナイっちょ?だからミャーちゃんもその怖い顔、やめた方がいいっちょ。はぁい、ミャーちゃん、死ぬときぐらいニコニコちまちょーねー」


「その名前で呼ぶな!!くそっ、もっとだ!もっと燃えろアタシ!がんばれがんばれアッタッシ!がんばれがんばれアッタッシ!うおおおおお!!」


「いや熱い、熱い熱い。最後の最後で出たっちょ、ミャーちゃんおなじみの入魂ソングが。ったく、死ぬときぐらい静かにスゥッと逝かせてほしいっちょ。どーせ助けなんて……」



「とつげきいいいいっ!!隣の晩ごはんっ!!」



 俺は剣を引き抜き号令を出して、ジョンとジャックとともに部屋のドアを強引に押し開け、不意を突かれて上手く立ち回れない兵士たちをバッタバッタとなぎ倒していく。


「あーらら、言ってたらホントに来たっちょ。神さんもアテクシたちのことを見放してなかったみたいっちょねー」


「へっ……コイツらもシルマのバカ野郎の敵ってワケか!そいつぁ都合がいいぜっ!行くぞサバ公!アタシらもまだ戦える!!ううおおおおおりゃああああ!!」


「うへえ。むさ苦しそうな男たちに暑苦しいミャーちゃん……ここはサウナっちょ?でもまぁ、アテクシもやられっぱなしは性に合わねぇっちょね……。はぁ~あ、メンドくせ」


 むさ苦しそうな男って俺も入ってる?


 二人の女の子も素早い動きで敵を次々と沈めていく。あら、なかなか出来るぞ?


 戦力は二人から五人へ。そこからは兵士の全員を戦闘不能にするまでは、そう時間は掛からなかった。


「息災か、嬢ちゃんたち。正義のヒーロー三人組が助けに来たよぉ」


 ここで改めて女の子二人を見てみる。身長はつけ坊よりかは大きいとはいえ、やや小柄だが、顔立ちからして俺とそう歳は離れていないだろう。


 二人とも、ピンク色のボロボロで薄汚れた布切れみたいな服を一枚だけ着ている。つけ坊の豪華なモンとはエラい違いだ。何でそんなボロボロに……今のやつらにやられたのか?それとも……。


「助かったぜ!やるじゃねぇかテメエら!アタシはミャーリタス=リグレット!好きに呼んでいいが“ミャーちゃん”だけは呼ぶなよ!?絶対呼ぶなよ!?」


「おう、よろしくミャーちゃゴブラシッ!!」


 セリフの途中で顔をぶん殴られる。今の完全に上島さんノリやったやん。


 ミャーリタス……もうミャーちゃんでいいや。ミャーちゃんは、紅色のボッサボサな髪を腰まで伸ばしており、顔は強気な言動が示すように、クリクリと大きくややつり目の輝かしい瞳にチラリと覗く犬歯と……なんつうか、小動物よりの獣みてぇだな。


 なんか炎っぽいオーラが見えるんだけど。さっきも“入魂ソング”とか言ってたし、とにかく活発でアツい子なんだろうな。


「オメさん、なかなかミャーちゃんの取り扱いが上手なヒーローっちょね。おっと、アテクシはサバシル=キャップニッソス。17歳で、ケッコー諦めが早くてマイペースなグータラって感じで。特にこだわりもないんでテキトーに呼んでほしいっちょ。ちなみにミャーちゃんも同い年っちょ。ヨロっちょ~」


 あ、やっぱ歳近かったんだ。にしても、まさかタメとは。


 そんで、このサバシルっていう子はミャーちゃんのまさしく正反対だな。


 青いお団子ヘアーにトロンとした目、ぷっくりとした唇など、実年齢より幾分か若く見える。一人称や二人称も語尾もセリフも異質な子だな。その上さっきみたいに簡単に死のうとする子だ。危なっかしいなもう。今も俺に焦点を合わせずに、ヒラヒラと力なく手を振っている。


 真逆だなぁ、何から何まで。名前からして双子ってわけでもなさそうだし、何で意気投合できたんだろう。


 でも二人とも戦闘力はそこそこあるっぽいな。さっき丸腰で囲まれて追い詰められてたってことは、普段は武器でも使ってるのか?


「お前ら何でこんな所にいたんだ?まさか俺たちと同じくシルマに恨みを持って侵入を……?」


「逆だよ。アタシらはアイツから……シルマから逃げて来たんだ」


 あ、そういやさっきサバシルちゃんが“脱獄”って言ってたな。


 じゃあこの二人も捕らえられていたのか……。


「たったの三日間だったが、地獄みてぇな日々だったぜ……メシも最低限しか与えられねぇし、他にも色々……」


 そこで口をつぐむミャーちゃん。何をされたかはさすがに聞く気になれない。


「逆らったら拷問みてぇな仕打ちを食らうし……このままじゃ身が持たねぇってんで、サバ公と二人で出てきたんだ。色んな作戦を立ててな。クソがっ!!あのキザ野郎、許せねぇ!!」


 大変だったんだろう。この子たちの身なりを見れば分かる。


「アテクシが悪かったっちょ。道を尋ねられたから、ついていってやろうとして……でも後になってそれがシルマ王子だと気付いたっちょ。おかげで助けに来てくれたミャーちゃんまで巻き添えにしちまって……」


「いいよ、気にすんなサバ公。それにアタシらなんて、まだ幸運な方さ。監禁されてたのは三日間だけな上、こうして逃げられたんだから。えと……あんがとよ、三人とも。今は何も出来ねぇけど、今度会ったらキッチリと礼をするよ。とにかくアタシらは一刻も早く城から出ねぇと……」


「大丈夫だって!外では俺たちのドロボウ仲間がウジャウジャいるから、もしなんだったら一緒に帰してもらえ!ジョンとジャックの名前を出しゃあ、喜んで迎えてくれるはずだ!」


 ジョンが二人の頭をワシャワシャと撫でながら言った。ほほう、こういう可哀想な思いをした子どもには優しいんだな。つけ坊にあたりがキツかったのは……アイツお嬢様っぽい外見だから、ひょっとしたらアケボノと同じものを感じたのかもな。


 俺もあのお団子頭、触ってみたいな。


「つか、テメエらは何でここに?」


「俺の妹とその友達が拉致られたんだ。これから助けに行くところだよ。不覚にも王子さまを怒らせちまって、大変だけどな。この二人は俺の協力者だ」


 ミャーちゃんはアゴに手を当てて考える素振りを見せる。


「なるほどな……どうりで今日は城の様子がいつもと違うと思ったぜ。シルマもキレてやがったみてぇだし」


「まぁ、その混乱に乗っかってアテクシらもシルマ王子の元を抜け出せたんだから、どのみちこの人らには感謝すべきっちょね」


 サバシルちゃんが髪の毛をクリクリしながら上の空で答えた。


「まぁな。気を付けろよテメエら。シルマは一筋縄じゃいかねぇ。特に自分を怒らせたような奴には何をしてくるか分かったもんじゃねぇ。命を捨てる覚悟で行かなけりゃ……」


「承知の上だよ。全部ブチ破って二人を取り返してみせらぁ」


「へっ……そうかよ。アタシらも協力してやりたいけど、悪いがもうあそこには戻りたくねぇ。頼んだぜ、ドロボウ三人衆。シルマの余裕そうな顔、汚ぇ泣きっ面に変えてやれ!!じゃあな!!」


「お世話になりましたっちょ~。御武運を~」


 二人は高速で走っていき、すぐに見えなくなった。


 不思議な子たちだったな。ちゃんと脱出できりゃいいけど。


 まぁたアケボノへの好感度が下がっちゃったよ。もともと最悪だったのにその下を行っちゃったよ。“一緒に帰って友達と噂とかされると恥ずかしいし……ジャマだから君のこと打ち砕いていいかな?”レベルだよ。“めきめきメモリアル”だよ。


 いよいよ次は五階か。


 ミャーちゃんの言う通り、気合い入れていかないとな。



………………春だね、もう。



ふいいい………。






…………………いや俺ドロボウ違うっ!!



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