十二体目 寵愛を受けたければ崇拝すればいいじゃないっ!
右から俺、ジャック、ジョンの順番に横一列で歩きながら、俺たちは憎きアケボノの討伐に向かっているわけですが……。
正直言って警戒心は完全には解けていない。いつでも反撃できる準備はしておかないと……。
何でジャックが真ん中なの?
「何が目的だお前ら?善意だけで人を助けるほど殊勝な精神はドロボウにゃ備わってねぇはずだが」
「あぁ?言ったろ、最初はお前に仕返しをしに来たって。だが……俺たちもシルマのキザ野郎には個人的に腹立ってんだ。なぁジャック?」
「右に同じく!アイツだけは許せねぇ!」
いや右は俺なんだけど。
「あの野郎、表向きじゃ魔物倒したりしてチヤホヤされてるが、実は奴が動くのは女が危険にさらされた時だけだ」
まぁ、そうでしょうな。男の俺なんか発言権すら与えられなかったし。
「シルマを支持してんのは脳内お花畑のバカ女たちだけだ。男どもの間での評判は最悪さ」
なるほど、それでいつも優しいグンノルさんがあんなにプンプンしてたってわけだ。
「しかもここだけの話、アイツは女を家に連れ込んで、牢に監禁してやりたい放題やってるって噂まで立ってる。事実、何人か帰ってきてねぇ女もいるって嫌な報せもあるしな。そのうえ男からは何かと理由をつけて金やら物資を巻き上げやがる……本物のクズだ」
「いや最後に関してはドロボウのお前が言えることじゃ………んんっ………ねぇだろ!」
「言うんだ!!せっかく咳払いで我慢しかけてたのに!!」
監禁してやりたい放題か……マジであのお坊っちゃまだけは本当にどうしようもねぇ野郎だな。
え?監禁してやりたい放題?
「つーことはつけ坊とヒカヤも?…………やろう、ぶっころしてやる。」
「待てアマネ!あんまり血走んな!!」
スパナを持ったドラえもんのようになった俺をジョンが必死に止める。
「ん……あぁ、悪ぃ。でもさ、そんな調子だったら、しょっちゅう暴動が起きるんじゃね?」
「癪な話だが……この町でのシルマの権力は絶大だ。確かによく思ってねぇ奴は多いが、アイツの力で町は魔物から守られ、なんとか今日までやっていけてるってのも否定できねぇ」
「摩可不思議な話じゃのう。悪のおかげで町が守られているとは」
その功績もあって、今までアケボノに刃向かえる輩はいなかったってわけね。
「つか……テメエも案外、キモが据わってやがるじゃねぇか、アマネ。妹のためとはいえ、あのシルマの野郎に一人で挑もうたぁな。さすが、ハッタリ一つで俺たちを倒した男はひと味違ぇや」
片方は普通にパンチで倒したけどね。
「そういやお前、その剣はどうしたんだ?」
「つけ坊の父さん、グンノルさんからもらったんだ。すげぇだろ!でも悪いなジョび太、これ一人用なんだ!」
「グンノル……?」
俺がスネ夫のように剣の自慢をしていると、ジョンの足が止まる。
「どしたジョン、ふと立ち止まって空を眺めちゃって……プロモーションビデオでよくある場面シリーズか?斬新なネタだと思ってるなら悪いが、もうそれは岡崎体育が曲まで作って既に使ってるぞ」
「あ、いや…何でもねぇ。この道を真っ直ぐ行けば……ほれ、シルマの家だ」
そろそろ話のネタも尽きかけて気まずくなりそうだなぁと思ったところに、何やら奥に城のようなものが見え始めた。家って……アレ?
その時、両サイドからガサガサっと音がした。このパターンは……俺は剣に手をかけた。
「心配すんなアマネ。コイツらは俺たちの仲間だ」
ジョンの言うことを信用して待ってみると、出てきたのは昨日のような清楚できらびやかなアケボノの子分ではなく、ヒゲまみれの汚らわしい野蛮な男たちだった。
色んな武器を持っている。主に農具やらナイフやらで、そんなに奇抜なもんじゃねぇけど。にしてもドロボウですって張り紙するより分かりやすい風貌だこと。数は……二十人くらい?いやこの町ドロボウ多すぎるだろ。治安悪っ。
「チッ……ずっと尾けてやがったのかテメエら。ちょっと楽しそうなことがあると分かりゃすぐ嗅ぎつけてきやがる。まあいい。コイツが昨日話したアマネだ」
「はぁい、ハッタリお兄さんのアマネだよぉ、宜しくねぇ」
紹介されたので仕方なく簡潔に自己紹介し、やる気なーくヒラヒラと周りに手を振った。
「ふざけた野郎だが度胸は確かだ。俺たちはこれからコイツと一緒にシルマの野郎のスカしたツラをぶん殴りにいく。お前らも来てくれるか?」
「答えるまでもねぇよ、ジョン!ここにいる奴ら、みんなシルマに対して同じ気持ち持ってんだ!最後まで付き合うぜ!」
「右に同じく!」
「後ろに同じく!」
「斜め前に同じく!」
こんなんばっかりなのかこの軍団。さっさと取っ捕まえろよ警察。
「よし、そんじゃあ乗り込」
「その必要はないよ」
うわ出た。出ましたっ!パワパフガールズZ!
じゃなくて寒気屋さん!
じゃなくてアケボノ!!
遠くに見える城の方から現れたのは、既に俺たちを見下すような視線で白馬のタルタルに乗っているキザ野郎。あの銀髪の嬢ちゃんの姿がないが……。
「あんれまぁ、ターゲットが一人でお散歩ですかな?手間が省けていいね。こっちは歩き疲れたもんで」
「ふっ……まさかセンナに斬られて生きているとはね。さすが、ゴキブリは生命力が凄まじい。だが、一人では勝てないと踏んだのか、そんな下賎なクズどもと徒党を組んで僕を倒しに来るとは、その無謀ともいえる勇敢さと諦めの悪さだけは称賛に値する。とはいえ、君たちのような泥臭いゴミを僕の城に招くのはさすがの寛大な僕でも拒まざるを得ない。だから君たちにはここで無様に死んでもらおう」
「……あ、ごめんちょっと声がネバネバしすぎて聞こえなかった。オクラ納豆が何だって?」
「っ……は、ははは!!バカは耳まで悪いようだね!」
怒らせちゃったかな。一瞬ピキッたよね?意外と短気なんだなこの人。
「んで、ヒカヤとつけ坊は無事なのか?」
「もちろんさ!僕は女の子に乱暴しない。何故なら僕は全ての子猫ちゃんの……たった一人のプリョンゾヌスッ……プリャ、プリンスなのだからぬぁ!!」
しばしの沈黙。
俺はドロボウたちと顔を見合わせた。
「………ぷっ」
誰かが噴き出したのを皮切りに、その場は大爆笑の嵐に見舞われた。
「だーひゃひゃひゃひゃひゃ!!!“プリョンゾヌス”だってよ!!噛みやがった!あんだけ余裕の振る舞いしといて噛みやがったぞアイツ!!よりによってこのシリアスな場面で!!」
反撃のチャンスが出来た俺は、あからさまにオーバーに笑ってみせた。
「このっ……ふ、ふはははは!僕の渾身のジョークは楽しんでいただけたかな!?これが君たちの最後の笑いどころだ!これから君たちには地獄を……」
「うん!とってもおもしろかったぁ!ありがとう、プリョンゾヌスのおにいちゃん!」
「ぶはっ!おいやめろよアマネ!さすがに可哀想だろ……シルマプリョンゾヌスが!あっ、間違えたシルマ王子が!」
「だひゃひゃひゃひゃひゃ!!ジョ、ジョンさんも全力で馬鹿にしていく構えでいらっしゃるじゃないですかぁ!!腹痛い腹痛い!!さあ、みんなでプリョンゾヌス神に崇拝のお歌を捧げましょう!レッツ、プリョンゾヌスコール!はい、プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!」
「プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!ほらジャック、お前もやれ!アマネだけにプリョンゾヌス神さまのご寵愛を独占させてたまるか!!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!」
画面の前の皆様もご唱和ください。
「プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!」
「プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!」
「プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!」
「このっ……貴様らいい加減に……!!」
「「「「「プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョンゾーヌス!プリョ」」」」」
「いい加減にしろおおおおおおおおおお!!!」
あ、キレた。プリョンゾヌス神がついにキレた。
「怖ぇ~。プリョンゾヌス神のお怒りマジ怖ぇ~。ぞくぞくぅ~」
「黙れ!!僕をここまでコケにしたヤツは初めてだ!出てこいお前たち!!」
瞳孔ガン開きのアケボノが叫ぶと、またしても奥から二十ほどの騎士たちが押し寄せてきた。あっという間に囲まれる。最初から来ればいいのに。
「こんだけ言われて他人頼りとか(冷笑)」
「黙れと言っている!!貴様だけは絶対に許さんぞ、カタカゲ アマネ!本来ならばここで切り捨てて然るべきだが、特別に城に入ることを許可しよう!最上階で待っている。愛する妹君が見ている前で、君を無惨に殺してあげよう!まぁ、まずはその状況を抜け出せるかだがな!ふーはっはっはっはっはっはっは!!」
「ばいばいプリョンゾヌス神」
アケボノはボソッとそう言った俺を殺人鬼のような目で睨むと、タルタルに乗って行ってしまった。青筋出てた。
「さて、ちょいとオイタが過ぎたようだな、アマネ」
「いんや、俺たちがバカにしようがしまいが、どうせこうなってたろうさ。さて、どうしたもんかね?」
「行け。アマネ、ジョン、ジャック」
ドロボウ軍団の一人が、黄色い歯を見せてそう言った。
「お前らっ……」
「何だジョン、こんなキザってぇ奴らに俺たちが負けるとでも?」
「…………うん」
わお正直。
確かに数的には拮抗してるけど、向こうはエリート揃いじゃろ?そんなの勝てるわけ……。
「はっ、冗談だ。そういうことならここは任せるぜ!温室育ちのエリート野郎たちに見せつけてやれ!コイツらの陰でドロをナメて生きてきた俺たちの底力をな!!行くぜ!アマネ、ジャック!!」
「右に同じくなのですっ!むむむぅ、待ってろなのですシルマおにいちゃんッ!!」
素晴らしい友情。ちょっと泣きそうになっちまった。
こうして俺たち三人はゴロツキどもに背中を任せ、プリョンゾヌス神のおうちに突入した。
何でジャックは急に萌え路線に。