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十体目 金がなければ並盛にすればいいじゃないっ!

「……くん……アマネくん!」


 必死に俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。


 何で生きてるんだ俺は?確かスイカが羨むほどに見事に一刀両断されたはずじゃ……。


「シリカ……さん……」


 目を開けると、潤んだ瞳で俺を見つめるシリカさんの姿があった。


 一瞬、つけ坊の姿が重なった。


「うーん……あと五百分だけ……」


「ちょっと!寝ちゃダメ……って8時間20分!?この状況でよく瞬時に二段ボケなんてできるわね!!」


 起き上がろうとすると体に激痛が走った。


「動かないで!酷いキズよ!!」


「でしょうね……肩からバッサリいかれたんで。なのに何で俺は生きてるんでしょうか……?いや、もしかしてもう死んでるんですかね?んで目の前にエンマ大王が……」


「誰がエンマ大王ですってぇ!!ボケるのやめなさい!芸人だってこんな傷で笑いを優先したりしないわよ!!虫の息だったから急いで治療したばっかりなの!!お願いだから無理はしないで!なんかボケもさっきからあなたにしては酷くありきたりだし!危ないわよこのままじゃ!」


 斬られた箇所に包帯がグルグルと巻かれてあった。あれだけの傷なのに急に動かない限りは痛みもほとんどない。凄いなシリカさん。


「急いで治療って……でも俺が斬られたのは、家から遠く離れたあの場所で……」


「あの場所?昨日君たちが家を追い出された後でいた場所か?そんなはずはない。君が倒れていたのは、すぐそこだったぞ?」


 グンノルさんが神妙な面持ちで言った。その服には俺のものであろう血がベットリと付着していた。


「嘘だ!そんなはず……!」


「嘘なものか。君たちを見送る前から、何やら妙な胸騒ぎがやまなくてね。我慢できなくなり、急いで後を追い掛けようとしたのだが……家の近くでアマネくんが倒れていたのを見付けたのだ」


「そうだったんすか……」


 グンノルさんも俺と同じ胸騒ぎを……。とにかく首の皮一枚つながった。あのままだったら死んでも死にきれなかったからな。


 でも、俺を家の前まで運んできたのはいったい……?



「ねぇアマネくん……あなたの方こそ何があったの?」


「え、昨日の昼間にこの世界に飛ばされて来たんですけど……どうしたんすか急に」


「誰が今そんな初期設定について確認するのよ!いい子だからボケやめなさい!!なに、呪われてるの!?」


 俺はシリカさんとグンノルさんに事の顛末をすべて話した。


 二人はそれを聞いて絶望したような表情を浮かべた。


「なんてことなの……シルマ王子、噂以上の極悪人間じゃないの……!どうしましょう、ヤンヤンとヒカヤちゃんに何かあったら……」


「だから嫌いなんだ……あのキザ王子は!!」


「大丈夫です、お二人とも。俺が……必ず何とかします!」


 マンガだったらババン!と効果音がつきそうな勢いで宣言してみせた。


「無茶よ!アリがティラノサウルスを倒すと言ってるようなものだわ!!ゴミ1グラムが金塊100キロより高く売れることは世紀末になっても有り得ない!汚水一滴を太陽に落としても太陽は汚せないのよ!!」


 え~そこまでボロクソに言う?


「行かせてください、シリカさん。今回のことは俺の責任です。あなたの……あなたたちの“宝物”と、俺の“宝物”は……俺が根こそぎ奪い返してやります!」


「アマネくん……分かったわ。じゃあコレを飲みなさい。この町に代々伝わる特効薬よ。飲むとみるみるうちにキズが塞がるわ」


「最初から治療せずにこっちを渡してほしかありがとうございます遠慮なくいただきます」


 本音を薬と一緒に飲み込むと、シリカさんの言った通り、包帯の下にある傷がシュウッと消えていくのが分かった。


「すげぇ……RPGみてぇ。どんな特殊な魔法が……」


「楽になった?じゃあ、行くわよアマネくん」


「え!?ちょ、ちょっとシリカさん!」


 シリカさんがダッシュで外に出ようとするのを、俺は必死で止めた。


「“行くわよ”って……まさかシリカさんも行くつもりですか?危険です!俺一人で行きますから!」


「娘が危険な目に遭っているかもしれないのに、ここで何もせず待ってろっていうの!?そんなのっ……」


「アマネくんに託そう。シリカ。ワシらが行っても足手まといになるだけだ」


 グンノルさんが立ち上がりそう言うと、のしのしと二階に上がっていった。


「でも、でも……今度こそ……死ぬかもしれないのよ?」


「承知の上です。お二人まで危険な目に遭わせたら、つけ坊が悲しみます。俺がアイツらを連れ帰ってきます。だからシリカさんは、朝みたいにおいしいご飯を作って、待っていてください」


 シリカさんは迷っている。そりゃそうだ。ついさっき死にかけで帰ってきた奴を一人で行かせる気にはなれないのは普通のこと。


「でも、あなた武器も何も持ってないし……」


「武器ならあるさ」


 グンノルさんが何かを持って降りてきた。


「これを持っていきなさい」


 手渡されたのは、黒と金色の鞘に納められた、まるで日本刀のような立派な剣だった。思わず生唾を飲み込むような迫力があった。


「これは……」


「いざ娘を守る時になったら使おうと思っていたのだが……君に授けよう。ワシらの大事な娘を、君の妹を、あのクズ王子から救ってくれ。任せたぞ」


「……任されました、グンノルさん」


 そしてシリカさんを見る。こちらと目を合わせてくれない。


「……勝算は……?」


「未知数ですな、よくも悪くも」


「そう。それは残念だわ……はっきりゼロじゃないなら止められないもの。まったく……全滅なんかしたらあの世まで説教しに行ってやるからね」


「いやはや、そのルートだけは避けねばなりませんのう……いでっ!」


 シリカさんは決心したように顔を上げ、俺の背中を思いっきりひっぱたいた。


「景気づけの一発よ!若者はそんなシケたツラしてないで、やるなら思いっきりぶつかってきなさい!薬は持てるだけ持っていくこと。シリカさん特製の美味しい料理が食べたいなら……門限までに三人で帰ってくるのよ!じゃないと全部、この人の酒のツマミになるからね!」


「はいよ。三人前とも、愛情ダクダクで頼んますぞ」


「あら……15歳以上は別料金よ?」


「あ、やっぱ一つは並盛で」


 俺は特効薬と剣を携え、一世一代の大勝負へと足を踏み出した。



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