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拝啓、お姉さまへ  作者: 一華
4月
8/52

お姉さまに聞きたいことがあります! 3

「今日、2年生にペアになるつもりだって宣言されたよ」

「え、そうなの?」

幸さんの驚いたような顔につられて、薫さんをまじまじと見る。

「なんか面倒そうでさ。あれ、断ったらダメなのかな?」

「えぇ??うーん」

考え込むように幸さんは、一度潜ってから、火照ったような顔でお風呂場から上がった。

「はぁーもうきついー。続きは外でお願いしますー!」

はふはふと、手で風を送る様子に、薫さんと顔を見合わせ、笑って後を追い出る。

「そういえば、なんか助言者(メンター)制度って、部活とか先生ぐるみで話が来たりするから断りにくいみたいだね」

頬の赤い顔で幸さんが言うと

「そうなの?」

苦笑した薫さんが、まいったなーとロッカーへと歩いていった。

脚が長いので、すすっと追い抜かれた感じだ。

逆に幸さんはぽてぽてと、子犬のような歩き方だ。


「昔の姉妹制度の時は、誰でもお姉さまになれたし、2人の同意が重要だったみたい。もしかしたら断りづらいことくらいはあったかもしれないけど。今は助言者(メンター)は、学校からの認定がなきゃなれないでしょう?だから先生たちも、なるべく組み合わさるようにバックアップするんだって」

「幸さん、詳しいの?」

「ううん。そうらしいって学園に来る前に常葉OGの親戚が言ってたの。私は昔の常葉学園の話を聞いてて、なんか素敵だなぁって思ったんだ。なんかほのぼのしてて。でも、今は進学校らしく結果重視してるみたい」

はふーと息をはいてから、髪を乾かし始めた幸の横で、寝巻きなのか部屋着なのかジャージにタンクトップ姿の薫が、わしわしと髪をふいている。


「もしかして幸さん、昔の常葉学園の話を聞いて受験したの?」

「そういうとこもあるなー。うちの両親が海外転勤になって、一緒に来るか残るかの話になったんだ。従妹(いとこ)がこっちに住んでるから、この辺で高校探すことになって。なら親戚から聞いたことある常葉学園が良いなって思ったの」

「従姉と一緒に住む話にはならなかったの?」

「それは私が困るのー!ものすごく面倒臭い、いっつもからかって来る人なんだもん。寮が良いー!寮最高っ」

ぶんぶんぶん、と首を振る様子が、可愛いが一生懸命だ。その人が本当に嫌なんだろう。

しかし、知っていて常葉学園に来た幸さんは、助言者(メンター)制度について、どう思っているんだろう?

私は幸さんを見た。


「幸さんは、ペアになってくれる助言者(メンター)が欲しい?」

「ほへ?うーん。欲しいかなぁ。えへへ。実はちょっと憧れてるの。でも、来年上級生に進級して助言者(メンター)になれる自信ないから、誰からも選ばれない気がする」

そう言うととほほ、と肩を落とす。見てない耳やら尻尾が、垂れたみたいでなんだか撫でたい気持ちになった。

「幸さんは大丈夫みたいな気がする」

「私も」

小動物は可愛がられるはずだ。

思わず言葉にすると薫さんも深々と頷く。

幸は意味が分からなかったらしく、柚鈴と薫さんの顔をえ?え?え?と見比べてる。


短髪のため、ドライヤーをざっくり使って終わらせた薫さんは、立ち上がった。荷物をまとめ、さっさと出ようとしたのを幸さんが引き止める。

「行っちゃうの?」

なんとも悲しげな目で見られて薫さんは固まった。

捨てられた子犬みたいな目だ。

捨てるか?拾うか?のような決断を迫られているようだ。


結果、薫さんは小さくため息をついて、幸さんが使っていたドライヤーを奪う。

「遅い」

捨て犬を拾う、もとい待つことに決めたらしい薫さんはヤケクソのように、勢いよくドライヤーで幸さんの髪をくしゃくしゃにしながら乾かしていく。

「はわわわわ」

子犬こと、幸さんのおかしな声が聞こえる。

とても面白いがこれを見ていたら、私が遅くなってしまう。

2人が戯れてる間に、柚鈴も自分の髪を乾かしてしまった。

どうにかお風呂タイムを終えた頃には、二年生が何人かお風呂から上がってきていた。

大浴場を出て、食堂の前を通ると

「そこのゆっくりした一年生、寄っていかない?」

遥先輩から声を掛けられた。

奥には常葉学園のセーラー服に身を包んだ見知らぬ人が座っている。

長くまっすぐな髪を一筋の乱れも感じないポニーテールでまとめ、つり目がちの凛々しい表情。

誰かな?

「今、我が寮の副寮長かつ高等部生徒会長である、長谷川凛子(はせがわりんこ)が帰ってきた所なのよ」

「止めてよ、遥。さっきから一年生が通るたびに」

遥先輩が芝居がかって説明すると、紹介された凛子先輩はため息をついて、立ち上がるとこちらに微笑んだ。

「初めまして。高等部3年、長谷川凛子です。ご紹介頂いた通り生徒会長をさせて頂いてます。とはいえ、寮で『生徒会長』なんて呼ばないでね」

確かに生徒会長と言われれば、これ以上生徒会長らしい人もいないかもしれない。

実に堂々とした様子で、響く声をしている。眼光鋭く、威厳ある容貌だ。


高村薫(たかむらかおる)です」

春野幸(はるのゆき)春野幸(はるのゆき)です」

小鳥遊柚鈴(たかなしゆず)です」

つられるように名前を名乗り、3人でよろしくお願いしますと頭を下げた。

凛子先輩は何かに反応するようにまっすぐ柚鈴を見てくる。

視線が、今日の誰より、痛い。

やっぱりこれも、苗字に反応しているんだろうか?


「1年生はこれで最後ね。あなたたち、入寮祝いに凛子が自販機の飲み物をどれでもご馳走してくれるそうよ。どれが良い?」

「なんだか今日はそういうことになってしまったのよ。良ければ皆さんどうぞ」

「良いんですか?ありがとうございます」

遥先輩がふんわり笑って促すと、凛子先輩が自販機にお金を入れる。

幸さんは早速、飛びつくように、自販機の前で飲み物を選び始め、薫さんは迷わずコーヒー牛乳の紙パックを選ぶ。

出遅れた柚鈴に、凛子先輩がどうぞ、と自販機の前に手招いた。

「柚鈴さんは、どうする?」

「あ、じゃあオレンジジュースを」

悩み続ける幸さんを追い越す形でオレンジジュースの紙パックを自販機から取る。

慌てたのは幸さんだ。

「ぅぅ!待って、待ってて。そして飲んで行こうよ」

「待つから、あんたは早く選びなさい」

薫さんが席に着くので、柚鈴も笑って隣に座った。

「なんか、あの子。実家の豆柴に似てるわ」

薫さんが、やれやれとため息をつくと、凛子先輩と遥先輩がテーブルを囲むように向かい側の席に着いた。


「みんな凛子に恐縮したのか、飲み物持って早々と部屋に帰ってしまったのよね。あなたたちで最後みたいだし、ご一緒してもいい?」

遥先輩はちゃっかり紅茶の紙パックを持っている。

「ごちそうさま、凛子」

「はいはい」

『ごちそうさまです』

薫さんと柚鈴が2人でお礼を言った後に、ようやく幸もイチゴ牛乳を選んで来た。

「いただきまーす」

幸せそうに一口飲んで、美味しそうに頬を緩める幸さんは子供のようだ。

「なんだか、イチゴ牛乳も喜んでそう」

思わず私が口にすると、薫さんがニヤリと笑う。

幸さんが意味がわからない風の顔をしている。

きょとん、とした顔が可愛らしいのだ。

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