お姉さまは有名人? 3
「それは、助言者助言者制度よ」
市原寮長は言葉をつなげる。
「助言者というのはね、先生とは別に、歳の近い先輩が後輩に一対一で不安や悩みを聞いてあげたり、生活の指導をする制度のことよ。助言者が相談される側の先輩、ペアの後輩はメンティーといって相談する側なの」
「は、はあ?」
聞きなれない言葉にピンと来ずに首を傾げてしまう。
「助言者制度は社会に出てからも使用している企業がある制度よ。常葉学園では昔は姉妹制度と言われていたみたい」
「いわゆる『お姉さまと妹』みたいな感じで、先輩と後輩が姉妹のように仲睦まじい関係を築いていたんだって」
お姉さまと妹?
いわゆると言うには一般的なのかもしれないが、柚鈴には全く馴染みない言葉だ。
どう頑張っても、お花畑のイメージしか浮かばない。
もう私のイメージの限界。
「理事が変わってからは、成績や成果に重点を置くようになって。助言者側になれるのはある程度の成績優秀者か部活動で結果を残した人だけになったの。まぁ指導する立場になるわけだし当然よね」
「常葉学園が進学校になったから、ということですか?」
「そう。以前の常葉学園での姉妹制度は、コミュニケーション能力や躾や作法の強化という色合いが強かったから、今後の方針とは違うと判断されたみたい」
「そうなんですね」
「とは言え、姉妹制度で結ばれていた時の下級生は、助言者制度に変わっても、自分の後輩のそのまた後輩まで、上級生に教わったことをそのまま伝えていきたいと思う場合も多いのよ」
遥先輩は肩を竦めてみせた。
「それだけ、ペアの絆が強いというか。歴史ある常葉学園の昔のOGから教わったことをそのまま教えるたいと望んで、学園公認の助言者になろうとする生徒も少なからずいるの」
「え?まさか、その教わったことの中に上級生の呼び方も入るんですか?」
「そうよ。ペアの上級生やその繋がりの先輩、OGを『様付け』や『お姉さま』と呼ぶのも、代々その教えにしている人たちがいるのよ」
「あ、つまりそれで家系」
「メンター制度に置いては、メンタリングチェーンというけど、常葉学園では昔からの伝統で『家系』というわね。私のペアだった方は、やっぱりシスター制度の時から続いている家系を持った人だったの」
「すごいでしょう?」
目を輝かせて、楽しそうな花奏さんに、遥先輩は苦笑する。
「花奏みたいに楽しむ生徒もいるけど、私は別に続けなければとは思っていないわ。でも、絶対に絶やさないでと欲しいと願うOGからの干渉もあったりするから、その辺りはちょっと複雑なのよね」
確かに、受験前に学校説明でもらったパンフレットでも、常葉学園はOGとの関わりが強い印象がある。学園の敷地を大きく使った同窓会館での行事ごとも多そうだ。
それって私立独特の大人の事情でもあるわけ?
疑問にも思う。
「それは学園公認ということですか?」
「OGからの干渉については、公認というより黙認ね。助言者になるにはある程度成果を上げることが必要だから、努力するようにとハッパをかけてくれる存在はマイナスとは言えないもの」
「そ、そうなんですか」
曖昧に笑うと、市原寮長はにっこり笑った。
「まあ、一代限りで終わる人達もいるから、気にしすぎることはないわ。私達は家系ごと楽しんでいるし」
花奏さんを見ると同意するようにニコニコしているから、まあ確かに楽しんでいるんだろう。
満開の花のような笑顔で説明に加わる。
「助言者として認定されると、学園からバッチを二つ貰えるんだよ。その片方をペアになる後輩に渡して、二人で襟元につけるの」
あ、あれ?
どこかで覚えがあるような物が話題に出て、部屋の中の制服の襟元を頭によぎらせる。
それって、もしかして、もしかしなくてもまさか…?
我慢できず挙手して、どうぞと促されると勢い良く尋ねた。
「あの、襟元につけるバッチってもしかして、翼のデザインのバッチですか!?」
「あら、知っているの?」
ああ…!?
肯定する遥先輩の言葉に、言葉を失う。
ついつい、ちらりと制服を振り返ってしまう。
入り口の外にいる二人には見えないが、志奈のお下がりセーラーには、先ほど付けたばかりの両翼の翼のバッチが飾られているのだ。
つまりこれが常葉学園の助言者制度に加わってる証なのだろうか?
そうすると、なんのつもりでこれを渡したのか分からない。
もうすでに、特定の上級生がいますよ、というダミーにしろというのだろうか?
そうだとすると、あんまり良策な気がしないよ、志奈さん。
困惑した様子の柚鈴を不思議そうにしながらも、ああ、そうだと遥先輩は言葉を足した。
「確か柚鈴さんは外部受験からの入学で、しかも特待生だったわね。きっと助言者になった人からペアにどうかって声を掛けられるわね」
「え?私、ペアのメンティーとかいうものになるんですか?」
「同じような条件の人は、ほとんどね。外部受験からの新入生は、中等部の子に比べて常葉学園に馴染むのも時間が掛かると思われるもの。それに特待生は学力があるから来年度助言者になる可能性も高いわ」
「そ、そうなんですか?」
来年度のことなんて、全く考えてなかっただけに、なんだか気が重いんだけど。
助言者になることを見込まれてしまって、声を掛けられるとしたら、大変そうだ。
「助言者はペアをなるべく持つことを望まれるから、先生の方から紹介されて薦められる場合もあるわ。待っていても良いし、どなたか気になる先輩がいたら思い切って声をかけてもいいわね」
もしかして、ペアになりたがってると思われたのだろうか?
なりたいとかなりたくないとか以前の、義理の姉の仕掛けた謎の行動に挙動不審なだけです!
どちらかと言えば気が重いです!
…なんてことは言わないし、言っても意味がない。
もの言いたげな顔が分かったのか、遥先輩は安心させるように笑った。
「別に望まないのならそれでも良いのよ。どちらでも。まずは学園生活を楽しみましょう」
ふわりと笑う表情は、確かに上級生の頼りがいのあるもので、ほっとする。
それにしても、と志奈の言葉を改めて思い出す。
外部受験生は色んな上級生に目を付けられるというのは、やはり#助言者__メンター__#制度のことをさしているのだろうか?
この様子だと、少しニュアンスが違う気がする。
バッチをくれた意味も分からないし、志奈に一度聞いてみた方がいいのかもしれない。
後で電話してみようと気持ちを決めて、遥先輩へと向き直った。
「そうすると、遥先輩となかに...花奏、ちゃんは、その助言者制度のペアのご関係なんですか?」
「私がペアの相手は、この子の助言者なのよ」
あ、あれ?分からなくなってきた。
戸惑っていると、顔に出ていたのか市原寮長はゆっくりと整理してくれる。
「私は四月から3年生。で2年生の子にペアの子がいるの。小牧と言うんだけど。その子もまた4月から助言者になるのよ。小牧は中等部から常葉学園出身でね、将来ペアを持つことがあれば、相手はこの花奏と前から決めていたそうよ」
そうなんだよ!と花奏さんは明るい声を上げる。
「去年、遥様とその小牧ひとみ様がペアになった時から、遥様の家系に入ったつもりでいたんだー。もうすっかり馴染んでるでしょう?」
確かにとても馴染んでいる。
それも去年からの関係と言われれば、納得だ。
ということは、中等部の頃から寮に出入りしていたんだろうか?
花奏さんならあり得るかもしれない。
「花奏ちゃんは、助言者にならなきゃ、とかプレッシャーとか感じないの?」
「全然?」
ケロリとした風に言うと、遥先輩は苦笑した。
「私はどこかの代で終わっても気にしないから。でも花奏は、中等部の新体操部のエースで高等部でも部活動に専念すれば結果を残すでしょうね。やる気もあるし、なるんじゃないかしら?」
えへっと花奏さんが笑顔で同意する。
「私、頑張りまーす!」
「まぁ、一年生がメンターになるのを目標にしなきゃいけないわけでもないから、気楽に頑張ればいいのよ」
ふわりと笑った遥先輩が目を細めて、花奏さんの様子をどこか愛おしそうに見つめた。
成長を見守ろうとする温かな眼差し。
なんだか、少し、羨ましく感じた。




