表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、お姉さまへ  作者: 一華
5月-序
48/52

一歩進んで 2

早朝、目が覚めて天井を見れば、一瞬どこか分からなくなる。

ずっとお母さんと二人で住んでいたマンションでもなければ、清葉寮でもない。

しばらく天井を見つめてから思考を巡らせ、ここが小鳥遊家の天井だと気付く。


柚鈴にとっては広すぎる一人部屋。

寝返りを打ってから、フカフカのベッドの中で思考がクリアになっていく。


一人だな、と思って寂しくなる。


もっと部屋が狭ければ、逆に安心するのだが、広すぎる部屋は孤独な気持ちにさせる。

お母さんと二人暮らしの時は、同じ部屋で寝起きが一緒だった。それが当たり前すぎて、人の気配の薄い広い部屋が酷く冷たく感じる。

寮の狭い部屋であれば、逆に隣の物音も偶にするくらいで、逆に安心させてくれた。

そういうのがない。


志奈さんは、どうだったんだろう。

この広い部屋で、広い家で中学生までオトウサンと二人。

想像もつかない。

広い部屋が寂しいなんて感じるの、私だけなんだろうか。


目を閉じて、もう一度眠りにつけるか待ってみる。

眠れるだろうか。


今日はお母さんの朝ごはんが食べれる予定だ。

炊き立てのご飯とお味噌汁は絶対にあるだろう。

あとはお惣菜が一、二品だろうか。

シンプルな朝ごはんは、作った人の味になる気がする。

炊いただけのお米にしろ、もちろんお味噌汁もそうだし、例えば卵焼きとか、煮つけとか。


オトウサンのお蕎麦も美味しかったし、志奈さんの親子丼だって美味しかった。

でも、まだ。いや、これからも。

お母さんのご飯が一番好きで、美味しく感じるんだろうと思う。


そんなことを考えていると、なんだかお腹が空いてくる。

時計を確認して、うん。やっぱり起きるには早い。

だから、もう少し眠らなきゃいけない。

柚鈴は寝返りを打った。


昨日は、志奈さんと母の日の造花を作る材料と、オトウサンの果実酒を作る材料を買いに出かけて、どちらも用意をした。

オトウサンの果実酒を作る用意は、思ったより簡単で、これは他になにかしてあげたほうがいいような気がしている。

希望通り、オトウサンの洋服を見立てても良いのかもしれない。

男性の服なんて、よく分からない気もするけど。

でも喜んで貰えるなら、頑張ってみるのも悪くないはずだ。


お母さんのために作るカーネーションは、ついつい数を増やしてしまい、結局リボンにして飾るための紙にメッセージを書き込むのは夜遅くになってしまった。

先に書き終わった志奈さんのメッセージは、すでに飾られている。柚鈴が書き終わった後、その紙をたたんで、リボンのように飾る時に目についた。

志奈さんは赤い紙。私は桃色の紙に。

籠に飾られた、いまはまだ内緒のお母さんへの手紙。


志奈さん、何を書いたんだろう。

ベットから見える、机の上に置かれた花籠が少し気になる。


お母さんへの感謝を、こうして誰かと文字にするということ。

特別な時間をシェアすること。

きっとこういうことも、家族が増えるということなんだろうと思った。


それは決して嫌なことではない。

じゃあ、何かが嫌なのかと言うと。


やっぱり、この部屋で一人朝を迎えていること、だろうか。

矛盾しているようなことだけど、そんな色々を感じているのは事実で。

広い部屋が嬉しい!なんて感じる私より、無駄な空間だなあと感じてしまってる拗ねた私がいる。


よしよし、仕方ない。

今は全部、自分の中に閉まっておくので、許してあげることにした。

私が、私を許してあげないと。


例えば、一人が寂しいと言って、志奈さんの部屋に行けば喜んで迎えてくれるかもしれないけれど。

それは、なんか嫌だなと思って、笑ってしまう。

今は私は、こういう寂しさに一人で戦いたいし、いつか戦わなくてもいいように、強くなりたい。頑張りたい。


強くなるためには。


まずは良く寝て、美味しいご飯を食べて、それからお母さんのために、今までで一番美味しいカレーを作ること。

きっとそうなんだろうと思った。


温かいベットの中で寝返りをもう一度打つと。

柚鈴は目を瞑って、誘われるままに眠りについた。


カレーパウダー、コリアンダー、ガラムマサラ。

クローブ、クミン、ナツメグ、それから鷹の爪。

果物やココナッツオイルや諸々を並べて、柚鈴は楽しそうに笑った。

寮で食事を作る機会はないし、こういったスパイス類も勿論ないので、久しぶりだ。

カレーの材料は、なんだか柚鈴を楽しくさせる。

肉は鶏肉、包丁やまな板と準備を始める。


「僕はとびきり辛くなくていいからね」

料理を始める前の柚鈴に、早々に言ったのはオトウサンだ。

「普通の、普通に辛いので充分だから」

念を押すように言ったオトウサンに、志奈さんが眉を#顰__ひそ__#めて反論する。

「お父様、そんなことでいいの?辛くても食べようとする気持ちが大切なんじゃない?」

そういうと、オトウサンは小さく両手を上げて、降参の意を表した。

「いや、僕はもういい。志奈は知らないだろうけどね、僕は柚鈴ちゃんと百合さんがよく行くカレーやさんに行って、一番辛いカレーを食べたことがあるんだよ」

「そうなんですか?」

その話は初耳で柚鈴が聞くと、オトウサンは重々しく頷いた。

少々、苦い思い出であるような反応だ。

思い当たる所があるのだろう。お母さんは、何も言わずに笑って聞いている。


「美味しかったよ。美味しかったけどね、本当に辛くて途中で味が分からなくなってくるし、量が多かったのもあったけど、ちょっと全部完食するのは難しかったよ」

「ああ…そうですよね」

その言葉に、柚鈴は納得した。

お店の人が、初心者にはお勧めしない程に辛いカレー。

一口目は甘味すら感じる。辛さも辛くて美味しい、と柚鈴は思っている。

お母さんもそう思っているようだけど、やっぱり辛さがつらい、と思う人も多いはずだ。

しかも量もかなり多い。辛くなればなるほど多い。

その量の増減は、実は足される唐辛子などの量らしい。

一番辛いカレーだとしたら、さぞ多かっただろう。


ちなみに、お店のカレーは量の面から柚鈴も一人前を全部食べることはできない。

一人前をお母さんとシェアし、後はサイドメニューを頼むようにしている。

ただ、頻繁に行って一人前をシェアするのは少し申し訳ない気がする。

それもあって、一人が食べれる量を調節できる、家でのカレー作りに至ったという経緯もあるのだ。


「志奈、お前知らないだろうけど。今日のカレーだって、まず普通にスープカレーを作ってから、唐辛子とか鷹の爪を足していくんだよ。普通のカレーだって、そこそこに辛いんだから、無理する必要はないと思わないか?」

「……お、思わないわ。というより、尚更普通じゃないカレーを食べたくなってきたくらいよ」

志奈さんが、一瞬怯んだものの断固譲らないので、オトウサンは肩を竦めた。

言い出したら聞かない、というより、オトウサンがすでに体験した、柚鈴とお母さんの普通を自分も体験したい、という所だろうか。

うん、きっとそうに違いない。


「何にしろ、僕は普通の辛さでお願いします」

「わかりました」

話を聞いていたお母さんがクスクス笑う。

柚鈴はとりあえず、普通のカレーも二人分作っておくことにした。

余ったら、タッパにいれて寮に持ち帰ればいいのだ。

「本当に手伝わなくていいの?」

「いいの。一応、前倒しの母の日だから」

それにしても、と柚鈴は付け加えた。

確かに広い台所だが、目の前に大人が3人もいるのだ。

なんでこの家族は、台所に集まってきているんだろうと、呆れたように目を向けた。



「みんな、リビングにいていいんですよ」

邪魔とまでは言えないが、思わず率直に言ってしまった。


料理を作る姿を見守ろうとする保護者。

それがここでは3人もいたようだ。反論が出る前に。


「というか、リビングにいてください」

重ねて、嘆願の気持ちで言葉を重ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ