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拝啓、お姉さまへ  作者: 一華
4月
33/52

お姉さまと一緒に 2

「良かったあ」

柚鈴の部屋に入ると、幸はほっとしてようにため息をついた。

二人で床に座り込んで脱力する。

「うん、良かったね。これで薫も明日からは陸上部に戻れそうだし」

「うんうん。大学までつけたこともばれてないみたいだったし」

「つけてたのか」

ぱっと扉が開いて薫が覗き込み、幸が固まる。

「なるほど。私が言ってないのに、凛子先輩が大学に行ってたことを知ってたわけだ」

「か、薫!勝手に部屋に入るのは良くないと思うよ!プライベートだよ!」

「幸。あんた、どの口でそれを言ってるの」

「はう」

痛いところを薫に突かれて、幸は言葉を失った。

まあ確かに後をつけた私たちがプライベートを主張しても仕方ない。

「ごめんね」

柚鈴が床に座ったまま謝ると、薫は肩を竦めて、柚鈴のベットに腰を下ろした。


「まぁ、いいさ。ことは収まったんだし。でもどうやったの?」

「え?」

「え、じゃないよ。今回の件どうやって収めたの?」

「それはえっと」

幸が言葉につまり、柚鈴が困ったように笑った。

「一応、先輩方には内緒にしなきゃならないんだけど、いいかな?」

「は?そうなの?」

薫はそう言うとドアを開けて、外で誰か聞いていないか確認してから、再度中に入った。

「いいよ。私は幸よりかは顔に出ないから大丈夫」

「正直者なんだよ」

幸が()ねたように言ったのに思わず笑ってしまいながら、柚鈴は昨日の話を薫に聞かせた。


「へえ」

話を聞き終わると、納得したように薫は頷いた。

「そりゃ、幸のお姉さんには随分、世話になったんだな。真美子さんって人が、黙っておいてくれって言ったのも了解したよ。確かにこんなに見事に収める人が前生徒会長じゃあ、凛子先輩も気苦労もプレッシャーも絶えないだろうね」

「志奈さんはそういうのは全然気にしないみたいだけに、私には凄いのか凄くないのか分からないよ」

柚鈴が正直に言うと、薫は気にしないように笑った。

「大物なんじゃない?まあ、私はお陰で助かったからどっちでもいいけどね」

「そういえば、真美子さんって」

幸が思い出したように言い出した。

「去年の生徒会副会長さんだねえ」

「そうなの?」

「そうだよ。柚鈴ちゃんにも見せた文芸部の部誌に載ってた一人だもん」

部誌というと『憧れのあの人〜神7(かみセブン)〜』のことだろうか。

それに関しては、ほとんど志奈さんのページしか見てなかったから、全く気付いていなかった。

「そうか。生徒会にいたから、凛子先輩たちのことも気にしたんだね」

納得したように頷いた。

「笹原真美子さんは『氷の才媛』って出だしだったんだ。前生徒会長である志奈さんの参謀とも言える唯一無二の存在らしいよ」

幸は部誌の内容を思い出しながら言う。

「参謀って歴史小説かなんかみたいだな」

薫が微妙な顔で言うと幸は、困ったように笑った。

「そこは文芸部ならではの装飾かもね」


とは言え『氷の才媛』とは良く言ったものだ。

あの冷静な、頼もしさはあるが冷たく感じる視線を良く表している。

しかしあの様子だと、志奈さんが真美子さんの存在を認めながらも、話をたまに聞かずに好きにやってる気がする。

なんだか申し訳なくなってきた。

とは言え、柚鈴がコントロール出来る話でもない。


「幸は良く覚えてるね」

「なんか物語みたいで面白くて」

幸はキラキラと目を輝かせた。

「そのうち、陸上部エースたる薫も何か通り名がついちゃうかもねー。文芸部部誌に載ってさぁ」

「冗談でしょ?」

薫は実に嫌そうに顔を(しか)めた。

幸はふふっと笑う。

「つかなかったら私が付けちゃうから安心して」

「余計迷惑だって」

薫は唸って幸を威嚇した。二人できゃっきゃと戯れてから。

ところで、と柚鈴に目線を振ってきた。

「志奈さんとか、真美子さんに何かお礼が出来ないかな?」

「お礼?」

首を傾げると、薫は頷いた。

「凛子先輩や遥先輩もだけど、やっぱり迷惑掛けたわけだし、お礼くらいしたいわけだ。まぁ2人の先輩方には、今度の大会で新記録だせばそれで良いと言われちゃったけどね」

薫が肩をすくめて見せるが、自信がなさそうではなかったりするので流石だ。

きっと軽く請け負ったのだろう。


「うーん。志奈さんは甘いものとか好きみたいだけど、真美子さんはどうなんだろう?部誌は何か書いてなかった?」

幸に聞くと、思慮深げに考え込んで見せた。

「書いてあったよ。真美子さんは、貰って嬉しいものに書いてあったことが、印象的だったんだ」

「何?」

「物に込めなくても伝わる気持ち、だって」

「え?」

その抽象的な言い方に目を瞬かせると、幸は考えながら言葉を繋いだ。


「多分、もの、とかじゃない方がいいんじゃないかな?物も喜ぶかもしれないけど、物に頼ってしまったらダメなんだろうなって思った」

「なんか、難しいね」

幸はふんわり微笑んだ。なんとなく、真美子さんが言うことも分かるんだろう。

「そう言えば、志奈さんの貰って嬉しいものって何だった?」

「えぇ!?柚鈴ちゃん、ちゃんと見てなかったの?」

「その辺りは全然」

そう答えると、幸は呆れたように息をついた。

それから柚鈴の反応を伺うように、目を輝かせた。

「志奈さんは、欲しいものっていう質問だったんだよ」

「へぇ。それで?」

相槌を打って聞くと、幸はふふっと笑った。

「妹」

「は?」

「志奈さんの欲しいものには、『妹』って書いてあったんだよ」

その言葉に絶句すると、幸はクスクス笑った。

「柚鈴ちゃんのお姉さんは、柚鈴ちゃんが喜ぶだけで満足そうだね」

「......」


なんというか、志奈さんはブレないな、と思ってしまった。

あのアンケートに答えたのはいつなんだろう?

柚鈴のことを知る前か後なのかだけが少し気になった。

そうだ、と幸は閃いたように言った。

「それこそ、志奈さんに聞いてみたらどうかな?真美子さんが今回のお礼に喜びそうなこと。今日の報告も兼ねてさ」

そう言われて、柚鈴はそれもそうだね、と頷いた。




寝る前に、遅いだろかと思いつつ、その後の報告をしたいからと電話の許可を求めるメールを志奈さんに送ったら、すぐに電話が掛かってきた。

「あの、志奈さんの言う通り、丸く収まりました。ありがとうございます」

『そう、良かった』

「それで薫が、志奈さんと真美子さんにお礼がしたいと言ってて」

「お礼?」

志奈さんは不思議そうに言った。

『私には必要ないわ。元々柚鈴ちゃんが困ってたら助けたいって思ってたから、それがその通りに出来て満足よ』

あっさりと言われて、柚鈴は曖昧に笑う。

「ま、まぁ、志奈さんには私もお礼をしたい気持ちがあるので、何かさせてください」

『そうなの?うーん』

志奈さんは少し困ったように考えた。

てっきり喜んで、色々考えるかと思っていたので、拍子抜けしてしまう。

『なんというか、今回の件は柚鈴ちゃんと喫茶店でケーキも食べれたし、満足しちゃっているのよね』

「あ、あれで良いんですか?」

『良いも悪いも、別に大して働いてないから、ピンと来なくて』

志奈さんは欲がない言い方だ。

今回の件を解決したのに、大して働いてない、と言ってしまえる志奈さん。

もしかしてすごく経験値が高いのかもしれない。


志奈さんはそうねぇ、と考えてから何か思いついたように声を明るくした。

『柚鈴ちゃん、GWには帰って来るんでしょう?なら、そこで何か私と姉妹らしいことをしましょう』

「姉妹らしいこと、ですか?」

『そう。それを柚鈴ちゃんが考えてくれることが私へのお礼ってことでどうかしら?思いつかなければ、その友達にも相談して考えて?それなら皆んな、私にお礼をしたことになるわ』

「な、なるほど」

随分アバウトなお願いだったが、それなら確かに薫も参加出来る。

どうせ家に帰ったら志奈さんに戯れられるんだから、最初から計画しておくのも悪くない気がした。


なにか、私もズレてきただろうか?

一抹の不安もよぎったが、気にしないことに、()()()する。


「じゃあ後は、真美子さんが喜びそうなお礼とか、心当たりありませんか?」

『真美子?真美子は簡単よ』

「そうなんですか?」

『生徒会が困るようなことがあったら、助けてあげてちょうだい。真美子はね、あれで後輩想いなの。特に生徒会では真美子なりに色々頑張っていたから、そうしてくれることが一番のお礼になるわ』

「わかりました。そうします」

『うん。よろしくね』

志奈さんの方は、現生徒会の為というより、真美子さんの為に頼んでいる気がした。


後輩の為には頼まないが、真美子さんの為には頼む、ということ?

友達想いなのかな?


この辺りの関係はいまいち良く分からないが、これから少しずつ分かって来るだろう。

そう、これから。


なんだかそう考えると温かい気持ちになってきた。

「志奈さん」

『なあに?』

「私、ちょっと志奈さんの妹になれて良かったなって思ってきました」

『……』

てっきりすぐに歓声でも上げるかと思ったら、志奈さんは聞こえてなかったのかと思うくらい黙りこんだ。

「あの、志奈さん」

『……』


問いかけるけど、返事がない。

電波状況が悪いのかと、窓の近くに進んでいくと、ようやく志奈さんの声が聞こえた。

『ありがとう』

ただ、それだけの言葉だった。

けど、志奈さんの気持ちが伝わって来る気がした。



志奈さんはなんだかとても掴み所がなくて、私を振り回しているけれど、もしかしたら志奈さんも案外一生懸命なのかもしれない。

なんだかそんな風にも思えて来た。


この人が、私のお姉さん

まだまだぎこちないけれど、最初の一歩を踏み出した四月だった

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