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拝啓、お姉さまへ  作者: 一華
4月
20/52

私の居場所 1

文芸部と写真部の合同誌

「憧れのあの人~神7(かみセブン)~」を初めて手に取ることになったが、高校の部誌とは思えないほどの出来だ。

表紙はカラーで厚手の用紙を使用している。部誌の中で紹介される生徒が一堂に会した一枚の写真が使用されているのだ。

真ん中は昨年度の生徒会長である小鳥遊志奈さんが椅子に座り、それを囲むように6人の生徒が写っている。

流石に部誌の中に使用されている写真は白黒だが、それでも1人1人の写真とインタビュー、血液型や生年月日、家族構成に至るまでのちょっとしたパーソナルデータなども掲載されていて、ちょっとしたアイドル雑誌のような作りになっている。

昨年度の文化祭で、特別企画として受注販売した一品で、かなりの評判を呼んだらしい。

文芸部では部誌を見本として展示。

写真部では、文化祭の展示作品の一スペースで、部誌で使用した写真のカラー版を額縁に入れて飾り、かなりの集客だったというから、隙の無い企画だったと言える。

文芸部では、過去最高の発行部数となった一冊であり、そのため保存用として何冊かは部室で大切に保管されているのだ。


その部誌を昼休みの文芸部部室で、幸に招かれ、柚鈴は見ることになった。

文芸部部室で、部員の方々が昼食を取ることは殆どないため、鍵を持って来てくれた幸と2人きりである。

いつもは学食で昼食を取るが、この為に3時限目の休み時間に購買でパンと飲み物を買い、素早く食べてしまってから、部誌閲覧に至っている。


部誌の1ページ目に目次。

志奈さんは最終ページ。

「なんか、派手だね」

写真や見出しを見ながら、思わず言葉が漏れる。

全体写真にアップ写真、穏やかに微笑む志奈さんの写真に添えられた「全校生徒のお姉さま」の文字。


「すごいねぇ、なんか本当に凄い人なんだね」

「そうなんだろうね。なんだか違和感があるけど」

「そうなの?」

思わず本音が漏れると、幸は不思議そうに首を傾げた。

確かに最初から凄い生徒会長と志奈さんのことを知ればこういう反応になるのかも知れない。

「確かに志奈さんは美人だけど、なんかそんな風に憧れの対象とかじゃなくて」

部誌を見る限りでは、沢山の生徒の憧れを受けていた志奈さんは、とても遠い存在に思えだ。

「もう少し、近い人だったんだけどな」

一緒に住んでもいない、同じ学校に行っていたわけでもない私がこんなことを思うのはおかしいのかもしれないけど、部誌で見ている志奈さんはまるで他人の誰かのようだ。


「柚鈴ちゃんがそう思うなら、志奈さんは、柚鈴ちゃんとって近い所にいたんだろうね」

幸はあっさりとそう言った。

「そう思う?」

「うん。だって、志奈さんは柚鈴ちゃんのお姉さん、なんでしょう?」

幸が微笑むと、そうなのか、とするりと腑に落ちる感覚があった。

志奈さんは私のお姉さん。

それは義理だし、そういう形になったということなんだけど、まぎれもない事実だ。

少なくとも志奈さんは、いつでも歩み寄ろうとしていたし、私も嫌なわけではなかった。


でも、そうなると。

隠れていた罪悪感のような気持ちが、顔を出す。

「どうしたの?」

気持ちが顔に出てしまったらしく、幸が覗き込んでくる。

しまったと思うにはもう遅い。

今更引っ込みが付かず、どうしたものかと目線を泳がせてから、ぽつりと、思ったことを口にした。


「私が、家を出て常葉学園の寮に入ったのって、間違いだったのかなぁ、なんて」

「ふへぇ?」

幸は目を丸くして、首をかしげた。

意味が分からないと言わんばかりの表情で、うーん?と考え込んでから、こっちを向き直る。

「そういえば、柚鈴ちゃんってなんで常葉学園に来たの?」

「うっ」

自業自得ながらに、中々言いたくない所を突かれてしまった。

もはや幸の真っ直ぐな目が見ていられず、机に突っ伏した。


あぁ、もう。私のおばか。


「柚鈴ちゃん?」

つんつんと指で突かれ、居た堪れない。

顔を上げて、幸を見ると、キョトンとした顔でこちらを見ている。


幸はずるい。


八つ当たりというか、言いがかりというか。全部、幸のせいにしてしまいたい気持ちになった。

その表情はただひたすらまっすぐで、だから何かを話しても良いかなと思えてしまうのだ。

もう入り口になる、抱えていた言葉の一つは出したしまったのだから、もう少し話してもいい気がした。

上手く伝えることはできないけれど、それも許してもらえそうな気がした。


私は一度顔をくしゃっと歪めてから、最初の言葉を探した。


「ずっと私、お母さんと2人だったから」

「うん」

「小さな頃からお母さんと2人で支えあっていこうって、すっごい力が入ってたの」

「うん」


少しずつ話し始めた柚鈴の言葉を、幸は焦らせることなく相槌を打つ。

そのことに勇気をもらいながら、言葉を探して繋げていく。


「急にお父さんが出来て、それは幸せなことで嬉しいことなんだけど。今まで頑張って力入れてたのが、急に行き場がなくなっちゃったの」

「うん」


そう。行き場がなくなった。

大切で守りたいものがあった時は、自分の居場所なんて疑いもしなかったのに。

本当の意味で何かを失ったわけでもないのに、自分の居場所が分からなくなった。

そのままで良いと、自由にそばに居て良いと言われてるのは分かっているけど、とてもそのことが難しかった。

寂しかった気持ちを、でも誰かに可哀想なんて言われたら立ち直れなくなりそうで、蓋をしていた気持ちを。

ゆっくりと向き合って言葉にしたのは、友達では初めてだった気がする。


「寂しかったり複雑だったりして、でも結婚も反対したくなかったのね」

「うん」

「だから、1人になれる場所を探しちゃったんだと思う。だから、寮がある常葉学園にきたの」

「そうかぁ」

幸は目を逸らさないまま相槌を打っていて、なんだか切ない気持ちになってしまった。

机にもう一度突っ伏すと、幸はつんつんとまた突く。

どんな顔を見せれば良いか分からなくて、構わず顔を伏せたままでいると。


「柚鈴ちゃんが、常葉学園に来てくれて、柚鈴ちゃんと同級生出来て、私は嬉しいし楽しいよ」

「......」

「柚鈴ちゃんは柚鈴ちゃんの考えで常葉学園に来てさ。だから、こうして友達出来たわけでしょう?間違いが一個もなかったかは分からないけど、少なくとも私的には大正解なんだよ」

「…大正解?」

「うん。大正解だよ。常葉学園に来てくれて、ありがとう」

大真面目な声が、体の芯まで届いて。

その言葉に、なんだか温かい気持ちになってしまった。


「ありがとう」

小さく呟くと、幸は幸せそうな声で言った。

「うん。お互い、ありがとうだね。柚鈴ちゃん」

幸の言葉にジンとした。

うん。ありがとう、だ。ありがとうだね。

ようやく顔を上げることが出来た。

そこには、にっこり笑った幸の顔が待っていた。


だけでなく。

ちょうど幸は携帯のカメラで、部誌の志奈さんのページを撮ろうとしているところだった。

「な、何してるの?!」

「へ?だって柚鈴ちゃん、この部誌は文芸部保存用で持ち出し禁止なんだよ!」

「それは知ってるよ。分かってるけど」


慌てる意味が全く分かって貰えず、柚鈴は、さっきまで感じていた幸せの余韻に浸る暇もない。

「ほら、このページ。志奈さんの好きな色とか食べ物とか、貰って嬉しいプレゼントとか色々書いてあるじゃない?いつ柚鈴ちゃんに必要になるか分からないと思って」

「そ、そんなの必要になるか分からないじゃない!」

「必要になってから慌てないように、柚鈴ちゃんをサポートしたいんだよ」


その目がキラキラしていて、楽しんでいるようにしか思えないんだけど。

なるだけ冷静に問題点を指摘する。

「そもそも学園内の携帯使用は禁止事項でしょう」

「そうだよ。写真撮ったらすぐ電源切らなきゃ」

「そういう話じゃない気がするんだけど」

「うん。だから内緒ね」

へらっと笑ってみせた幸ちゃんは最強に見えた。


も、もう言えることがない。

柚鈴は諦めるように、息を吐いた。

何せ、幸の行動は善意なのだ。

善意ほど、恐ろしい無敵の動機はないかもしれない。


写真を撮り終えて、電源を切った幸は、見逃しがないか、もう一度部誌を眺めている。

そこで何か発見したように、息を飲んだ。


「見てみて。この人」

志奈さんのページから、遡って何人めかの特集。

陸上部部長、緋村楓と書かれている。

「昨年度の部長さんだよね」

「だと思う」

常葉学園の体操着で走っている写真が一枚大きく使われていて、横には見出しがついている。


『厳しい指導で数多くの後輩を育て上げた陸上部の名部長』

その言葉を裏付けるように、後輩達を集めて何やら言葉を投げかけている写真や、熱心に後輩の記録を取っている写真が添えられている。


「なんだか、厳しそうな人だね」

幸が呟くのに、思わず即、頷いてしまう。

写真を見ただけでも、緊張感が伝わってくる気がして、とても優しそうには見えない。


凛子先輩はこの人に事態の収拾をお願いしたいと言っていたのだ。

大丈夫なんだろうか。

「なんとかなるといいね」

「うん」

心配になると、昨日の薫を思い出してしまう。

いつも飄々としていた薫があんな風な顔をするなんて思ってもいなかった。

「なんかさ」

「うん?」

「薫になにかしてあげれることないのかな」

「うん...うーん」

幸は頷いてから考えるように唸った。

そして思いついたようにこちらを見て、いたずらっぽく笑う

思わずその答えを期待して、柚鈴は待った。


「とりあえずは一緒に清掃活動、とかじゃないのかな」

一緒に清掃活動。

そう言われて顔を見合わせて。

なるほどな、と思って笑ってしまった。


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