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拝啓、お姉さまへ  作者: 一華
4月
12/52

お姉さま、入学式です 3

「志奈さん、なんなんですか?その格好は」

学園近くの喫茶店に入るなり、柚鈴は疑問を口に出していた。

まるで変装でもしているようなスーツにも帽子にもサングラスにも違和感を覚えて仕方ない。

「ふふ。私は常葉学園では有名人らしいから、目立たないようにしてみました」

「別の意味で目立ってたけどねぇ」

案内された席につきながら、志奈さんにもだけど、クスクスと笑うお母さんにもガックリしてしまう。

よく見たら、志奈さんが着ているスーツもお母さんのものだ。

2人で楽しみながら今日を迎え、過ごしたということだろう。


色々言いたげな顔をしているであろう私を見ながら、流石に室内ということで、帽子とサングラスを外した志奈さんは拗ねたように口を尖らせる。

「だって、常葉学園の入学式の写真は、卒業アルバムにも載るのよ。柚鈴ちゃんの写真に残りたかったもの」

「なんですか、その理由」

反射的に悪態が口に出るが、内心はナルホド、と納得する。

それは確かに志奈さんはこだわるだろう。


ひとまず、注文することにして、メニューを志奈さんに見せた。

お母さんはアメリカン、柚鈴はアイスコーヒーがお決まりだ。

志奈さんは甘党だから、迷うだろうなと思って見ていると、案の定ケーキセットを見ながら考えこむ。

「イチゴのショートケーキと桜のモンブラン、悩むなぁ」

「両方食べても良いのよ?」

真剣に悩みこむ志奈さんに声を掛けるお母さんは、恐らく甘い物を欲しがる志奈さんが新鮮なんだろう。

柚鈴はあまりデザートの類に興味がなかったし、お母さんもそうだ。


「いや、そこで両方頼むのは、心が痛みます」

真剣に答えながらも、選ぶために目を輝かせている志奈さんは子供みたいだ。


つい頬が緩み、水を飲んで間を持たせた。

悩みきった志奈さんは、(すが)るように柚鈴を見てくる。

「柚鈴ちゃん、どっちなら一口食べる?」

「え?どっちも要りません」

「えー」

えー、ではない。不満そうに言われて困ってしまう。

「強いていうなら、イチゴなら食べても良いですけど、イチゴのショートケーキのイチゴ食べたら、意味ないでしょう?」

「あら、イチゴなら良いの?じゃあイチゴのショートケーキにするわ」

にっこり笑って、注文をお願いしてしまった。


い、良いんだ。

当然、諦めるだろうと思っていたので、驚いてしまった。

「本当仲良し姉妹ねぇ」

「そうでしょう?」

なんだか嬉しそうなお母さんと志奈さんの言葉に、はっ!となる。

「何言ってるの、2人で!」

めいいっぱい抗議の意味を込めて言うと。

「まだまだ片想いのようです」

「あらまぁ」

わざとらしく悲しげに志奈さんが言って、お母さんが面白そうに笑っている。


もはや2人はすっかり馴染んでいるみたいだった。

ため息をついていると、志奈さんがところで、と頬杖をついて聞いてきた。


「柚鈴ちゃんにあげたバッチ、何か分かった?」

「生徒会見習いのバッチ、ですか?」

「ぴんぽーん」

無邪気に笑うと、志奈さんは更にとんでもないことを言い出す。

「正解のご褒美に、あのバッチを持って、生徒会入りを許可します」

「な、な、何、言い出しているんですか!?」

「ふふふん。元々、そのつもりで渡したバッチだもの。私と同じ生徒会見習いを体験することで、私と同じ道を進ませる。これも一つの姉妹の醍醐味(だいごみ)よね」

姉妹の醍醐味ってなんだ。

無茶苦茶な志奈さんの悪巧みを聞かされて、呆れてしまった。

「さっぱり意味が分かりません!そもそもバッチを持ってたら生徒会に入れるっておかしくないですか?」

「そんなことないわよ。あのバッチを持って、生徒会長である長谷川凛子に、『小鳥遊志奈の妹です。姉に託されました。生徒会に入れて下さい』って言えば、あとは全部凛子ちゃんがやってくれるわよ」

「一体、志奈さんの名前にどれだけの力があるんですか?」

「教えてほしい?」

志奈さんは無邪気に笑うと、ウェイトレスさんが運んできたばかりのイチゴのショートケーキから、迷わず大きなイチゴにフォークをさした。

その流れにまさか、と引いてしまう。

「教えてほしかったら、あーん、ってして」

きた!

どうしてこの人は、こんなにも一貫しているんだろう。

「志奈ちゃんは、生徒会役員だったの?」

話が見えないのか、お母さんがコーヒーを飲みながら、質問してくる。

「一年、二年と生徒会手伝いをしていたんです」

「あら凄いのね」

「当時の生徒会長が、勝手に決めてしまったので、凄いわけでもないんですけど。私、特待生でもない普通科の西クラスでしたし」

にっこりと笑って答えながらも、目線は柚鈴から離さない。

「柚鈴ちゃん、イチゴ、美味しいわよ」

この人は、本当にもう!


仕方ない、とばかりに、一口でイチゴを食べると、志奈さんは本当に嬉しそうに笑った。

それがまた可愛らしくて、見惚れてしまいそうなほどだから、本当に困る。

思わず速くなりかけた鼓動を誤魔化すように、柚鈴は声を大きくした。


「さ、さあ。なんで、志奈さんの名前に効果があるのか教えてください!」

「はい、教えましょう」

答えると、志奈さんは一口ショートケーキを食べてから、美味しそうに口元を綻ばせた。

「凛子ちゃんは私に貸しがあるのよ」

「どんな貸しでそこまで恩に着せてるんですか!?」

「まあ、人聞きの悪い。別に恩には着せてないわ。どんな貸しかは、まあ凛子ちゃんにも諸事情があるから秘密。常葉学園でどれだけかは分からないわ。一卒業生だもの。たいしてないとは思うけど」


志奈さんはしれっと言い切った。

ゆっくり、慌てず堂々と言われると、妙に突っ込むのが難しかった。

しかし、そこで話が終わられると、私が頑張ってイチゴを食べた理由ってなんだったんだろうか?

何か言ってやりたくはなるが、言葉選びが難しい。


不満そうな顔に気づいた志奈さんは、クスッと笑ってみせた。

そして少し考えてから言葉を繋げる。

「柚鈴ちゃんは特待生なんだから、そこまで生徒会入りするのは難しくないはずよ。柚鈴ちゃんは保護が必要だって凛子ちゃんなら考えそうだし」

意味ありげな言葉に、柚鈴は思わず眉を顰めた。

「保護?」

「私の妹というだけで、柚鈴ちゃんをペアにしようとする子が出てくるかもということ」

さりげなく、とんでもないことを言われる。息を飲んでから、声を絞り出した。

「志奈さんの妹だと、そこまで注目を浴びるんですか?」

「ごめんね、柚鈴ちゃん」

ちっとも悪いと思ってない笑顔で肯定されるので、顔が引きつってしまう。

「志奈さんの妹だと言うことは内緒にしておけば良いんじゃないですか?」

「ええ!?いつまでも内緒なの?そんなの哀しい」

プルプル首を振って、イヤイヤとする姿は、正直かなりわざとらしい。

哀しい、ってなんだ?


「一体なんで、そんなに志奈さんは常葉学園で有名人なんですか」

吐息交じりに質問すると、楽しそうに志奈さん笑った。

「それ、私も知りたいから、分かったら教えてね」

無邪気な様子に、一瞬()まれて。

素直に頷きかけてから、ハッとした。

「それ確認してたら、志奈さんの妹ってバレる可能性が高くなるじゃないですか!」

「はい、期待してます」

志奈さんは、幸せそうにケーキを口に運んだ。


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