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拝啓、お姉さまへ  作者: 一華
4月
11/52

お姉さま、入学式です 2

「はぅー。素敵」

幸が幸せそうに声を漏らす。

もちろん、柚鈴も同じ心境だ。


教室は常葉学園は理事が変わって以来「東・西・南・北」を呼称に使った6クラス

特待生を含めた、勉強に力を入れる特進科に近い東組

いわゆる普通科で、一般教養や特別授業など、多様な授業が盛り込まれる、昔ながらの常葉学園の特色が1番強く残っている北西・南西・西組

スポーツ特待制度などを使用した体育授業に力を入れた南組

芸術・美術に力を入れた北組


それぞれクラス別に受験をしているので、入学式以降にクラス分けが行われるのは普通科の「北西組」「南西組」「西組」3クラスだけだ。


柚鈴と幸は東組

薫は南組

花奏はクラス分けを確認して南西組

と言う風になった。

「薫や花奏ちゃんとは違うクラスなんだね。寂しいなぁ」

幸が言うと、薫はフッと笑う。

「柚鈴と一緒だから良かったじゃない。あんたが東組だってことは私には疑問だけどね」

「酷いっ。でも本当にギリギリだったんだよ。特進クラスはもしかしたら入れるかも知れないけど、特待生は絶対無理だって中学の先生に言われたもん」

とほほと肩を落とす。

「でもそこには入れないと、私立だしお金掛かっちゃうでしょう?別の学校に行くなら寮もないし。特進科入れなかったら、従姉妹と一緒に住みなさいって言われてたから頑張ったの!」

「幸ちゃん、どれだけ従姉妹の人が嫌なの?」

度々出てくる『従姉妹』の話に思わず笑って聞くと、幸はどこか疲れたような笑顔を見せた。

「イヤというか、なんというか」


幸は曖昧に笑ってみせた。

親戚もほとんどいない柚鈴からすると、幸は親戚が多いようで、常葉学園OGである人とか、従姉妹とか、良く話に出てきて羨ましい。

従姉妹のことも心底嫌ってるわけでもなさそうだし、みんな仲が良さそうだ。

元々、人懐こいタイプだし、幸みたいな性格だったら、志奈さんともすぐ打ち解けたかもしれないと思ったりもするくらいだ。

もちろん柚鈴の知らない事情があるのかもしれないけれど、本当に深刻に悩んでいる風でもないことは、なんとなくわかっていた。


はっきりとした答えを言わない幸に、花奏はからかうように声をかけた。

「まーまー。幸ちゃんも来年は私と同じ西3クラスのどこかにいるかもしれないし」

「えぇ!?花奏ちゃん、それどういう意味?」

「西3クラスはいいよー。常葉学園の昔からの特色を一番強く残してるのは、やっぱり西3クラスだもん。高校3年間は一度しかないから、楽しまなきゃ」

幸の悲鳴のような質問を、笑顔で畳み込んで花奏は楽しそうだ。

「酷いよ、花奏ちゃん。冗談にもならないよ」

口を尖らせた幸に、思わず笑ってしまうと、今度は柚鈴の方に恨みがましい目線を向けられてしまう。慌てて視線を花奏に向けた。


「そう言えば、花奏ちゃん。南組は考えなかったの?」

「ぜんぜん」

明るくさっぱりと否定される。

「私はスポーツは部活だけでいいのよ。普通科にいれば、選択授業の幅も広がるし。色々挑戦したいしね」

「私は勉強はほどほどでいいから、理解できないや」

薫は笑って軽く首を振ると、案内板を見て、自分の教室の場所を確認する。

「んじゃ、私は自分の教室行くわ」

薫が言い出すと、花奏もくるりと方向転換した。

「私も行くね。じゃあねー」


薫と花奏はそれぞれ自分たちの教室に行ってしまった。

あとに残された幸に目を向けると

「柚鈴ちゃん、勉強ついて行けなくなったら、教えてね」

「もちろんだよ。一緒に頑張ろう」

すでに不安の固まりになってる幸を、笑って落ち着かせる。


いや、私もすごく余裕ないのだけど、ここは請け負うのが正解、だよね?

心の中だけで、汗を感じた。



入学式は保護者方も見守る中、つつがなく進んだ。

名門校らしくも、緊張感のある厳かな雰囲気の入学式だった。

新入生代表の挨拶として、東組から1人出ていた。恐らく彼女が一年生首席だろう。

明智絵里(あけちえり)さん。

きっちりとした三つ編みと、黒縁の眼鏡が印象的な真面目そうな人だった。

(よど)みない挨拶に同じ一年生とは思えなくて、見とれてしまう。

一年生首席をとれるだけ勉強が出来たら、来年度の特待生枠も楽なんだけど。


誰にも気づかれないように小さくため息が出てしまった。

これに関しては全く自信がなかった。

部活動などせず、頑張って、なんとかしよう。


今日の式は、オトウサンは来れないと言っていた。だから、お母さんだけで来ているはずだ。

入学式が緊張すると言っていたけど、どうだったかな?

一瞬、後ろを向いて探し出したい気分にもなるけど、行儀が悪いので我慢する。


柚鈴と良く似ている外見で、いつも長い髪を一つ結びして食事を作ってくれていた母を思い出すと、なんだか切ない気持ちにもなってしまった。

まだ離れて数日なのに。

早く会いたい気持ちを、どうにか抑え込んで、しっかりと前を向いて時間を過ごした。


入学式が終わると、各クラスごとの記念写真があり、保護者も写ることになっている。

それが終われば、クラスごとに帰宅して良いことになっていた。

入学式前にクラスでの挨拶などは終了しているのだ。


「ゆ、柚鈴ちゃん」

記念写真撮影への移動中に、列が乱れるのも気にせずに慌てふためいた幸が近づいてくる。どうしたのかと振り返ると。

「なんか、い、従姉が来てた!」

「え?」

従妹(いとこ)

意味が分からずに首を傾げると、幸は大きく頷く。

「入学式に従妹が来てたの」

「入学式って親しか来ないんじゃないの?」

予想外の言葉に、そんな言葉しか出てこなかったが、幸は大きく頷いた。


「私もそう思ってたんだけど。うち、両親来ないから、代わりのつもりで来たのかも」

シクシクと哀しむ幸ちゃんに、よしよしと慰める。といっても、頭を撫でるくらいしか出来ないけど。


入学式に参加する保護者といえば、親かと思っていたけど、そうじゃないんだ。

そんなことを考えてから、ん?と思う。

それは親でなくても家族や親戚でも参加出来るということだ。

つまり。

浮かんだ考えに、まさかと思う。


焦って、今出てきた講堂を振り返るが、中の人たちが見えることはない。

完全に油断してた!

家族でも良いなら、あの人が来ないということがあるだろうか?

麗しい義理の姉の姿が満面の笑みで浮かぶと、いないハズがないように思えて来た。


写真撮影の順番は、東組が最初だ。

生徒達が並び終えてから、保護者が加わっての撮影だ。撮り終えるまで、全く確認する機会はない。

落ち着かない気持ちを押さえつけ写真を撮り終え、次のクラスに場所を譲る時になって、慌てて保護者達が案内されている方を見た。


その人はとてもあっさり見つかった。

お母さんの横にいたというのも、勿論理由の一つだけど。

なんというか、やはり目立つのだ。どんな格好をしていても。

まるで保護者の1人のような、かしこまったスーツを志奈さんは着ていた。

なんのつもりか、大きなツバの帽子とサングラスを今この時、掛けようとしているところだ。

ということは、写真撮影の間は外していたということだろう。

柚鈴が自分を見ていることに気付いて、無邪気に手を振っている。

なんの悪びれもない。


だ、脱力する。

「もう帰れるなら、待ってるから荷物をとって来なさい」

志奈さんの横から、お母さんが声を掛けてくる。

仕方ないので手を振って、了解の意志を示した。



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