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拝啓、お姉さまへ  作者: 一華
4月
10/52

お姉さま、入学式です 1

寮に入ってから入学式までは慌ただしかった。

もともと数日しかない中での、寮でのルールや掃除当番などの説明会。

教科書が届いたり、文具や特別教室で使うための道具を取り揃えたり、入学式までに提出しなければならない課題もあって、やる事は山のようだった。


とても志奈さんや常葉学園について、誰かに聞く余裕なんてなく、かと言って電話して本人に聞くのも躊躇(ため)われて。とうとう入学式当日。変化があったとすれば、日々を過ごす内に、(ゆき)(かおる)とより仲良くなったことだろうか?

2人とも、全く柚鈴とは違うタイプだったが、却ってバランスがいいのか、3人でいることも増え、自然と距離が近くなっていった。

呼び方もさん付けが取れ、ちゃん付けや呼び捨てなどになったし。

特に薫は、「さん付け」も面倒そうだっただが「ちゃん付け」は断固嫌がった。

まあ、さばさばした薫らしい、気がする。


入学式の前日は、上級生の始業式。

あくる日の入学式では上級生は休み。

朝、学校へ行く準備を終えて寮の玄関に行くと、(はるか)先輩や凛子(りんこ)先輩を始めとした寮の上級生が待っていた。

どうやら見送ってくれる気らしい。

皆さん一様に私服ではあるが、身なりを整えて、一分の隙もない。


「皆さん、本日は入学式ね。おめでとう」

遥先輩がにっこり笑うと、先輩方はそれぞれ新入生の身だしなみをチェックし始めた。

細かく確認をして、何かあれば丁寧に整えてくれる。


「ごきげんよう。柚鈴さんも制服チェックをしてあげるわ」

遥先輩に目の前に立たれ、あわてて姿勢を伸ばした。

な、なんか緊張する。

ぐるりと周りを回って、服装チェックをされる。

新入生1人1人が、上級生の目で制服の乱れがないか確認されているのだ。


「我が寮から出る新入生に、制服の乱れがあったら困るものね」

にっこり笑う上級生達の表情に、各々、新入生は少し照れたり、焦ったりしている。


迷ったけど、今日のセーラー服は新品の方だ。

おかげで、襟元のバッチ痕を気にせずに済んだので正解だったと思う。

志奈さんのセーラー服は、明日からに備えて、部屋できちんとしまっている。

セーラーのリボンを整えて貰うと、よしっとオッケーを貰った。

後から来た薫はいつも通りの短髪が寝癖が付いていて、先輩方が群れてヘアセットをされている。

一瞬慌てたようだったが、凛子(りんこ)先輩に大人しくするように言われて、肩を竦めて応じていた。

流石の薫も、凛子先輩には逆らわないようだ。


幸は部屋から出るまではゆっくりだったが、何度も鏡を見てチェックしたらしく、綺麗に準備していて、上級生からも褒められていた。

「行ってらっしゃい」

少しドキドキと胸が騒がしい。

家以外でこんな風に送り出して貰えるとは思っていなかったから。

「行ってきます」

自然と出た明るい声に、心の奥までほっこりした。

「柚鈴ちゃん、おはよう」

学園に着くと、明るい声で近づいて来たのは、花奏(かなで)だった。

「おはよう」

挨拶を返すと、花奏はふんふんと柚鈴の制服姿を眺める。

「流石に寮生はしっかり制服着てるなぁ。朝から上級生に身だしなみを見て貰ったんでしょう?」

「良く知ってるね」

「うん。入学式の寮の伝統でしょう?ひとみお姉さまが羨ましがってたからね」

『ひとみお姉さま』

そう呼ぶ習慣は、花奏の家系ではないはずなのだが、どうも本人が好んで勝手に呼んでいるらしい。

一応、遥先輩の知らない所だけで、そうしているみたいだが、常葉学園の制度を最大限に楽しんでいる様子の花奏を叱る人は、いない気もしている。

なんとなく花奏のセーラー服を眺めると。

襟元には、銀のバッチが飾られている。

片翼のデザインだ。


「それ」

「へへ。昨日始業式だったでしょう?助言者(メンター)のバッチを頂いたからって早速昨日いただいちゃった」

花奏は見せびらかすように、くるりと回って見せる。

「学園からのペアの認定も降りたってこと?」

「前持って、先生方には話を通してたもの。もちろん一番乗りだよ」

ピースサインで笑っていると、一緒に歩いていた幸も覗き込んだ。

「うわぁ、これが助言者(メンター)制度のバッチなんだ。いいなぁ、素敵」

既に寮で顔見知りになっていた花奏なので、幸も遠慮なくバッチを見せてもらう。

薫はさして興味なさそうだ。


助言者(メンター)制度のバッチと言えば、あれから陸上部の先輩からのお誘いはどうしたんだろう。

日々の忙しさで、すっかり忘れていた。

気になって見上げてると、気づいた薫はニヤリと笑った。

「何?見惚れてんの?」

皮肉げな物言いは薫の得意分野だ。

柚鈴もいい加減慣れた頃だった。

「うん。さすが先輩方、薫が美形に見えるなぁって」

にっこり笑って、言い返すと

「言うねえ」

薫はにぃっと笑ってから、満更でもなさそうな顔をする。

セーラー服の柄では決してないのだが、髪を整えられた薫はなんだか凛々しいのは確かだった。

同級生や、もしかしたら下級生のにもファンが出来るかもしれない。


「ほら、あんたらいい加減進むよ」

薫は、いつまでたってもバッチの話に花が咲いてる花奏と幸に声を掛けて、進ませる。

のんびり気味の幸を急かすのは、薫の日課みたいになっている。

はあい、と良い返事が返って、校門を進むと、そこに常葉学園の校舎。


古さも歴史もある常葉学園の校舎は、赤茶色の煉瓦造り。

時計台があり、歴史を感じさせるくすんだ深緑の屋根が逆に大きな洋館のお屋敷に来たような印象を与える。

なんだか映画のワンシーンに出てきそうな、うっとりとするほど美しい建物だ。

受験や入学説明会でも来たのだが、入学式となるとやっぱり気分が違った。

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